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能無し勇者は知恵とLV1魔法でどうにかする  作者: (^ω^)わし!!!
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地下城塞 4

サッカーU-23アジアカップの決勝は日本と中国のカードだった。

久しぶりに決勝までのこったということで中国ではそれはそれは大盛り上がりだったらしい。

サッカーが好きな習近平も観てるのかなと気になるところだ。


とはいえ結果からいうと試合は4-0の一方的な展開で、試合の中盤には中国は敗色濃厚。

フラストレーションの溜まった中国ファンは徐々に「勝てないならせめて相手選手をつぶせ」「あの生意気な奴を(怪我をさせて)思い知らせ」などという意見へヒートアップしていく。


中国の人にとってラフプレーは全力でやったが技術が伴わず、結果的になるものではない。格上に対する勝利の方策のひとつ、意図的に行なうものという考えなのだ。


中国サッカーがいつまでも強くならない理由は、コネ社会なので実力がある者が試合に出られないとか、プロリーグが金満過ぎてハングリー精神がないとか様々に言われるが、実は最も深刻なのはファンたちのこの精神性にあると思われる。


それは「こんなカンフーみたいなサッカーをしてるからダメなんだ」とかいう、言わば「悪いことをすれば、必ずお天道様が見てる」みたいな、森羅万象の理からではない。


まず第一に、実力差があるとはっきりすると、ケガも上等で襲ってくる国と強い国がマッチメイクしたがるはずもなく、結果、成長機会が少なくなる。


第二に、これが最も重要なのだが、仮に中国でメッシのような選手が現れたとしても、選手が成長する過程において国内で草サッカーなど何度も試合をするわけで、そこで狙われ、ケガをする可能性が非常に高い。


こんな環境でスタメンだけで11人、サブまで含めれば20人からのチームを、まともな選手で組めるだろうか。


勝てないなら相手をケガさせろなんてのは、闘争心の発露ではない。畢竟、自分の首を絞めているだけである。


サッカー好きの習近平にはぜひともファンの意識改革をお願いしたいところだ。

 「ここかー」


 路地で出会い、走り去った男の言う通りに進むと、くすんだ赤い屋根の家はすぐに見つかった。周囲に他でそれらしきものはない。ここでほぼほぼ間違いない。

 

 そう確信しているにもかかわらず、公太郎は玄関の扉をノックすることをためらった。


 「大丈夫かー?イリスー?」


 公太郎が振り向くと、人目を気にするように再びフードをすっぽりとかぶってしまったイリスがわずかにうなずく。


 男が逃げ去ってからまだ10分もたっていない。ここに至るまで、イリスは一言も発しなかった。心配したラピルがやや強引に手をつなぎ、引かれるようにやってきただけである。


 ────もう、帰ってしまおうかな…


 しょんぼりしてしまったイリスを前に、公太郎は今日の全部を投げ出したくなった。


 男が逃げ去った後、気がつくといつの間にか、街にたむろしていた他の者たちも、きれいさっぱりどこかへと姿を消していた。「淫魔」というワードに、おののいて身を隠したのだ。男のイリスへの態度が、個人レベルの好き嫌いではないことは明らかだった。


 今だって、物陰から、建物の窓の隅から、覗きこみ、こちらの様子を窺うような不快な視線を背中にひしひしと感じる。街全体が息をひそめながら、「イリス(淫魔)」をまるで部屋に現れた大型の害虫かなにかのように嫌悪し、恐れているのだ。


 バカバカしいったらありゃしない。我らが主さまを侮辱する種族と、一体何の協力ができるというのか。

 

 「コホンッ」


 公太郎の捨て鉢な気分を察してラピルが咳ばらいをした。言外に「しっかりしろ」というメッセージが込められている。とはいえ、ラピルもそれ以上は黙ったままで、自分(公太郎)と似たり寄ったりな気持ちであろうことは彼女の顔を見ればわかった。

 ラピルが言いたいのは、帰るなら帰るで、空気感にふわっと流されるように帰るのではなく、きちっと意志を明確にして…やや大げさに言えば、信念を持ってそうしろ…ということだ。


 確かに…そうでければ、まるでここから逃げ出すみたいで、魔王の一行としてかなり見てくれが悪い。


 ────なら、はっきりと俺が宣言しよう。…ドワーフとの協力は、無しだ!


 「よーし、帰る…」


 「大丈夫ですよ、ハムタロ」


 肚を決めた公太郎が踵を返そうとするのを、イリスが明瞭な声で制止した。


 「お前にも心配をかけてしまいましたね、ラピル?」


 イリスはフードを脱ぎ去ると、堂々と角をさらし、襟元にまとまっていた銀髪を両手でバサリとたなびかせる。うつむいてしょんぼりしてしまった…などとは公太郎の勝手な想像だった。イリスは恩寵を発動する時のような、凛とした顔をしている。


 「まぁ…イリス様…」


 己よりも他人を気遣うイリスに、ラピルがほぅっと感心のため息をつく。


 「黙り込んですみませんでした。…少し、王都での事を思い出して、考えてたんです」


 「…王都って、冒険者ギルドのあれかー?」


 「はい。初めてハムタロに助けてもらった時の事です。さっきのおじいさん、なんだかあの時の人間の方々がわたしを見るような目をしてましたから…どうしてなんだろうって」


 差別に近い扱いを受けたというのに、イリスの様子はいたって平時と変わらない。それどころか先ほどの出来事を、まるで第三者が分析をするような口調だ。そんなイリスに、公太郎は胸が苦しくなった。


 ────無理してるな、イリス。


 平気であるわけがないのだ。冒険者ギルドでの事からは、公太郎ですらまだ鮮明に思い出せるほどの時間しか経っていない。あの時の人間たちがイリスの心につけたグロテスクな傷は、治癒することなく今なおジクジクと疼き続けてるはずなのだから。


 「でも、考えても心当たりはありませんでした。だから、直接…訊きに行きましょう。わからないままは許されません。わたしは知らなければならないんです。だってわたしは、ここら一帯を任された魔王であり、彼らはわたしが守らねばならない民なのですから」


 「まあ…なー…」


 きっぱりとした意志に強く輝くイリスの瞳に、公太郎は決心を翻すより他が無かった。正直…気乗りはしないが、イリスの言葉はもっともだ。ここまで言われちゃあ仕方がない。


 己を否定する者まで包括せねばならない為政者の悲哀みたいなものを感じるが、同時に我が主が誇らしくもある。


 こうなったら、せめて自分が彼女の盾となろう。


 公太郎は意を決して、ドアをノックした。




 「すみませーんー、あのー、すみませーんー…」


 公太郎が声をかけながらドアをたたき、しばらく待ってみたが、内からの応答はない。


 「留守…でございましょうか?」


 「いいえ」


 (いぶか)しむラピルに、目を閉じたイリスが首を横に振る。

 

 「中に人の気配を感じます。衣擦れの音がしますから」


 ラピルには聞こえない微かな音も、獣耳とエルフ耳の4つを持つイリスには捉えられるのだ。


 しかし。


 在宅を察知したイリスの声が屋内まで届いたのだろう。ギシッときしませながら、あきらめたようにドアが開かれた。


 「どちら様?」


 迷惑そうな顔で現れたのは、お饅頭のようなずんぐりむっくりの、恰幅の良い女だった。年齢は…ドワーフを間近で見たのがさっきの男だけなので何とも言えないが、それでも男よりかなり若い。中年…というと差し支えがありそうな感じだ。


 その体型と無造作に後ろでひっつめられた髪に、公太郎はジブリの映画にでも出てくる、肝っ玉母さんを連想した。


 間違いなく成人はしているだろうが、ドワーフということもあり、背丈はちょうどイリスと同じくらいで、そう高くはない。代わりに前腕や二の腕が公太郎の2倍くらいの太さに発達している。


 ボロボロの有様であった路地の男とは異なり、女は地味で質素で、ところどころ当て布はされているが、汚れのない衣服できちんとした身なりを整えている。


 そしてなにより、


 ────シラフだな、この女性。


 開かれた扉からは、むせるようなアルコール臭がするというのに、公太郎は女に酒を嗜んだ様子が無いことを意外に感じた。ドワーフは酒好きのはずだが、女性はそうでもないのだろうか。


 とはいえ、女の外見ばかりを気にしている場合ではない。何より都合がいい。シラフならたとえ相手がこちらに否定的であろうとも、論理的で常識的な意思疎通も期待できるってもんだ。


 公太郎は速攻で頭をサラリーマンモードに切り替えた。


 「お忙しいところ、すみませんー。私は魔王イリス様の従者で、ハムタロと申しますー」


 愛想よく笑顔を浮かべ、腰を折る。染みついた社畜の癖で、合わせて名刺を取り出そうとしたが、そんなものはもちろんない。スカッてしまった自分の指に、公太郎はわずかな頼りなさを憶えた。

 元の世界では、ただ会社と名前を書いただけの紙のやり取りなど、わずらわしいだけの、意味のない行為だと思っていたが、なかなかどうしてそうでもないようだ。


 まあ、無いなら無いで仕方がない。このまま勢いで押し切ろう。

 

 「魔王…イリス…だって?知らないねぇ」


 『魔王』という大仰な単語に女の顔が強張る。厄介事の予感に、女は今にも扉を閉めてしまいそうな雰囲気だ。


 が、公太郎は意にも介さずに質問を浴びせていく。


 「ええ、そうでしょうともー。この度、辺りを治めることになられた新しい魔王様ですー。それで、こちらに…この街の長、ドンズさんという方がおられると伺いまして、ご挨拶にお邪魔させていただいたんですがー。ええっと、あなたがドンズさんでー?」


 ドンズは男なので違うことなどわかりきっている。あえて間違えることで、会話を続けさせながら相手の反応を引き出す、これはテクニックだ。


 「…ドンズはアタシの亭主だよ」


 「ご主人がっー!?これは失礼しましたー。…ですが奥様、ずいぶんとお若いですねー」


 公太郎はやや大げさに驚きの顔を作り、社交辞令を述べる。…とはいえ、本心でもあった。ドンズはこの街で最も年齢が高いはずだ。路地で出会った男ですら、相当な年齢のように思えたが、順当に想像するならさらにその上をいくはず。しかし、ドンズの妻を名乗る女はあまりに若い。


 よそ様の家庭に口をはさむつもりはないが、公太郎はどことなく闇の深さを感じた。


 ────俺もそのうち、こんな風に思われるんだろうな…


 近い将来、イリスやグリを配偶者とする自分の、端から見たやばさに、公太郎は内心でそっと涙を流す。


 「では、ぜひともご主人にお目にかかりたいのですがー、ご在宅でいらっしゃいますー?」


 「…あんた、勘違いしてるよ」


 公太郎の押しの強さに、ドンズの妻がうんざりしたようにため息をついた。


 「…と、言いますとー?」


 「うちの亭主は長だとか、そんなもんじゃない。歳をくってるだけのロクデナシさ。大体、この街にそんな立派な男はいないよ。どいつもこいつも酒飲むだけが能の役立たずだからね…」


 路地の男が口にしたのと同じことを、妻が肩をすくめながら吐き捨てる。


 「長が…いないー…?実は…それ、他の方もおっしゃってたんですが、どういうことなんでしょうー?それではこの街の、コミュニティーが機能しないと思いますけどー…」


 「どうもこうも、その通りだよ。この街はとっくに機能なんかしちゃいない。何十年も前に滅んだのさ。あとは朽ち果て、いつか土に還るだけ。あたし達とともに…ね」


 「と…ともにー…?」


 穏やかではない女の言葉に公太郎は息が詰まった。路地の男とドンズの妻は違うと思ったが、どうもそうではないようだ。両者同じく、どこか自暴自棄で、背中に滅びの陰が差しているように見える。


 その時。


 「その話、詳しく聞かせてください」


 問題の核心に踏み込みつつあるのを察し。イリスが公太郎の横へと並んだ。

TIPS:ドワーフの抱える問題は単純かつ明快で、品が無いもののため、さっさと終わらせたい。

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