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能無し勇者は知恵とLV1魔法でどうにかする  作者: (^ω^)わし!!!
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地下城塞 1

ドラクエ7が来年早々にリメイクされるらしい。

だというのに、公式から最もセンシティブかつ重大なネタバレがされてるというのだ。

曰く、キーファが再加入するとのこと。

これは悪である。悪手である。なぜならこれまでまことしやかにささやかれ続けてきた、6のテリー=エスターク説に比肩しうるキーファ=オルゴデミーラ説が早々に否定されてしまったからだ。

個人的な希望を言えば、キーファは間違いなくオルゴデミーラであって欲しかった。彼の独善と欲望と無責任とともに歩んだ末が、全ての元凶かつ黒幕のオルゴデミーラであるならば、物語として完璧なカタルシスをもたらすからだ。

キーファによって導かれた者たちの手でキーファが倒される。この美しい流れの前では、種泥棒など些末なこと。

なぁに、どうしても気になるというなら、物語にいかほどの関与をしたか、今では全く思い出せないアイラの能力にでも上乗せしておけばいい。6のテリーは見た目やそれまでの演出と実際の能力値のギャップから、弱くともたびたびネタとなる愛されるキャラだったが、アイラは唇の厚さくらいしか印象が残らない悲運のキャラなのだから。

ところで言うまでもないことだが、主人公の名前をどうするかの肚はすでに決まっている。


そう。


習近平

 「本当にここで合ってるのかなー」


 イリスの村から飛竜で西へ2時間弱。グリモアの塒ほど来るものを拒むような峻険さはないが、それなりの高い山の麓にぽっかりとあいた(ほら)の前で、公太郎は首をひねった。


 洞…とは言ってみたものの、目の前に在るのは洞窟やダンジョンの入り口ではなく、「穴」。スケールは直径にして170センチあるかないかだろう。


 「なんだか、動物の巣みたいですね」


 公太郎の横で、イリスも同様の見解を示した。ここに入っていくとなると、イリスはともかく公太郎は身を少し屈めなくてはならない。


 「ドワーフの習性として、彼らは山麓の地下に住まうことが知られております。山は高ければ高いほどよいとされるとか。周辺の山々の中ではこの山が最も高く、条件には合致しております。しかし…」


 ラピルが強張った顔で、懐から1枚のハンカチを取り出した。


 「ふわっ、なんですか、ラピル??」


 突然、後ろから鼻と口を布でふさがれたイリスが、ラピルに抗議の意を示す。


 「イリス様が吸ってよい空気ではございません」


 にもかかわらず、ラピルはじたばたするイリスに動じず、頑なにハンカチを押しつけている。その様は端から見ると完全に誘拐犯の図だが、公太郎はそれもやむなしと思った。

 

 空洞から漂うように漏れ出る風は、ひどく澱んでおり、独特の生臭い臭気を帯びている。どろりとまとわりつく垢とアンモニアの獣臭。そこに吐しゃ物とアルコールの混じりあい、吸い込んだこちらも気分が悪くなる腐った空気だ。


 「うへぇー…」


 空洞の縁で何かが日の光を反射しており、公太郎は「なんだろう」とおもむろに手を伸ばして、即、後悔した。指先に正体不明の半透明のゲル状の液体がついている。

 ぬめぬめとすべるローションのようなものの匂いを嗅いでみる気にはならず、しゃがんで地面の土でぬぐっていると、空洞の天井が目に入り、ゾッとした。小さなものが蠢く気配がする。


 「ひぇっ」という悲鳴を公太郎が上げずに済んだのは、イリスやラピルの前で、最低限のカッコはつけたいという男の意地からだった。

 無数に足のあるムカデ、ミミズ、ダンゴムシ、そしてヒル…それらに類する生物がそこかしこを這いまわっている。ぬめりはそれらの分泌物と、壁面にむした苔などの混合物だろうか。粘液のようなぬめりと蟲だらけの穴は、昔、図鑑かなにかで見た、寄生虫まみれになった動物の内臓を想起させる。


 公太郎は背筋が凍る思いだった。穴の先にどんなものが待ち構えてるかは知らないが、不潔で不衛生、不快度指数の半端ない世界が広がってるのは、まず間違いない。


 ────リュナとグリは、こっちに来なくて正解だったな…


 公太郎はこの場には不在の彼女らが、心底うらやましい気分になった。


 夢見の導きでドワーフとの面談にはラピルが必要だと導かれたこと、使える飛竜が2体であること、飛竜に大人3人で乗るのは厳しいこと、飛竜を扱えるのがリュナとイリスだけであること、などなど諸事情により、現在リュナとグリは別行動にてグリモアの塒へ、資産の回収へと向かっている。


 つつがない行き路であろう彼女らを想うと、逃げ出したくなる気持ちがわいてきそうで、公太郎は頭を振った。


 ────こんな気色の悪い穴、女性が入る場所じゃないわな…


 本心を言えば、自分(公太郎)だって絶対に足を踏み入れたくはない場所だ。しかし、ドワーフたちに会いもせず、黙って帰るわけにもいくまい。


 公太郎は眉間に力を入れてしばらく苦悩すると、覚悟を決めた。


 「イリスとラピルさんはここで待っててくれー。俺が独りで行ってくるー」


 公太郎は悲壮な決意とともに立ち上がると、手土産のブドウ酒の入った袋を手に取った。怖気が顔に出ないように意識したが、おそらく半泣きの情けない表情となってるだろう。


 ────こいつを持ってきてよかった。


 公太郎は腰に佩いた勇者の剣の柄を撫でた。勇者の証ともいえる剣の存在が、自分の矜持を奮い立たせてくれる。


 「どうか、お気を付けください。風の音から計算しますと、この横穴は20メートルほどで、そこから大きな空間へとつながっているようです」


 ラピルも致し方ないと考えているようだ。申し訳なさそうにメガネへ手をやりながら、せめてものアドバイスをくれる。

 見ればグローブと袖の間の素肌には、一面の鳥肌が立っていた。どうやら体も小刻みに揺れている。膝が笑っているのだろう。自分(公太郎)と同じように。


 「了解ー」


 公太郎はラピルに「気にするな」と片手をあげ、穴へと侵入を試みた。


 その時。


 「なに言ってるんですか、ハムタロ。わたしたちも行きますよ?」


 イリスがきょとんとした顔で、当然とばかりに同行を申し出た。


 「「えっ!?」」


 虚を突かれた公太郎とラピルの声がハモる。


 「ちょっと待ってくれー、イリス。こんな(とこ)、女の子が入っていいもんじゃないー」


 「そうです、イリス様。わたくしといたしましては、一刻も早くイリス様にこの場より離れていただきたいほどで…」


 額に脂汗を浮かべて必死に制止する二人をイリスは不思議そうに眺めていたが、やがてゆっくり首を横に振った。


 「わたしが行かなければ、誰がハムタロを守るんですか?」


 イリスは袖をまくって、かわいくちからこぶを作ってみせる。それからおもむろに穴の方へ寄っていき、しゃがんで壁面の天井を覗きこんだ。


 「ちょっ…イリスー!やめっ…」


 できれば純真なイリスには、こんな気色悪い光景を視界に入れてほしくない。そんな公太郎の気持ちなど露知らず、あろうことかイリスは無造作に壁面へと手を伸ばしていく。


 「ヒッ…!!」


 あまりのことにラピルが短い悲鳴を上げた。イリスが指で毒々しい色をしたムカデを一匹捕まえている。


 「見てください。これはドクムカデです。名前の通り、牙に毒があります。咬まれるとシロクーマでも悲鳴を上げるとか」


 なんとイリスは平然な顔でムカデの解説をはじめだした。


 「あ、危ないーっ!!」


 そう叫んだのは公太郎とラピルのどちらだったか。ムカデはしばらくグネグネとしながら数えきれない足を蠢動させていたが、自分が捕獲されたことを悟り、怒りのままにイリスの指へと襲いかかった。


 「ふっ」


 瞬間、イリスの爪が横薙ぎに閃く。斬り飛ばされたムカデの頭はあっけなく地面に落ち、ぽとりと間抜けな音を立てた。


 「このように性格も狂暴です。基本は他の昆虫や生えた苔など何でも食べる雑食ですが、洞窟の天井に潜んで、通りかかった動物の頭上から襲いかかる狩を好みます」


 イリスは動かなくなったムカデをつまはじきで捨てると、再び穴へと手を伸ばす。


 「ヒィッ…!!」


 ラピルがまた悲鳴を上げた。イリスが次に捕まえたのはミミズだった。ムカデと同じように、指先でうねうねしている。


 「脳食いミミズです。知らない間に毛や服などに紛れ、獲物が寝た後で耳から脳へと侵入し、食い荒らします。こいつがいるということは…あぁ、やっぱりいますね、マヒダンゴムシ。これも肉食です。お尻に毒針があり、刺した獲物を麻痺させます。致死毒というわけではありませんが、人間も短時間なら動けなくなりますよ。このダンゴムシが麻痺させた獲物の耳にミミズが入りこみ、仕留め、仲良く肉を分け合う。彼らは共生関係となっており、互いには襲いかかりません」


 イリスはいたって平然と説明をしてくれているが、内容のショッキングさに公太郎は昏倒しそうな気分であった。

 ラピルの方は…と思ったら、いつの間にやら公太郎の腕に絡みつき、声も出せずガタガタと震えている。どうやらこの手の蟲が苦手らしい。


 それから。


 「…こっちのヒルは…吸血とともに傷口へ卵を産み付け…」


 「もういいー!!わかった、十分わかったよイリスー!!ここは危険だ!!イリスがいないと、とても無事ではいれそうにはないー!!」


  このまま放っておくとゲテモノ解説会が延々と続きそうで、公太郎は必死でイリスを制止した。


 「そ…そうですか?他にも面白そうなのが色々いますよ、ここ」


 イリスはまだまだ不完全燃焼で説明し足りないといった風だったが、公太郎の困り顔に、捕まえた生物たちを穴へと戻していく。


 「イ…イリスは、物知りなんだなー…」


 「全部受け売りです。人の王都に向かう途中、少しの間、ドワーフのおじいさんと旅路が一緒で。その時に教えてもらいました」


 「ドワーフ…かー」


 イリスはうなずくと穴の外周をなぞるように指さした。


 「おじいさんはこうも言ってました。ドワーフは住処の入り口に、毒虫が集まる罠を仕掛けることが多いそうです。侵入防止用ですね」


 「つまり…」とイリスが続ける。


 「この先にドワーフが住んでる可能性が高いです」


 得意気にイリスがかわいくちからこぶを作った。


 勝手な想像だが、イリスのこの蟲耐性は、2年にも及ぶ旅の中で培ったものなのだろう。たくましい限りで心強い。


 そして…なるほど、ここを突破すればドワーフにも会えそうだ。空振りの心配をせずに済みそうで、何よりである。


 …だが、仮に首尾よくドワーフとの協力関係が結べたとして、それが脳食いミミズとマヒダンゴムシのような共生関係にまで発展するかは…微妙だな、と公太郎は思った。


 少なくとも、共に生活するなら、この毒虫の罠は絶対遠慮してもらおう。


 そう心に強く誓う公太郎であった。

TIPS:毒虫の罠の毒は、当たり前だがドワーフには効果がない。

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