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能無し勇者は知恵とLV1魔法でどうにかする  作者: (^ω^)わし!!!
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メイドのラピル 2

今度のドラクエ2は元々3人PTだったのが4人PTになるらしい。

これはうれしくもあるが、由々しきことでもある。

3人であればそれぞれの名前は習、近、平でかたかったのに、4人ならどうすればいいというのだろう。

ここはやはりあれか、習、近、ぺ、い…だろうか。

なにせドラクエ2において「ぺ」は特別な意味を持っているのだから。


ゆうていみやおうきむこうほりいゆうじとりやまあきらぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ…

 「こちらはお義兄さまに無理を言ってお借りした、ラピルさんです。お義姉さまのご学友でもあるんですよ」

 「ラピルでございます。この度…イリス様にお仕えすることになりました。皆様、どうぞお見知りおきを」


 イリスの紹介に合わせて進みでたラピルが折り目正しく頭を下げた。それだけでも伝わってくる、無駄のない洗練された所作。きりっと引き締まった細い眉、スッと通った鼻筋、逆三角形のメガネの奥に光る鋭いまなざし。初対面の挨拶でニコりともしないが、半端なく有能なオーラを感じさせる。……さっきの奇行に目をつむれば、だが。


 「あ…ああ、これはご丁寧にー。ハムタロと申しますー。同じく、イリス…さまにお仕えしてますー。こちらの卵は竜の卵で、グリモアのグリちゃんですー」

 「グリだ。ラピルとやら、イリスの従僕であるならば、貴様にもグリちゃんと呼ぶことを許す。よろしく頼む」

 

 これまで学校でも会社でも、間違いなく()()()()()()だった公太郎は、ラピルの纏うデキる雰囲気に気圧されつつ、なんとかグリを含めた自己紹介をこなした。グリの挨拶はやや脳天気すぎるが、空気を和ませるという意味で頼もしくもある。


 「わたしはお義姉さまを迎えにいかねばなりません。ラピル、しばらく任せましたよ?」

 「かしこまりました、イリス様」


 イリスはあわただしく言い含めると、転移魔法を構築しはじめた。


 「えっ、イリスは今からまたフェルズさんのところにー?」

 「はい、わたしが帰ろうとした時、お義兄さまとお義姉さまはまだお話をされてたので、先にラピルを連れてきたんです。ハムタロたちをあまり待たせるのも悪いと思ったので。けど、お義姉さまは転移魔法を修めてませんから、わたしが行かないと。なるべく早く帰ります。いい子で待っててくださいね?」

 「そりゃあ、二度手間でイリスも大変だなー」

 「いいえ、このくらいなんてことはありませんよ」


 イリスがかわいく微笑みながら力こぶをつくってみせる。ただ、正直なところを言えば、ラピル連れてくるならこちらを気にせずリュナと一緒に…と思わなくもなかった。大人として情けないことこの上ないが、グリがいるとはいえ、つなぎ役のイリスを無しに初対面のラピルとこの場に残されるのはかなり気まずい。


 だがもちろん公太郎にそんなことを口にできるはずもなく、イリスはフェルズ領へとんぼ返りしていってしまった。


 ────やれやれ、困ったなー。どうやって場を持たせようか…


 ため息…というほどではないが、ふぅという呼気が気持ち長めになる。ふと視線を感じるとラピルと目が合った。


 「ど、どうもー」


 反射的にぺこりと頭を下げてみる。


 ────うーん、美人だなー。魔族ってみんなこうなのかー?


 バリキャリの美人。ラピルから受けた第一印象は、こうして向き合ってみると一層深まるようだ。メイド服をスーツに着替えれば、一流企業の社長付の秘書とかにしか見えないだろう。


 「…………」


 ラピルは黙ったまま微動たりとせず、口を真一文字に結んでニコリともせず、逆三角形のメガネの奥から射抜くようにこちらを観察している。その真っすぐな視線に見透かされてるというか、値踏みされてる気がして、公太郎はそわそわと落ち着かない気分になった。面接官を前にした時のような感じが近い。


 ────…いや、これは…()()じゃないなー。


 公太郎は胸に沸いたものを即座に否定した。落ち着いてラピルを見返すと、彼女の表情が固いのがわかる。無表情に見えるが、眉間にはやや皺が寄り、切れ長の目にかかるまつ毛が震えている。頬や口元は力が入って強張っている。ラピルもまた緊張しているのだ。


 そりゃあ、そうだった。初対面なのはお互い様。むしろ知らない男を前に、ラピルのような女性が気まずさを感じていても何ら不思議なことはない。


 そうであるなら、やはりこちらが気を遣わなければ。場を和ますような、なにか共通の話題でもないだろうか。えーっと、えーっと、ああ…そうだ。


 「今日は、いい天気ですねー」


 ────あほかー、俺は!


 天気の話をしだした自分に、公太郎は心の中でツッコんだ。


 ────そんな当たり障りのない、上辺だけの見え透いた話をしてどうするー。たちまち会話が終わって余計気まずくなるわー。


 「天気…でございますか?ええ、お洗濯日和ございますね」


 一応の返答してくれはしたが、ラピルの声にはイリスと話していた時よりもやはり固さがある。一旦、仕切りなおそう。ようし、今度こそ…。


 「ご、ご趣味はー…?」


 ────お見合いか!


 額に脂汗を浮かべながら、再び公太郎は心の中でツッコんだ。女性を前にした時の自分の機転の利かなさにはほとほと嫌になる。


 「趣味でございますか?趣味…と呼べるものかはわかりかねますが、暇があれば数学のドリルやパズルをよくやっております。新しいものを街中で見つけると、気がつけば購入しておりまして、リュナ様には『変わってる』と呆れられることもしばしば…」

 「…リュナ」


 リュナ…そうだリュナだ。これ以上ない共通の話題じゃないか。


 「ラピルさんはー、聞くところによるとリュナと学校の同級生だとかー?」

 「左様でございます。リュナ様とはもう10年来になりましょうか…」

 「10年…親友、なんですねー」


 しかしラピルははっきりと首を横に振った。


 「…僭越ながら、親友などではございません」

 「んー?…友達ではないー?10年の付き合い、なのにー…?」


 ラピルの明確な否定に、公太郎はいまいち話が読めず、唸った。


 これは、あれか。リュナはあれで大魔王の娘であり、魔王フェルズの妹だ。そういう貴族的な立場や身分の違いで、安直に友と名のることができないとかそういうのだろうか。

 たとえば、よくアニメに出てくる王子なんかが、友達の立ち位置のキャラから堅苦しく「様」付けで呼ばれてたりしてるあれとか。…視聴してる側からすると、お互いに立場上の一線を引いてて、友達っていうのこれ?って思うこともしばしばあるやつだ。この世界でも、そんな世俗の凡俗な身にはわからない、苦労や配慮が存在するのかもしれない。


 ところが。


 「リュナ様とわたくしは、将来を誓い合った間柄でございます」

 「……んんー??」


 想像していたところとは別の方向からのセリフに、公太郎は一瞬、言葉の意味がわからなかった。


 ────うーん、聞き間違いかなー?


 「わたくしは、いずれ近い将来、リュナ様に嫁ぐ身。許嫁でございます」


 聞き間違いではないようだ。


 「……あ、あぁ、お…おぅー許嫁…な、なるほど。た、多様性…?」


 …なんとなく…本能的な予感として、この話は、深入りするとなんだかとってもめんどくさいことになる気がする。


 個人的にはそういう関係性について別に肯定も否定もないが、地雷原を前にしたような感覚を覚え、公太郎は少し身震いした。


 さっさと話題を変えよう。


 …しかし。


 「わたくし、お二人にお会いしたいと願っておりました。…特にハムタロ様、あなた様には1秒でも早く」

 「え?」


 いつの間に距離を詰められたのだろう。ラピルが目の前に立っていた。


 彼女()の顔には、もはや強張りなど欠片も見当たらない。


 さっきからの公太郎にしてみれば、しょうもない雑談しかできない自分に赤面する気分ではあったが、結果として緊張をほぐすという目的は果たされていたようだ。


 それどころか、なんだかびりびりくる。公太郎(自分)を凝視するようなラピルの視線がびりびりくる。


 相変わらずの無表情ではあるが、メガネの奥のラピルの目は、ビームでも出しそうなほど、意志を伴って公太郎を真っすぐ見据えている。


 「お、俺…ですかー?」

 「左様でございます。ですから…イリス様に無理を申し上げ、こうして一足先に連れてきていただいたのです」

 「は…はぁー…」


 1秒でも早く会いたい…とは、聞くだけなら情熱的な言葉だが、残念ながら浮ついた雰囲気は微塵もない。むしろ、周囲の温度がどんどん下がり、背筋をつめたく冷えた汗が流れる。。まるで喉元に刃物を突きつけられるような感覚。

 ちょうどつい最近、これと似た空気を吸った覚えがある。…スケルトンだったナユタと、やりあった時だ。


 「男嫌いのリュナ様、その心を射止めた殿方が、どのような方か。わたくし、とても興味がございます」


  妖しく光ったラピルの眼光に、公太郎はようやく、自分に向けられているものの正体に気がついた。


 ────敵意。


 ラピルの口調は丁寧であり、声色は極めて平坦で抑揚がなかったが、そこにこめられているものは明らかな敵意だった。

 顔を強張らせていたのは緊張していたからなどではない。押し殺していたのだ、心を。


 「な…なにか、か…勘違いしてるんじゃないかー?俺がリュナの心を射止めたってー?リュナとはそんな関係じゃないぞー。そりゃあ…たしかに、仲良くはしてもらってるが…」


 なにゆえ…初対面であるはずの自分に憎しみを募らせるのか、などと聞くまでもない。ラピルが誠に許嫁であるならば、ジェラシー以外のなにものであろうか。その因果を察せないほどほど公太郎はさすがに鈍くない。それでも、公太郎は一応の弁明を試みた。


 だが。


 「勘違い…?」


 ラピルの眉根がピクリと動く。凍りつくような無表情に表れたわずかな違和感が、許嫁の心を奪おうとする泥棒猫の話など、わずかとて訊く気も許す気もないと雄弁に語っている。


 「いや、本当にー…」


 ────リュナと俺には何もないから!!あんな美人と、俺みたいのに…あるわけな…


 …言いかけて、公太郎は言葉に詰まった。


 思い返してみれば、リュナと出会ってからこれまで、「何もない」とはっきり胸を張って言えるだろうか。正直なところ、心が通ったと思いたくなるような時もあったような、ないような、あったような、ないような……。あれ?どっちだろう??


 悲しいかな、女の子と付き合ったことなんてないから、確信がない。


 いずれにせよ、こんなザマでラピルをどうにかできようか。…よわったな。


 その時。

 

 「下がれ」


 張りつめた空気の剣呑さに、グリが二人の間にずいっと割って入った。


 「ラピル…ハムタロを害するというのであれば、まずはグリが相手になる」


 外見は卵に手足の生えた珍妙さだが、大股で腰を手にやる背中は、さなががら正義のヒーローのように頼もしい。


 「……まぁ!」

 

 そんなグリの姿が心を打ったのか、脇からの闖入者に、ラピルが手をぽんっと叩いて感嘆した。

 瞬間、場に充満したひりつく殺気が、ガラスが割れるように砕け散る。


 「鎮まりください、グリモア様」


 ラピルは2歩後退すると、優雅に恭しく膝をつき、頭を垂れた。


 「わたくしにハムタロ様を害する気などございません。むしろ、その逆でございます」

 「逆?グリには貴様が悋気(りんき)にかられているように見えたが」

 「…恐れながら、そういった気持ちもたしかに…無いとは申しません。リュナ様とは幼少のみぎりよりでしたから、おっしゃる通り、わたくしとしても悋気…少々いじわるをしてみたくなってしまったのです。これも人の心というものでございましょう?…しかし、わたくしが今、申したことに嘘偽りなど一片もございません。わたくしは、ハムタロ様にとても興味が……それはそれは興味津々なのでございます」


 そこでラピルが一旦言葉を区切る。


 数秒ほどの沈黙の後、ラピルはすーはーと3度ほど深呼吸すると意を決したように顔を上げた。なぜだろうか、さっきまで人を八つ裂きにでもしそうな印象だったのに、白い頬にわずかな紅が差している。


 「ハムタロ様は…わ、わたくしの…お、お、夫…となる殿方でございますから」

 「………なんだってー!!??」


 予期せぬ展開に公太郎は素っ頓狂な声をあげてしまった。

 

 「……おっと?おっと、というのは夫…良人のことか?」


 唐突な話に、さすがのグリも困惑したように聞き返す。


 「わたくしは、本日ここに…嫁ぎに参ったのでございます」


 ラピルはどこか恥ずかしげにうなずくと、モジモジとまた顔を伏せてしまった。


 「ちょちょちょちょちょ…待ってくれー!話が見えないんだがー?そ、そういう冗談はやめてくれー!!」

 「冗談などではございません。申し上げた通り、リュナ様とわたくしは将来を誓った仲。その誓いとは『リュナ様の嫁ぐ殿方に、わたくしも嫁ぐ』というもの。わたくしたちが命尽きるまで、共にいられるための誓いでございます。…リュナ様は男嫌いで、恩寵(オリジン)の呪熱のこともございますから、まさか果たされる時がくるとは思ってもみませんでしたが」


 ラピルはスッと立ち上がると、今度こそニコッとはにかむようにほほ笑んだ。


 「不束者でございますが、末永くよろしくお願い申し上げます」




 ────ど、どうなってるのー…


 公太郎はめまいで頭がぐらぐらした。

TIPS:ラピルの勘違いは、あざが消えたリュナが彼女との話の中で公太郎をほめちぎったため。とはいえリュナの好意は本物。よって、その実、まるっきり勘違いでもない。ただリュナと公太郎の関係性がそこまで進んでないだけ。

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