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第30話:三対三

 コウモリの短剣を躱しつつ、思考を巡らせる。

 この場において、三人の中で一番の脅威は──間違いなく黒路だ。


 振り返った瞬間、黒路の身体からうぞうぞと大量の蜂が湧き出る。


「っ……これは、不味い」


 というか、こんなの対処法がないだろうと思いながら、拳銃を引き抜き会長の蛇に巻きつかれているコウモリに銃を突きつける。


「止まれ!」


 ピタリ、夥しい数の蜂がその場に静止する。


「ふむ……それは悪手じゃろ?」


 音もなく、見ることも出来ずに、俺の肩に蜂が止まる。

 元々一匹の蜂がゴブリンを仕留めた瞬間に関しては俺達の目では見ることが出来なかった。


 人質による脅迫によって止まったフリをしながら、少ない数をこちらに飛ばすことは充分に想定内だ。


 ぶすり、と刺されながらも突進し、扉を開いて中に黒路を押し込もうとし──掴んでいた肩がすり抜ける。


 黒路の身体が全て蜂に変化して、服だけを押すような形になるが、会長の生み出した虎が俺たちへと突進し、その巨体によって俺の体ごと黒路の大部分が異空間の中に入り込み、俺はすぐに虎の横をすり抜けて出た後に扉を締める。


「高木先輩!」

「はい。任せてください」


 黒路をスキルの中に封じ込めた代償に何箇所も蜂に刺されたが、高木先輩の治療のスキルによりその毒をなんとか耐える。


 全身が酷く痛むが動くには問題がない。


 黒路のスキルは殺傷能力は高いが破壊力は低く、おそらくは俺のスキルの中で暴れたところで大したことは出来ないだろう。


 コウモリは相変わらず縛られたままだし……これならあと一人を三人でボコれば、そう考えているとコウモリは笑う。


「はは、元々、俺は戦闘能力は皆無だ。ババアもマトモに戦うつもりはなかった。けど、俺がこうやって余裕ぶってるのはなんでだと思う?」


 鷺谷が動く。


「こっちの最大戦力を見誤ったな、ガキ共」

「──ッ!!」


 大鎧がまるで弾丸のように高木先輩を跳ね飛ばす。

 吹っ飛ぶ高木先輩を受け止めようとした会長だが、勢いに負けてノビてしまう。


 こ、こっちの最大戦力が……。


 一瞬で形勢は逆転した。

 会長はノビていて、高木先輩は会長の治療のために動けずにいる。


 幸い、蛇はコウモリを拘束しているが……。


 俺のスキルは中にいる黒路を逃がさないために扉を出すことも出来ず、事実上の使用不可。


 単独、スキルなしで……ガチガチの近接戦闘職の鷺谷と戦うのか。

 いや無理だろ。


 仕方ないかと考えて、口を開く。


「あー、鷺谷さん、素晴らしい動きですね。探索の時も寡黙に、けれどもしっかりと周りを確認していたのは俺も見ていて感心しました。とても信頼出来る人だな、と」


 俺が話しかけたことで鷺谷の動きが止まる。


 ……あまり褒められたやり方ではないが、効果的なようだ。

 顔を隠して口も聞かないというのは、分かりやすく対人関係に対して臆病……。


 初対面の俺に対して「おかしいと思われたくない」「嫌われるのが怖い」と感じている状態で、親しい形で話しかけられたら試合の途中なのか終わったのか判別が出来ずに俺の方に合わせるだろう。


「あ、あ……」

「ああ、無理に話さなくてもいいですよ。苦手なことは俺もありますし。ああ、そうだ、後で打ち上げ行きません? あ、兜を人前で外せないなら食事はダメか……ボウリングとかどうですか?」


 と、俺が適当に話しているとコウモリが叫ぶ。


「鷺谷! 時間稼ぎだ!」

「うお、バレた」

「バレるわ、ボケ!」


 蛇に抑えられながらツッコむコウモリを横目に、槍を構え直す。

 無言のまま突っ込んでくる鷺谷だが、その突進はもう見た。


 全力で横に跳ね飛んで回避し、横を通りすぎざまに斬ろうとしてきた剣を槍で防ぐ。


 聞こえてくる足音の小ささと実際の速さのギャップが気持ち悪い。

 身体能力を強化しているというよりかは、鎧を操っているという具合だろうか。


 何にせよ、自動車の突進のようなものだ。

 直接受けることは無理、なんとかして避けていくが、槍の先にかするだけでも腕が持っていかれるような感覚がある。


 なんとか鎧に一発当てたが、異常に分厚い金属音と共に槍が弾かれる。


 ……そりゃそうだよな。スキルで鎧を動かせるなら、簡単に貫かれないぐらい分厚く作るよな。

 だったら狙うのは……関節……っ!


 全力で放った俺の槍は、カチャという音を立てるだけで終わる。

 あ、関節もちゃんと鎖帷子とかで対策してるんですね。


 そのまま跳ね飛ばされて地面に転がる。


「……マジで死ねる威力」

「はは、分かったかクソガキ!」


 たまたま隣に倒れているコウモリと目が合いながら、ため息を吐いて顔を上げる。


「──寝たフリはもういいですよ、会長」


 俺の言葉と共に、会長が起き上がる。


「ご苦労、流石は僕の二本目の右腕だ」


 鷺谷の鎧のその内側。

 分厚い鎧では防げないところから、文字の蔓草が伸びて鎧の内側から鷺谷を縛り上げる。


「なっ!?」


 関節を突いた俺の槍に宿っていた会長のスキルが鎧の内側に入り込んだのだ。


「……これでそちらの三人が戦闘不能。俺たちの勝ちだ」


 俺が勝ち誇ると、コウモリが小さな声で呟くように言う。


「でも……一番お前が怪我負ってない?」

「せいぜい全身複雑骨折しているだけだ」

「キメ顔で言える怪我ではない。……はぁ、分かったよ。俺の負けだ。今時の若者は優秀だこって」

「いや……本気を出されていたら勝ち目はなかったですよ。黒路さんにも、鷺谷さんにも。コウモリは……うん、終始縛られてただけだったな」

「仕方ないだろ! こっちは非戦闘員なんだよ! それにお前ら戦いが始まる前にスキル仕込んでただろ!」


 バタバタと騒ぐコウモリを他所にして、とりあえずモンスターが来たらまずいので全員で俺のスキルの中で体勢を立て直すことにする。


 俺が高木先輩の治療を受けながらスキルの扉を開くと、肌の上に直接ワイシャツを羽織り、濡れた髪をタオルで拭う黒路と目が合う。


「む、湯を借りたぞ。あとシャツもじゃな」


 ひ、人が死闘を繰り広げているときにシャワー浴びてやがった……。

 いや、閉じ込めたのは俺だから文句は言わないけど。


「ふむ、なかなかいいスキルじゃのう。して、戦いはどうなったのじゃ?」

「俺たちの負けだよ、ババア。手ぇ抜きやがって」

「ん、鷺谷も倒したのか。なかなかどうして優秀なことじゃの」

「……それにしても、妙なスキルだな。スキルってのは精神と関係が深いってのが定説だが、どんな捻くれた精神してるんだか」


 二人……いや、鷺谷も含めた三人が俺のスキルをジロジロと観察していく。

 本当にみんな驚くな、俺のスキル。


 個人的には会長のスキルが一番応用が効いて強力な気がするが……。


 そんなことを考えていると、高木先輩が俯いていることに気がつく。


「あれ、先輩。どうかしましたか?」

「えっ、あ、う、ううん。なんでもないですよ。……その私、あんまり役に立たなかったなと思いまして」

「模擬戦だとスキルを使うタイミングが少ないのは仕方ないんじゃないですか?」

「……うん。でも、藤堂くんは一年生なのにすごいなって」


 いや、普通に高木先輩の方がすごいと思うが……。

 先輩は笑ってから俯いて、どこか落ち込んだ様子を見せる。



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