表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

とある商店街の猫たちの日常

作者: 月影 流詩亜

〖 当店にドレスコードはありません 〗


 私の住んでいる街の喫茶店の入り口に張られている紙に書かれている文字である。

 何故、こんな張り紙が張られているかと云うと……


 カラーン ♬


「ニャァ~ン 」


 タキシード柄の猫タキちゃんとタキシードを着たイケメンのおじ様マスターが迎えてくれる。

 タキちゃんは喫茶店の看板猫らしく堂々としていて人見知りをしない猫ちゃん。


 同じ商店街のお惣菜屋さんの猫であるコロッケとアイリーンの子供だとマスターに教えてもらった。

 父猫のコロッケは普通の茶トラだけど母猫のアイリーンはメインクーンと云う大型の猫ちゃん。

 メークインはじゃがいも、だから間違わないでね……私は間違えた。


〖本日の紅茶 ………… 800円 〗


 どんな紅茶かは、マスターのお任せである。

 コポコポとお湯が沸く音がする。

 あのブラック会社を辞めて良かった。

 高校を卒業して勤めた会社がブラックだったことに気がついたのは、30日連勤した後の休みだった。

 久しぶりの休みで起きたら夕方であり、フラフラと商店街に買い物に来た時に出逢った喫茶店。


 いつの間に出来たのだろう、気がつかなかった。

 働き出して3年、朝は6時に出社して帰りは終電、間に合わないと会社にお泊まり。

 お休みは月に1回、お給料は手取りで10万円を切ることも多かった。


「お待たせいたしました。

 ごゆっくりお過ごしください 」


ベテラン執事のようなマスターは静かにカウンターに戻っていった。


 可愛いティーセットに付いてくるケーキ

 ポットには二杯分の紅茶が入っている。


 トポトポとティーカップに紅茶を注ぐ。

 今日の紅茶は、アールグレイ……レモンみたいな香りがして渋くて重いのに爽やかで美味しい。

 セットのお菓子はチョコケーキ……カロリー爆弾だ。

「美味しい……」


 思わず声が出ると、


「ウニャァーン !」


 当然だ、と言うようにタキちゃんが鳴いた。

 私が紅茶を飲む間、接待するように側に居て見守ってくれているようだ。


 チョコケーキとアールグレイが、こんなに相性が良いなんて知らなかった。

 初めて、この喫茶店に入り《《社畜から人間に戻った》》私はブラック会社を辞める決心をした。

 退職代行を使ったおかげで無事にブラック会社を辞めた私は人間の生活を取り戻すことに成功した。


 言わば、この喫茶店とタキシード猫のタキちゃんは命の恩人なワケでホワイト企業に勤めた今は、すっかりこの喫茶店の常連客に成ったと思う。


 タキシード猫タキちゃんに癒され、紅茶に癒される。


 明日から、また頑張るぞ !

 タキちゃんを撫でながら誓う私が居た。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アタシは猫、喫茶店の看板猫よ。

 父の名はコロッケ、母の名はアイリーン。

 アタシの名前は……名前は、タキシードカメン


 そう、アタシ達 猫社会で有名なネコ屋のオッチャンである七之助が名付け親なの……


 名前の意味を知った時には怒りで爆発したわ


 もー ! もー ! もー !


 ウッシーおばさんみたいに怒っても仕方ないと思うの。

 そんなアタシのご主人様はカッコいいおじ様なんだけど、内気で人見知りが激しい……何で喫茶店をやろうと思ったんだろう。

 まっ、良いけどね。

 代わりにアタシがお客様を接待するから……


 ◇◇◇


 疲れきった女の人が歩いている、まるでゾンビのようにフラフラと歩いていたのが不意に此方を見た。


 チャーンス !

 しめしめ、カモ……お客様だわ。

 アタシは、とびっきりの営業スマイルでカモを呼び寄せる。

 食い入るようにアタシを見るカモ……お客様。


 カラーン ♬


「ニャァ~ン《いらっしゃい》」


 ご主人様の為にも逃がさないわよ。

 アタシの魅力で、みんなメロメロなんだから !


 ご主人様の入れた紅茶を楽しんでいる間、アタシは黙って見ている。

 良い女はガッツカないの、アタシは淑女だからね。


 ご主人様の紅茶に感動したのか、お客様の目から涙がこぼれ落ちた。


「ニャァ~ン、ニャァ~ン 《どうしたの、何処か痛いの ?》」


 アタシは慰める、アフターフォローもバッチリよ。

 ひとしきりアタシを撫で回したお客様は、なにやら決心したようだった。

 人間も大変よね、疲れきるまで働くなんて……

 アタシ達、猫を見習えば良いのに。


 ◇◇◇


 あのゾンビのようだった女の人は、すっかりアタシの魅力のおかげでご主人様の喫茶店の常連客に成った。

 そんなアタシを、ご主人様は褒めてくれる。


「ニャァ~ン、ニャァ~ン《褒めて、褒めて、もっと褒めて !》」


 褒められるのは好き、怒られるのは嫌い !

 今日も喫茶店の出窓で、お客様を呼び寄せる。

 ほら、またカモ……お客様が来た。


 カラーン ♬


「ニャァ~ン《いらっしゃい》」


 アタシは喫茶店の看板猫タキ、今日もお客様をメロメロにする魔性の女の子タキ。

 フルネームは内緒にしてね、アタシとアナタの約束よ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ