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第二五話 九瀬サワ

 ☆午後六時 ワンダ共同調査キャンプ

  

「九瀬さん、どんな感じかね?」


 不意の声にパソコンから振り返れば、つなぎに身を包んだ壮年の姿。酷く汚れた姿に、あたしは暫く、その人が誰だか分からなかった。


「─社長?」


 社長は、労働者らしい笑みを浮かべて一言。 


「軽食はいかがかな?」


 ☆午後六時十五分 キャンプ仮食堂


 口に含めば、防災用芋羊羹のパサパサした食感。おまけに量も少ない。一九三センチの体には物足りない、本当の意味での『軽食』だった。


「─アルガ以前が恋しいな」


 ノンアルの発泡缶をチビチビと飲む社長。先程の傲慢な姿とは似ても似つかない。


「ワインじゃないんですか」

「来客用のあれで最後だ」 


 我慢出来なかったのか、打って変わって一気に飲み干す。


「─それに、やるべき事もあるしな」


 携帯を掛ける社長。


「車を頼む。いつでも調査に出れるようにしたい」


 連絡する両手は、洗っても取れぬ黒い汚れがこびり付いていた。


「意外と、真面目ですね」

「真面目じゃなきゃ駄目だよ」


 溜め息と共に、外を見つめる。迫りくる闇は、先程と比べ物にならない程濃くなっていた。


「我々のような大企業が駄目になれば、みんな困ってしまう。まぁ、何だ。これが責任というか、『戦う理由』なのかもな」


 戦う理由。この男から聞くとは思ってもいなかったその言葉に、あたしは少し考え込んでいたらしい。


 気付けば、あたしはロケットをぼうっと眺めていた。


 あの日以来、笑ったままの家族。パパも、ママも、妹も、もういない。


 あたしは、あと一人失えば永遠に孤独だ。そして、それは竜君も同じ事だった。


(竜君、帰ってくるかな)


 たかが検診。なのに、あたしの視線はパレス・ベースの方を物憂げに向いていた。


(─いけない。最後の家族くらい、守ってみせるって誓ったのに)


 平静を装い、あたしは社長に向き直った。

 

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