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第五話 舞い降りる巨人

「何が、起こった」

 唖然とした司令に答えられる者はいない。先程の恐慌が嘘のように、街に沈黙が訪れていた。


 困惑の中、俺達は『歌』を聞いた。コーラスを思わせる未知のメロディーが東京中に響き渡る。


 宙に浮かぶ、燃え上がる赤き光の球体。一瞬、太陽が落ちてきたのかと俺達は錯覚した。それ程までに、それは凄まじい存在感を持って、そこに佇んでいた。


 光と共に、強風が吹き抜ける。ようやく視界が晴れた時、俺達は『孔』を見た。こちらを見た顔には、巨大な孔のみがあった。隻腕・隻足の白き巨人が、空を漂っていた。


「なんだ、あいつは」

「データベースに該当ありません!!」 


 未知との遭遇を前に、オペレーター達は戸惑いを隠せない。同じ気持ちだった。誰もが、同じだった。


「司令、奴は何者なんです?」


 無意味だと分かりながらも、俺は背後の司令に尋ねた。

「さあな」

 司令は困惑しながらも、言葉を紡ぐ。 


「少なくとも、怪獣だ」


 体中に孔を開け、巨人は無機質に歌い続けていた。

 

 大地に亀裂が走り、轟音と共に蒼い炎が噴き上がる。再び現れたボルメラーの姿に、俺達は絶句した。 


 全身ズタボロにされ、片目を失った瀕死の風体。だが、その隻眼には凄まじい憤怒が煮え滾っていた。


 巨体が再び蒼く染まる。次の瞬間、射手さえ凌駕する極太の熱線が高音と共に大気を焦がし、巨人を飲み込んだ。今までを超える凄まじい熱量に、遂に蒸発を始める瓦礫達。悲鳴と警報の中、司令はとっさに叫ぶ。


「距離を取れ、巻き込まれるぞ!!」

 操縦桿を力の限り押し倒し、蹌踉めきながらも飛び上がるロックホーク。 


 次の瞬間、蒼が全てを吹き飛ばす。爆風が港区シェルターを揺るがし、避難民達は悲鳴と共に蹲る。轟音と衝撃の中、乱れるモニター。映像が元に戻った時、街を飲み込み立ち昇る巨大な蒼の火柱が俺達の瞳に飛び込む。凄まじい灼熱が、全てを焦がし揺らめいていた。


 唸り声と共に、凶悪な貌が俺達を睨みつける。俺達は我に返り、操縦桿を握り直した。再びの対峙に、司令室の緊張の糸がピンと張り、全員の額に脂汗が滴る。


 ─直後、戦場に立つ者達は例外なく、異様な気配に気付いた。


 炎が逆回しのように一点へ収束していく。何が起きているのか全く分からなかった。


 いや、正確には『分かりたくなかった』。あんなこと、起こるはずがない。一つの『原因』を除いて、絶対に起こるはずがない。そして、その『原因』は受け入れ難い最悪の真実だった。


「嘘だと、言ってくれないのか」

 司令が、らしくない言葉を呟く。その隻眼に映ったのは、炎を喰らう『孔』達。


 間もなく、無傷の巨人が何事もなかったかのように姿を現した。


 ☆午前七時四五分 千代田区 区立シェルター

 

「押さないでください!!」

「助けて、まだ死にたくないって!!」

「ウチのコ見てませんか!?」


 歌が響き渡る中、シェルターに人々は押し寄せる。シェルターの入り口は乱闘そのものだ。


〈坂田君、早く中へ!! みんな第一ブロックで待ってる!!〉

 携帯から緊迫した健ちゃんの声が聞こえてくる。

「うん、入り口が収まったら行くよ」


 携帯を切り、僕は佇む巨人に息を呑んだ。冷や汗が首筋を伝い、襟は濡れる。


 竜は大丈夫だろうか。僕達は、もう一度ピザを囲めるだろうか。考えれば考えるほど、不安は収まらない。竜の愚痴と苦悩が、今になってリアルに感じられる。僕は、理解者のつもりで何も分かっていなかったらしい。


(─ワンダは、勝てるのか?)


 口に出してはいけない、禁断の疑念。恐慌の中、僕は迷いに立ち尽くすばかりだった。


 突然、袖を小さな手が握る。振り向いた時、幼い少女と目が合う。親と逸れのか、その瞳はうるうるとしていた。


「…わたしたち、死んじゃうの?」


 断言なんて出来る訳がなかった。僕だって同じ気持ちだった。だけど…


(ソーセージピザで頼む)


 僕は、決めた。自分にできる事をするって…


「ワンダが、守ってくれるよ」


 笑いかけ、少女の手を引き走り出す。振り返った時、目が合ったのは安堵の表情だった。

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