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三題噺もどき4

雨の帰路

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくろくじゅうはち。

 



 ぱたぱたと雨が降ってきた。

 砂場に落ちたそれは、小さくシミを作りながら広がっていく。

 それ以外の場所は芝生ばかりが覆っているから、雨の痕跡は見えない。

「……」

 頭上にあるはずの月は分厚い雲に覆われ、星々は昨日以上に見えない。

 雨が降り出す前に帰ろうと思っていたが、誤算だったようだ。もう少し後に降るだろうと高をくくって雨具を何も持ってこなかった。

 まぁ、そうでなくても手がふさがるようなものは持ちたくないので、持ってこないだろうが。

「……」

 久しぶりに公園に来たので、もう少しゆっくりと話したかったところだが、濡れるといけないからなぁ……大人しく帰るとしよう。

 私1人なら濡れたところで何も問題ないのだけど、我が家には、事こういうことに関しては鬼のようになるアイツが居るから。

「……では」

 腰を掛けていたブランコから立ち上がり、出口へと向かう。

 彼らのゴールデンウイークは、いつもよりは寂しかったが、帰ってきたときの喜びの方が大きかったのか、まだまだ話し足りないと言う感じだった。

 私だってもちろん話し足りないのだけど、本格的に降りそうなこの雨の中ではそうもいかないのだ。

「……またくるよ」

 そうとだけ言い残して、家路を急ぐ。

 一応、ブランコが憑いて来ていない事だけ確認して。

 私自身はあまり自覚がないらしいが、アイツ曰く、何でもたぶらかすんですからすぐに懐くのは目に見えてるんですよ―とのことらしい。別にそんな気はないのだけど……それで初めて来たときにブランコが憑いて来ているから何とも。

「……」

 住宅街を走るアスファルトの上は、すでに雨の跡で黒くなりつつあった。

 勢いがあるわけではないが、雨粒が大きいのか染めるスピードがかなり速いように思える。

 すこし速足で帰ることにしよう。

「……」

 そういうつもりではなかったが、今日の格好は上にパーカーを来ていたので、フードを被り、頭だけでも雨から防ぐようにする。

 あまり意味はないかもしれないが、服が濡れるくらいなら大丈夫だろう。洗濯に出せばいいだけの話だ……というと、その洗濯も面倒なんですよと言われるので、極力濡れないように努力はする。

「……」

 まぁ、ぶっちゃけた話。

 吸血鬼というこの身で、その力を発揮して、跳んでしまえば濡れることもないのだけど。

 それはまた少し、お話が違うのだ。この散歩は、息抜きであり、気分転換であるがゆえに、時間をかけなくては意味がない。―と、私は思っている。

「……」

 違和感がない程度に速足になりつつ、帰路を急ぐ。

 こんな時に急襲にでもあったら、案外やられてしまうかもしれないな……そんなことはないと思いたいが。しかしまぁ、あの手紙以降あれからのアクションが何もないのは少々気がかりではある。今考える事でもないか。

「……」

 どういう魂胆で、こんなに時間を空けているのか分かったものではないから、警戒に越したことはない。年始あたりにあった阿呆とは違って、今回のは阿保ではないようだから、油断禁物。雨の日というのは、雨の匂いに紛れてくるのだっていないわけではないからな。

「……」

 こういう阿保を、消しゴムで消してしまうように存在ごと抹消するとか、簡単にどうにかできればいいのだけど、極力そういうのは避けたいのだ。一応、同胞であるから、下手に数を減らすのもなぁ。ただでさえ減っているのに。

 それに、あまり大事にもしたくない。一応、この社会に馴染めるように生活しているのだ。目立ちすぎることはよくないだろう。

「……ふぅ」

 とまぁ、あれこれ考えているうちに、家についた。

 エントランスに入り、軽くポストを見る。

 また変な手紙でも入っていりするかもしれないからな……今日はないようで、なによりだ。

 そのあたりもよく分からないのだ。何もアクションがない。なさすぎる。

 こちらの警戒が解けるのを待っているのなら、間違いだが。

「……」

 備え付けられたエレベーターではなく、階段を使って昇っていく。

 何においても万が一。だ。箱の中で何かあっては対処のしづらさがあるからな。

 雨の匂いがまだするが、フードは取り、視界を確保しておく。

「……」

 スタスタと階段を上りきり、我が家の玄関までやってくる。

 鍵を回し、違和感がない程度に、警戒しつつ扉を開く。

「おかえりなさい」

 手に焼きたてのクッキーの乗ったトレーを持ったまま、迎え入れる声がある。

 見慣れた少年の姿で、立つコイツが、こんな風に当たり前にいることが、私にどれだけ安堵を与えるか。

「……ただいま」

 靴を脱ぎ、玄関の扉の鍵を閉める。

 あぁやはり。今度手紙をよこした奴も、消してしまおうか。

 この日々を脅かすのなら、それなりの覚悟はあるのだろう。





「……何かありました?」

「いや?何もないが」

「……久しぶりの公園はどうでしたか」

「え、なんでわかった」

「そこにいるのは何ですか」

「……隠れるの上手くなったなブランコくん」








 お題:消しゴム・公園・クッキー

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