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第十七話 教えて

 ☆午後十一時四五分 ゼージスコックピット

 

 くすぐったい。目を開いた時、三匹が心配そうに右腕を舐めていた。目の前には、機械仕掛けの空間にぐったりとする竜。わたしは、しばらく考えた末に気付く。


「助けてくれたの?」


 何故助けたのだろう。わたしのせいで、酷い目にあったのに。


(人間というよりかは『怪獣』かもですねー)


 怪獣は人を傷付ける。そして、わたしもまた怪獣らしい。守る価値なんて無い。わたしは、『正しくない』のに…


 好奇心のまま、そっと竜に手を翳す。優しい光と共に、胸に激痛が迸った。血と共に苦しげに咳き込み、よろめくわたし。苦しみの中、消えかけていた命の炎が息を吹き返すのを感じた。


「こ、暦ちゃん─?」

 ゆっくりと右目を開く竜。


「なんで、見捨てないの?」


 わたしは、問いかけた。


「何やってるんだ!!超能力を使ったら─!!」

 何故か、竜は声を荒げた。


「なんで?」


 わたしは続ける。


「わたしは正しくないのに」


 必死に動かぬ機械をガチャガチャと弄り、叩く竜。回復してもなお、ボロボロのままだ。それなのに─

 

「なんで、助けるの?」



 

 瞬間、振り向いた竜の視線に、わたしは困惑した。




 そこには、悪への憎しみも怒りもなかった。ただ何処までもわたしを案ずる心がそこにはあった。


「正しいとか、正しくないじゃない。俺は、君を助けなきゃいけないんだ!!」


 竜は続ける。


「三年前の件、今でも夢に見るんだ。俺は、何も出来なかった。アルガを倒す事も、街を守る事も、友達との約束を果たす事も!!」


 背を向け、必死に機械と格闘する竜。


「俺が、みんなを殺してしまったんだ。何千万という命を、何千万という明日を─!!」


 竜の表情は分からない。だが、息を整え、少し落ち着いた口から紡がれたその言葉は確かにわたしの耳にこだました。 


「─暦ちゃん、俺は君の思うような正しい人間じゃないよ。みんなの為に、償いたいだけなんだ」


 心配そうに鳴く子猫達。振り向いた竜は優しげな笑みを浮かべた。


「─大丈夫だよ。絶対に守り切る」


 激しく咳き込み、苦悶の声と共に赤黒い血を吐き出す竜。激痛に歯を食いしばりながら、抗い続ける。


「頼む、あと三十秒で良い、動いてくれ!!」


(─竜が、正しくない?)


 決死の叫びをわたしはまじまじと見つめる。あり得ない、正しい心を持つ竜が、正しくない? 矛盾していた。全てがひっくり返り、わたしの心に混沌だけが吹き荒れていた。


 そんな中、わたしは奇妙な感覚を覚えた。正しさとは全く違う、未知の存在。何処までも歪でありながら、温かい。徐々に沸き上がり、はっきりとしていくそれに、わたしは何故か背を押されたような気がした。


 竜は振り返り、驚いた表情を浮かべた。膝の上の三匹もまた、驚愕して固まっている。


「暦ちゃん? おい、何してるんだ─!?」


 わたしから放たれる光が、空間を満たしていく。何故なんだろう? 自分でも分からなかった。きっと、これは正しくない。


 ─だけれど、どういう訳か嫌悪感はなかった。激痛に、薄れゆく意識。わたしは、いつの間にかこんな事を口にしていた


「─あとで、教えて」


 

 ☆午後十一時五五分 ギガント・ベース

 

 サーチライトに照らされ、白の巨体が再び基地へ迫る。折れた鎌を引き摺り、激闘に傷付いた複眼があたし達を睨み付けていた。


「竜君─!!」


 瓦礫に倒れ伏し、動かぬゼージス。滑走路にサイレンが鳴り響く中、あたしは必死に自分と戦っていた。何も思わない訳が無い、動揺しない訳が無い。だが、ベソをかく訳にはいかなかった。


「避難状況は!?」

「駄目です、一部負傷者が取り残されているようです!!」


 目の前の隊員の報告に、あたし達は顔を歪めた。

 

「あの馬鹿!! これじゃ無駄死だぞ!!」 


 木野先生は悔しみ、怒る。


「誰かレーザーブラスターを、ブラスターを貸してくれないか!!」

「司令、無茶しないでください!! 従弟と同じ道を辿るつもりですか!?」

「サワさんの言う通りです。折角脱出できたんです、もし今度命を投げ捨てると言ったら例え貴方でも─!!」


 あたし達の言葉に、司令もまた悔しそうな表情を浮かべた。


 迎撃さえままならず、ヴェルセクトは容易に滑走路へと足を踏み入れる。掲げた大鎌の輝きと共に、金属音が劈く。あたし達は何も出来ぬまま、ただ見ている事しか出来なかった。




 次の瞬間、劈く雷鳴と共に黄金の閃光が天へと掲げた大鎌を撃ち抜いた。


 激しい火花と迸る雷撃、大鎌は砕け散った。突然の一撃に悲鳴を上げ、倒れ伏すヴェルセクト。激痛に悶絶し、土煙を上げ地面を揺らしながらのたうち回る。


「何よ、あれ」


 驚愕し、ゼージスへ振り向いた時、見えたのは『光』だった。神秘的な光が巨大な渦を巻き、瓦礫を照らしていた。


「九瀬君、君の発明か─!?」

「違います、あんな機能を搭載した覚えは─!!」

「サワ、ならあれは一体何だ!?」


 息を整え、ただ目の前の現実を伝える。


「ゼージスが、再起動しました」

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