タイトル未定2026/03/22 03:52
間違いなく我々は今、後世の歴史の教科書に載るだろう出来事の中にいる。
特に2020年から今日まで、未来のキッズたちは様々なことを覚えるハメになるだろう。
コロナ、ウクライナ、ガザ、イラン、カルロス・ゴーン…2020年代は呪われた10年と言われてもおかしくない。
そんな中、人類にはまだ一つの大きな希望があるのが救いだ。
そう
習近平という光が。
「冬までに街をつくるだぁ!?」
ドワーフたちがイリスへ忠誠を誓った広場にドンズの素っ頓狂な叫びがこだました。周りを囲むドワーフたちも皆、戸惑うように目を見合わせている。
そんな総勢100人以上が集まれる場所は地下城塞のどの建物にもなく、イリスとラピルを除いた公太郎たちは全員地面に座って今後を詰めていた。魔王であるイリスは、例のドンズの用意した箱の上にちょこんと腰かけ、ラピルは傍らに控えて話の行く末を見守っている。
「あんちゃん、なんでそんな約束をしちまったんだよ」
「それは…あの時はー、そうするしかなかったというかー、勢いというかー…」
真顔のドンズに公太郎は苦し紛れに頭をかくしかなかった。
イリスの義兄であり魔王でもあるフェルズとの約束から幾日が経っただろうか。その間にリュナの傷を治療したこともあり、彼との関係性は最初期よりもかなり柔和になった手ごたえはある。…が、だからといって街づくりの条件を緩和してくれるような男ではあるまい。
「なんとか街をつくらないと、イリス様が魔王でいられなくなってしまうんですー。どうにかなりませんかねー」
「どうにかって、あんちゃんも結構無茶言うなぁ。…おいどうだ、おめぇら?」
呆れた目で公太郎を見るドンズが仲間へ顎をしゃくると、ドワーフたちが一斉にざわめきだす。
「冬まで…って今年の話か?」「あと何日ぐらいだよ」「どんくらいの広さだ?」「場所は?どこにつくるんだよ」「どんな街だ?図面はあるのか?イメージは?」「建材は何を使うんだ?」「街の施設はどんなのがいる?魔王様の城はいるよな?」…などなど。
────…あれ?
難しい顔をしながら丁々発止とするドワーフたちに、公太郎は虚をつかれた気分だった。厳しい条件に眉間へ皺を寄せているが、誰も「そんなの無理だ」と口にしない。具体的な議論…とまでは言えないが、「やるとすれば」というような前向きな話し合いがはじまりつつある。
正直「冬までに街とか、バカかお前は」と罵られるか、話にならないと鼻で笑われるだろうと思って、身構えていたのだが。
しかし、そうは言ってもただ一人、ドンズだけは別であった。
「俺ぁ現実的なとこでよ、今のこの地下城塞を広げていって、魔王サマの村の獣人たちも住めるようにした方がいいと思うんだがね。それじゃあ、だめなのかい?」
「うーん、現実的ねー…」
ドンズの出した提案に公太郎は顎を撫でる。
確かに新規で街をつくるより、はるかに現実的ではある気がする。…ただ、それでフェルズが納得するだろうか。おそらく、たぶん、きっと、しやしないだろうなぁ…
「街は新たに地上でなければならない。わたしは草木もろくに生えぬこの地に、花の咲き誇る街をつくりたいのだ。わたしはわたしの領地に住まう民の子らに、子らが見たこともない、一面に咲く美しい花を見せてやりたい。それはドンズ、お前たちドワーフの間に、これから生まれてくる子にもだ」
口をはさんだのはイリスだった。イリスは魔王モードで威厳のあるしゃべり方をしてるが、箱に行儀よく座っていてかわいい。
その横に控えたラピルは、まぶたを閉じたしたり顔で穏やかにうなずいる。やはりイリスの前では…というか、他の人物がいる前では、あくまでシゴデキウーマンのスタンスを崩すつもりはないようだ。
「そうは言うがな、魔王サマ。お気持ちはありがてぇんだが…キレイな花の前に、皆が安心して冬を越せる場所がいるんだろ?」
「腹の足しにもならぬ花など二の次、と言いたいのだな。お前の言うことはもっともだ。たしかに現実なところで、花などただの飾りだろう。だが、早合点するな。わたしが目指すのは、花を愛でる余裕のある街だ。人々が日々の暮らしに飢えず、凍えず、道に咲く名も知らぬ花に一時の心を安らぐ…豊かな街なのだ」
「いや…そもそも地上は、これからも長く住めるとこじゃねぇ。グリモアの吐き出す魔素で土地は腐っていく一方だしよ。先のことを考えるなら、街を地下へ広げていくってのは悪くねぇんじゃねぇか」
忠誠を誓った相手に反対するのが気まずいのか、しばしば女が髪をそうするように、ドンズが顎髭をくるくると指でもてあそぶ。
「…そうか、ドンズ。地下にいたお前たちは知らんのだな。暴凶竜グリモアの問題はすでに解決している。そこなハムタロの手によって。地上はゆっくりとだが、蘇りつつあるぞ」
「あぁん!?んなバカなことがあるかよ。暴凶竜はどうにかできる類のもんじゃねぇ、自然災害みたいなもんだろが」
「信じられない…というお前の気持ちもわからなくはないが、嘘と思うならば確かめてみよ。地上へ出れば自ずと理解できよう」
「ま、まじかよ…。冗談きついぜ、何者なんだよ…このあんちゃん」
目をまん丸にしたドンズに見つめられ、公太郎はなんともいたたまれない気持ちになった。あれは解決したといっても、大したことをした覚えはないし、なんならしくじったケースだ。
「いやー、はは…はー。まあ…成り行きでそうなったというかー。そんな…大それた者じゃないです、俺はー。…それより、わざわざ地上に行かなくても、証拠はお見せできますよー」
微妙な心の機微を悟られたくないのもあり、公太郎は手早く魔法鞄を探ると、ひと房のブドウを取り出した。イリスたちが酒を造った時の余りである。
「これは2日前にイリス様の村で採れたブドウですー。この色ツヤ、形、実の大きさ、痩せた土地で育つものではないでしょうー?試しに食べてみてもいいですよー、収穫が早すぎたのか、ちょっと酸っぱいですけどー」
「うおおおぉぉぉ、嘘だろぉ!?地下だってイモくらいしか育たねぇってのに、ブドウだとぉ!?」
ドンズの震える手にブドウを乗せながら、公太郎は一つ忘れていたことを思いだした。
「このブドウで造ったお酒も…こちらをご覧ください、もちろんご用意しておりますー」
「「「「「「「酒ッ!!!????」」」」」」
テレビショッピングのような軽いノリで酒瓶を取り出した公太郎へ、瞬間、ドワーフ全員の視線が集中した。街をどうつくるかとの喧々諤々とした議論はどこへやら、広場はたちまち水を打ったように静かになる。
しかし静寂といっても、その場に実の声や音が発生してないというだけのことだ。彼らの血走った眼力は、雄弁に力強く、ともすれば脅迫じみた「よこせ」との異様な波動を発している。
「…あ、あのー、さ…さすがに、この人数だと…じゃんけん…」
じゃんけんでと言いかけて、公太郎は自分の迂闊さに首筋がうすら寒くなった。そんな提案をすれば、全員にいきわたる量など無いと知れれば、たちまち袋叩きにされそうな殺気が、ドワーフたちからメラメラと立ち昇っている。どうやらドワーフにとっての酒の価値を、甘く考えて…というより、全く考えなさすぎたようだ。
ちなみに。
まずい、とあわあわする公太郎の視界の端で、ラピルは薄目を開けてニコニコしていた。いつものアルカイックスマイルではなく、明らかにニコニコしている。公太郎のピンチがよほどお気に召している様子だ。
────まったく、何が「自分を楽しませられなければ殺す」なのか。自称、この世に倦んでるウーマンが、ずいぶん楽しそうじゃないか。
公太郎は心の中でちょっぴり毒づいたが、それすらお見通しなのか、ラピルは「ふっ」とさらに口角を上げた。
一方、掛け値なしの味方であるイリスはそんなラピルの態度を不思議そうに眺めているので、公太郎へ気のきいた助け舟…なんてのは期待できそうもなさそうだ。
…とはいうものの、酒はどう転んだところで足りないものは足りないので、正直に説明するしかない。
「い…今は、この通り…手元に一人一杯分くらいしかありませんー。なにせ、まだ…ブドウの『量』が採れないからですー」
だが公太郎はドワーフが不平不満を口にするよりも先に、「が、しかしー!!」と強く素早く次の言葉を紡いでいく。
「街ができたあかつきにはー!!街が豊かになったならー!!きっとブドウだけでなく、リンゴや他の果物やいろんな作物で、お酒だってたくさん作れるようになるはずですー。そうでしょう、みなさんー!?」
それは公太郎が遮二無二、強引に、話の展開を『足りない酒』というピンチから前向きな方向へもっていこうとしたものだった。特に具体的なプランがあるわけでもなく、なんとなく思い付きでそれっぽく、どうせなら街づくりにこじつけとくか…くらいのものである。
しかし、『ピンチはチャンス』…などという、現実ではまったくそうでもない、一体どこの馬鹿が最初に考えたんだと言いたくなるフレーズは、たまたまこの時の公太郎にはぴったりと当てはまった。
「聞いたか、てめぇらぁ!!冬までに街をつくる!!こん中に、反対のヤツなんざぁ…いねぇよなぁ!!?」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」」」
ドンズの飛ばした檄に、ドワーフたちが地鳴りのような怒声で応える。皆、無茶な目標をやっつけてやろうじゃないかという不敵な面構えで、準備運動とばかりにたくましい筋肉をパンプアップしだしていた。
────え…ええ、酒って…そこまで飲みたいんだ…
広場の温度が一気に5度は上昇した気がする。ドワーフたちの目はギラギラとやる気に満ちており…というか、満ちすぎてもはやガンギマリであり、なんか怖い。
────まあ、街づくりが進むなら…ヨシッ
公太郎は若干引き気味ながら、現場猫のポーズで流した。
TIPS:街とは商業で成り立つ集落、村は農業と畜産が主だった集落とのこと。この流れだと、できあがるのは街ではなく村なんやが…




