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【第二章】「俺なんか」ってどういうことだ

年末の少し前くらいに、役所から成人式の案内が届いた。


俺はまた親友の家に行って、一緒に成人式に行こうと誘ってみることにした。


親友からの返事は、「参加しない」だった。


そうなることは予想していた。成人式の実施時期は、大学入試直前。受験生の彼にとっては、追い込みをかけるべき大事な時期だ。しかも成人式と言えば実質、地元の中学校や高校の同窓会みたいなもんだ。同級生たちが、大学生や社会人になっている中、自分は二浪中ってのも、肩身が狭いだろう。プライドの高い彼の立場になって想像すれば、それが自然な答えだった。


俺はというと、彼が不参加なら、自分も参加しないと決めていた。幼かった頃から、なんでも一緒に行動してきた親友を差し置いて、俺だけ成人式に参加することは、なんだか正しくない気がしたから。


だが、「お前が参加しないなら、俺も参加しない」と親友に伝えた時の、彼からの返事とは、「俺なんかに気を使わずに、楽しんでくれば?」といったものだった。


ショックだった。俺は親友との絆を保つために、成人式に参加しないと決断したのに、親友のほうからその決断を否定されたみたいな気がしたから。


そして、親友の口から「俺なんか」という言葉が出たことが、重ねてショックだった。「俺なんか」という言葉は、自分に価値がないと自認している人間の使う言葉だと思っていたから。


だが、彼をフォローできる言葉を見つけることすらできず、押し黙ることしかできなかった。


ちなみに、大学入試の手応えについて聞いてみると、予備校の授業にはほとんど出席していないらしかった。理由を聞くと、授業がつまらないとか、受験対策なんて自己流で充分とか、いまひとつ的を射ない内容の返答だった。おいおい、それで本当に、有名大学なんかに入れるのか…。


その帰り道、俺は色んなことを思い巡らせながら、繁華街を歩いていた。


「俺なんか」その言葉がずっと、頭にこびりついていた。あの言葉が出た時、俺はどうするべきだったのか。「そんなこと言うなよ」と励ます?でも、今のアイツの自己肯定感を高める要因って何がある?俺なんか、か…。


そして、予備校に通っていないことを知ったのもショックだった。彼は本当に、有名大学に入学する意思があるのだろうか…。


感じたことのない悲しさや不安に打ちひしがれながら繁華街を歩いていると、俺の足は自然と、この前のセクキャバがある方角へと向かっていた。向かってしまっていた。


悲しさや不安のせいにしたら言い訳になるが、その時の俺は、どうしても気を紛らわせたくて仕方なかったんだ。


店の前を通ると、客引きのオジサンはまた、俺に声をかけてくれた。


「いくらで遊べますか?」と聞くと、返ってきた答えは、

「今のお時間は、8000円でご案内できます」

だった。


前回は初めてだからということで、7000円だった。客引きのオジサンは、3〜4ヶ月ぶりなのに俺の顔を覚えてくれていたらしく、今回はそうはいかなかったのは、相手をよく見ていると言うか、さすがプロだなと思った。俺は客引きのオジサンに8000円を払って店内に入った。


2度目で少々、勝手が分かった心境で店内を見渡すと、店内には薄着の女の子が数人いて、出番を待っている様子だった。この中の誰が、いまから俺とイチャイチャしてくれるのかな。そう考えながら待っていると来てくれたのは、キャミソール姿の、ぽっちゃり系の女の子だった。


正直に言うと、ぽっちゃり系は好みではなかった。その時までは、そのつもりだった。しかし、「他の女の子と交代してくれ!」と言う勇気はなかった。そんな俺の内心を見抜いたのだろうか、女の子は「私みたいなぽっちゃり系は、お嫌いですか?」と聞いてきた。俺は咄嗟に「そんなことないよ」と取り繕って答えたが、女の子は、その返事を言い終わるが早いか、俺に向かい合ってまたがって座った。そして両腕を俺の首の後ろに回し、顔に胸を

【セクキャバ描写につき自粛】

女の子が再度、「私みたいな、ぽっちゃり系は、お嫌いですか?」と聞いてきた。俺は咽び泣くような声色で、「好きです!大好きです!」と答えていた。気持ちいい、ずっとこのまま、こうしていたいと思った。すると女の子は、こう言った。「ずっとこのまま、こうしていたいよね?」俺は内心を見透かされて知ることに戸惑いつつも、「はい、そうですね。」と言っていた。女の子は、こう続けてきた。「じゃあ勿論、指名してくれるよね?」俺はまた、「はい、そうですね。」と言うしかなかった。指名を引き出すのが上手だなと思いつつも、やってきた男性スタッフに1000円を払った。今日もまた、約1日分のバイト代を、一瞬で吹き飛ばしてしまった。だがそれでもよかった。そして、女の子の胸の谷間に顔をはさみ込みながら、こう思った。


親友が有名大学にこだわっているのは、どうやら本心ではなさそうだ。しかし、彼の言葉の裏に潜む本心とは、一体何なのか…。


その時の彼の部屋にある問題集は、新品同様のままだった…。

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