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第二三話 被災地

(お前は、正しくなければならない)


 あの声がした。だから、手伝うと言うと何故か二人は不安げだった。何故だろう。間違った事をするつもりはないのに。


 ─最も、その疑問の答えは今ここにあるのかもしれない。


 ☆午後三時半 京都市街


 瓦礫の山に、竜は両手を突っ込む。歯を食いしばり、力を込めれば巨大な大黒柱はゆっくりと引き抜かれていく。滝のような汗を流し、完全に抜き終わると地面に崩れた。


「お、重っ」


 息を切らす竜を労う者はいない。奇異と驚愕の視線を向けれど、ただそれだけだった。少しざわめき、まるで最初から何も見ていなかったかのように、自らの作業に戻っていく。


「正しい事したのに、何で?」


 小さな瓦礫達を退かしながら、わたしは尋ねる。竜は、苦笑いするばかり。


「自分の事で手一杯なんだ」

「自分の事?」


 不意に、脳裏に言葉がよぎる。


(ワンダは何をやってるんだよ)

(これ以上停電が続くと、我が社は干やがってしまう)


 人間は、あまり怪獣と遠くないのかもしれない。何処までも身勝手で、自分の為なら何だってする。


(でも、何でこんな奴らの為に)


 何とか立ち上がり、作業を再開する竜の二の腕に幾つもの古傷が顔を出す。竜の事だ、きっとこんな奴らの為に付けたに違いない。


 わたしには分からなかった。果たして、あいつらにそんな価値があるのか。そして、それでも何故、あの日にあんな感情を覚えたのか─

 

 その時、瓦礫を掻き分けていたわたしの手が生暖かい感触を覚えた。 


「─!!」


 駆け寄る竜。果たして、わたし達の瞳に血に塗れたしわくちゃの左手が映った。


「やっぱりだ」


 細身ながらしっかりと鍛えられた筋肉に、重量級の瓦礫達が次々と退かされていく。果たして、血塗れの老婆が、骨袋を庇うように横たわっていた。


「暦ちゃん」


 老婆に右手を翳す。優しい光が血を乾かし、傷口を塞いでいく。僅かに息を吹き返した瞳が、無言のままわたし達を見つめた。


「っ─!!」


 目眩を覚え、わたしは膝を付く。いつもとは違う、小さくも複雑な力。ゼージスを動かすより遥かに疲れる。


「大丈夫か暦ちゃん?」


 竜は、老婆を抱き上げる。  


「丁度いい、一旦避難所へ休みに行こう」


 汗を拭い、竜は続けた。


「俺はこの人を避難所病院に送ってパレス・ベースに行ってくる。避難所で休んでてくれ」

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