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第十三話 なんで?

 ☆午後十時半 石ノ谷公園

 

 ミルク瓶が空になる。暦を見つめ、感謝を伝える子猫達。暦は微笑む訳でもあしらう訳でもなく、ただ疑問の表情を浮かべていた。


「なぁ」

「何?」


 三匹は『母』の対応が焦れったく感じたのか、今度は俺のサンダルを舐め始める。


「この子達は?」


 抱き上げられた三匹の行動に、暦は尚更不思議そうな表情を浮かべる。


「お母さんが轢かれたの」

「轢かれた?」


 やっぱり『母』が良いのか。腕の中でバタつく三匹。見かねて離してやると、三匹は再び暦へと群がる。


「車が血で汚れたの。十人くらいの男の人が怒りながら出て来た」


 十人。その数字に、とある記憶がよぎる。


(昨日、怪楽会の幹部『十人』が何者かに襲撃され─)


 はっとした表情を浮かべる俺に、暦は淡々と続ける。


「この子達も殺そうとした。だから、助けた」


 三匹はゴロゴロと鳴き、互いに寄り添い暦の足元で微睡む。


「なんで懐くの?」


 暦はさも素朴な疑問のように投げ掛ける。


「そりゃ助けたからじゃ」

「なんで?」


 真顔で遮る暦。


「正しい事は、当たり前じゃないの?」


 その表情は本当に答えを求めているだけだった。俺は戸惑い、言葉に詰まる。


(─人と話している気がしない)


 独り言を脳内で呟く。だが、俺が抱いていたのはそれだけではない。


(─本当に、これでいいのか?)


 暦は普通の人間じゃない。浮世離れした言動に超能力。怪獣呼ばわりも、間違いではない。


 ─だが、あの傷病兵達も、俺の腕も、小さな命も、救ったのは暦だ。果たして、彼女を閉じ込めていいものなのか? 


 俺達に、暦を化け物として断罪する権利はあるのか?


 ─ジレンマと苦悩の果てに、間違った決意を固める。


「暦ちゃん、帰ろう」

「帰る?」


 オウム返しに、俺はこう答える。


「だけど、約束する。暦ちゃんが人間らしく生きられるように努力する」


 微睡む三匹を抱き上げる俺に、暦は今一ピンときていない様子だった。所詮、エゴかもしれない。


 だが、人助けと言う物はこんな物だ。九のお節介を恐れては、一の悲鳴を救い出す事はできない。結局、俺はそういう人間なのだ。

 

 不意にブレーキ音が聞こえた。 


「いやー、びっくりしましたよー。ここにいたんですね」


 黒塗りの高級車から息を切らしながら内藤さんが降りてくる。


「申し訳ございません。心配させちゃいましたよね。暦ちゃんならここです」


 頭を下げる俺に、暦は不思議そうな目線を投げ掛ける。


「まぁ、続きは車の中で話しましょう」

 

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