第十九話 津上隊員
☆五月十九日 正午 ギガント・ベース医務室
─俺は聞き馴染んだ声を聞いた。
「竜君!!」
瞼を開けば、心配気なサワさんと目が合う。その後ろで、木野先生が顔を顰めていた。
「勝ったんですか」
窓の外に広がる瓦礫の街を、何台もの作業車が行き交う。先生は舌打ちし、俯く。
「『今回ばかりは礼と不始末の詫びを言う。だが、馬鹿な真似はもううんざりだ』って。あたしは、先生の味方よ」
皮肉と安堵混じりのサワさんの言葉に、強張った体が解れる。どうにか、守り切れたらしい。
─守り切れた?
「暦ちゃんは!?」
慌てて起き上がれば、激痛が走る。バランスを崩し、サワさんに支えられた。
「あー、それなんだけど」
サワさんはドアへ目配せした。
「入って」
ドアが開き、松葉杖を携えた司令が入ってくる。そして、その傍らには─
「竜」
暦の白黒のオッドアイが、俺を興味深げに見つめていた。
─白の隊服に、ワンダのエンブレムを輝かせて。
「まず礼を言わせてくれ。一条君と津上君のお陰で、多くの命が救われた。本当にありがとう」
司令の言葉に、先生が口を開く。
「だが、正当防衛とは言え、人を殺した事には変わらない。それに、あの超能力。はっきり言うぞ、暦は『怪獣』だ」
「─どういう事ですか」
口答えが癪に障ったのか、先生は答えない。見兼ねたサワさんが口を開く。
「分からない? 怪獣の力に、殺人という弱み。狙われない筈がないの」
はっとした俺に、司令が再び口を開く。
「あれから一週間、考えたのだ。逆に言えば、あの力が脅威ではないと示せば良い。故に、私は彼女を怪獣ではなく、ワンダの一員、そして、ゼージスの共同パイロットの津上暦という人間として扱う事にした」
衝撃の中、俺は呟く。
「戦いに、巻き込むんですか」
「─すまない。だが、これで簡単に手出しは出来ないだろう」
司令の視線が暦を向く。
「それに、本人が望んでいる」
意外な言葉に虚を突かれた俺に、暦は語る。
「竜、あなたについていけば分かる気がしたの。あの時、感じた物を」
何処までも純粋な瞳が俺を貫く。
「正しくないのに、守りたいと思った。あれは、何なの?」
君を巻き込む訳にはいかない。わざわざ死に行くな。俺には、幾らでも掛けられる言葉はあっただろう。だが、口に出そうとした言葉は、容赦の無い現実を前に霧散していった。
人を焼いたあの炎と、この街を守った光。一見、全く別のように見えても、その淵源は同じ所にある。今、目の前のオッドアイはどちらにもなり得る純粋さを湛え、俺を見つめていた。
「竜、わたしはどうすればいいの?」
─俺は決意する。
「絶対に、守ります」
司令は、決意を孕んだ声で号令する。
「一条竜及び津上暦隊員、二人をゼージスのパイロットに正式に任命する」
Operation "Z-GIS"は、今まさに動き出そうとしていた。
記憶無き少女編 完




