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第三五話 雷晶怪獣サンダスタル

 ☆正午二五分 下京区


 サンダスタルは怪獣である。彼、或いは彼女にはただ衝動と本能だけがあった。


(もうすぐ、爆発する)

 

(だから、わたしはあの避難所を巻き込んで多くの人間を道連れにする)


 誰かに命令されたかのようなその足取りに、一切の迷いはない。抹殺対象が何を喚こうと、どんな挑発を行おうとサンダスタルは歩み続けた。


 瞬く間に上昇していく体温に、結晶の背鰭が一つ、地上へ脱落する。蒸気と雷撃と共に爆ぜたそれは、逃げ惑う地上の人間達を数十人吹き飛ばした。


 直後、自分という名の自分の仇を打つかのように、サンダスタルの雷鳴の如き咆哮が大地を揺るがす。残った背鰭達から連続した閃光が迸り、飛び回る戦闘機のうち五機から電力を『徴収』した。自分でも驚く程だったのだろう。今度は五〇〇メートル。送電網という名の『ストロー』を介さずに、これ程の範囲の電気を吸収出来たのは。


(わたしは、死に向かって臨界してるのか)


 死に際の馬鹿力を淡々と受け止め、サンダスタルは進み続ける。全身から紫電を迸らせ、戦車やトーチカを大気もろとも焼き払う結晶の巨体は、降川高校の校舎の眼前まで迫っていた。


 恐慌し、ますます校庭の悲鳴が大きくなっていく。だが、それでも逃げない者もいた。怪我人を庇った彼らは恐怖に震えながらも、その場から離れようとしない。


(まずは、良しか)


 サンダスタルはその様を嘲笑いこそしなかったが、満足はした。完璧とは言い難いが、それでもかなりの人間を巻き込めるだろう。もっとも、そんな事をせずとも凄まじい爆発で逃げ出した者諸共、周囲を吹き飛ばせる。ただ導かれるままのサンダスタルは、その事実に気付けなかった。


 まさにその瞬間だった。異変が、街中に『響き渡った』のは─


 突然、サンダスタルの脳裏に強烈なノイズが迸る。淡々としていた思考を、内部から爆弾でグチャグチャにされたようなその衝撃に、重厚な足取りが停止する。


 人々はサンダスタルとは違う、別の怪獣の咆哮を聞いた。また新手が現れたのか。周囲を見渡すが、それらしいモノは結晶の巨体のみ。


 ─いや、違う。正確には『それらしくないモノ』は見えた。


 オンボロのオープンカーの上から、初老の男が拡声器を掲げている。スマホをテープで括り付けたそれは、怪獣の鳴き声で叫んでいた。


(敵だ)


 突然、サンダスタルの思考が変わった。赤い瞳がギョロリと動き、逃げ出す車を憤怒の形相が睨み付ける。


 怪獣は、本能のままに人類を蹂躙し、多くを殺害する義務を持っている。だが、このサンダスタルにはそれ以上の『義務』と『優先順位』があった。


(敵、敵、敵─!!)


 咆哮で校舎を揺るがし、重厚な四足が矛先を変える。人々は、唖然としたままその背中を見送った。


 大気をバチバチと紫電で焦がし、サンダスタルは車を追い始めた。

 

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