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能無し勇者は知恵とLV1魔法でどうにかする  作者: (^ω^)わし!!!
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メイドのラピル 1

ノーベル平和賞が習近平じゃなかった…


こ…こんなことが、許されていいのか…

 ────2日後、公太郎はグリを伴い、イリスの村から最寄りの転移魔法の転移ポイントへと来ていた。


 「ここに街を造るのか?何もないぞ。ただの地面だ」


 グリがあたりをぐるりと一瞥し、見たままを口にした。その言葉通り、転移ポイント周辺の地形は相変わらず丘がグネグネと波打ち、草木もろくすっぽ生えてない。例外といえば、公太郎が初日に魔法で育てたリンゴの木が一本と風呂が設置された小屋などのキャンプ跡が、ささやかなランドマークのように存在を主張しているだけだ。


 「これからさー。いずれここにイリスにふさわしい街ができるー。俺たちが造るんだー」

 「いずれ?3か月以内に、ではなかったか?」

 「……まあねー」

 

 意気込みを口にしたつもりの公太郎は、グリの冷徹な指摘に頭をかく。


 「そうじゃないとイリスが魔王じゃなくなっちゃうしー…」

 

 フェルズをかわすためとはいえ、無茶苦茶な約束をしてしまった。それでも、必ずやり遂げなければならない。


 だが、ひとえに街と言っても、フェルズはどの程度の規模なら納得するだろうか。ざっと考えてみても、住宅、生産、取引といった各種の基本的な施設を機能させるのは当然として、人口の数もそれなりが必要に思える。イリスの村の人々にそのまま移ってもらうだけでは、どうしたって不十分だ。

 

 ────さしあたって、次にあたってみるのはドワーフかなー。


 公太郎は顎を撫でながら自問した。


 村の戦士グルガの息子、ジルガの言うところによると、イリス領の山にはドワーフがいるらしい。個人的にはかの有名な種族だ、興味深いしぜひとも早く会ってみたい。が、つつがなく協力を得られるだろうか?

 そもそも、この領地の正確な人口分布はどうなってるのだろう。誰がどこで、どんな暮らしをしてるのか。どんな文化や伝統があって、共存は可能なのか。現時点では、そういうことが全くわからない。


 どうにも…手を付けなければならないことは多そうだ。


 「ううん…ローマは一日にして成らず、だなー」


 一度腕をかかげて伸びをし、頭を切り替えると、グリに向き合う。


 「グリちゃんの言う通り、何もないけど、実はそうでもないー。転移魔法の移動地点だよ、ここはー。ここなら、どこからだって魔法でパッと帰ってこられるー。こんな便利な場所、捨て置くのはもったいないだろうー?」

 「それは貴様の言う通りだ。グリにも異論はない」

 

 公太郎はグリのそばでしゃがみ込み、地面に転がる土の塊をひとつ指でつまんでみた。土は黒みを帯びてやや湿っており、力を入れるとやわらかく崩れる。

 この世界での初日、ここでイリスがシロクーマを倒し、フェルズとやりあったのがちょうど一週間前くらい。あの日、同じように触れた土は、カッスカスのウエハースみたいで、雨の日に靴にはねた泥が乾いた後ようだった。毒のような濃度の魔素が薄まり、土地がさっそく良い方向に変化しつつある兆しということか。

 

 「でも…土地的に丘が多すぎるからー、街を開くとなると、もう少し平地が多いとこがいいかなー」

 

 公太郎は腰に手をあて、残念そうにつぶやいた。移動の利便性、物資の搬入、交易、そして防衛。あらゆる意味でこの地点を押さえておきたいのだが、土地が荒れた海のよう波打っていては小屋を建てるのがせいぜいなものだ。


 「…?平地が欲しいなら、丘を平らにしてしまえばよいではないか。グリはここに街という案に大賛成だ」

 「そりゃあ、平らにできればいいけどー」


 重機も無しに基礎工事、想像しただけで恐ろしい。どんな労力と時間がかかることか。その昔、徳川家康は湿地帯であった関東平野を埋め立てて江戸を開いたらしいが、偉大さが身に染みる。


 魔法での土地改良も同じことだ。公太郎一人ではすぐにマナが枯渇し、遅々として進まないだろう。


 「作業に人手と時間がかかっちゃうよー。とりあえず街は別の場所からはじめて、いずれどこかのタイミングでここまで拡張するのが現実的…」

 「ハムタロが望むなら、グリがやってやる。今すぐ」

 「……ええー?」


 忘れ物を取ってきてやる、くらいの軽いトーンでグリが言い放ったため、公太郎はすぐに反応できなかった。


 「ど、どういうことー?」

 「地面を平らにしてやる、と言っておるのだ。この程度、竜なら朝飯前よ。カッカッカ。どうだ、やってほしいか?」

 「…え、え?う、うんー?やって…ほしい、かなー?」

 

 どうにもグリが何をしようとしているのか意図がつかめず、生返事となってしまう。


 「ならば…まずは軽く、あのリンゴの木から半径100メートルくらいでいくか。貴様はそこより後方に下がっておれ。言っておくが、離れても土砂は飛ぶから、魔法で身を守っておかんと泥だらけになるぞ」


 グリはそうして公太郎を下がらせると、手足を卵の中に引っ込め、ミニ四駆のモータのように高速で回転しだすと横倒しになり、勢いよく地面を転がりはじめた。


 ゴロゴロゴロゴロ…ドカングシャッ…ゴロゴロゴロ、ゴロロロロロロロロロロロロロロロロロドガガガガガガガ…


 グリの卵は鶏卵をそのまま大きくしたような形だ。なので当たり前だが、真っすぐには転がらない。それでもリンゴの木を中心に螺旋状にぐるぐると回り、手当たり次第で地面と丘をならしていく。


 「うわわわわわわわわーっっ」


 あまりのありさまに公太郎は大慌てて後退した。飛んでくる土砂で泥だらけ、などとんでもない。ぼけっと突っ立っていれば生き埋めになる。それ以前に、はねあげられた結構な大きさの岩が降ってくるので、まともにあたればそのままあの世行きだ。


 だが作業そのものは、ものの10秒もかからなかった。


 「よし、こんなものか。どうだハムタロ、平地など作るものなのだ。まだまだいけるぞ、次はどのあたりにする?」

 「は…はははー。すげーなー、竜ってのはー」


 腰に手をあて得意げに仁王立ちするグリに、公太郎は苦笑い気味の感嘆を送るしかない。ぐねぐねしていた地面は真っ平になり、半径100メートルの境にあった丘は、丸く抜かれたコルクのように不自然にえぐれている。

 ちょうどサッカーのフィールドが縦に2つ並べられる範囲が、あっさりと整地されてしまった。まあ、周囲に相当の土砂が積みあがってるので、これをどうするかなどの問題もあるが、土地の基礎工事に関してはグリがどうにかしてくれるというのはかなり心強い。


 「今日中であれば、100キロくらいまでグリは可能だ。どうする?やるか?」

 「いやいやー、気持ちはありがたいがー、100キロまでいったらイリスの村もぺっちゃんこだよー。それに、そろそろイリスとリュナがフェルズのところから戻ってくるだろうー。あの…誰だっけ?なんとか…?っていう新しい人もつれてくるはずだー。俺が支度するから、先にお風呂に入ろうかー。泥だらけだぞー?」

 「ふむ、風呂か。いいだろう。苦しゅうない」

 

 全身が茶色になったグリを促し、公太郎は風呂のある小屋に向かった。


 今朝、イリスの村から転移ポイントまで飛竜で移動したのち、イリスたちは領地的に隣接するフェルズ領まで転移魔法で飛び立っていった。

 イリスによると、まだ卵の姿とはいえ、竜という強大な存在をを勢力に加えたことは、さすがに未報告というわけにはいかないとのことだ。

 もちろん、立場上は上下のない同じ魔王。わざわざイリス本人がお伺いを立てるようなことをしなくても…と公太郎は自分が出向くと主張したが、なにやらついでに人材をひとり引っ張ってくるつもりらしい。なんでも、リュナの学友だとか信奉者だとか、聞いただけではなんかよくわからないがそんな感じの人を。

 

 ともかく、そういった事情で、公太郎とグリは移動ポイントにてお留守番をしている。


 「そういえばー、グリちゃんは卵だから前後がわかりにくいんだよなー。お風呂の後に、目印でも書いていいかなー?」

 「目印?そんなもの、必要か?」


 風呂のお湯を沸かす間に、グリを水魔法による流水でざっと洗う。


 「つるつるの卵に話しかけるのは、なんというか、落ち着かないんだよー。顔を見て話してる気がしないっていうかー」

 「ふぅん?貴様がそう思うなら、別に異論はない。ハムタロの好きにするがいい」

 「ありがたいねー。…じゃあ、へのへのもへじでも書くかー」

 「なんだそれは」

 「俺の元いた国の簡単な文字絵だよー。この世界には二つとない、特別性だぜー?」


 くだらない会話をしながら、準備の整った湯船にグリを入れる。お湯につかった卵を見ると、温泉卵を作ってる気分だ。

 程よくゆであがった温泉卵に醤油をひとさし、かき混ぜて炊き立てのごはんと一緒にかきこむ。これがまあ、うまい。

 そういえばイリスの領地に温泉は湧いてるのだろうか。今度聞いてみよう。



 

 「帰ってきたようだな」


 ぴかぴかになった卵の殻に公太郎が木炭でへのへのもへじを書いていると、グリが空を指さした。誘われて見上げると、転移魔法の光が昼間の流れ星のように光跡をともなって近づいてくるのが見える。

 しかしこの時、公太郎がより気になったのはグリのほうだった。木炭で書いただけのへのへのもへじが、本当の顔であるかのごとくグリの言葉に合わせて眉毛や口の「へ」や目の「の」が動いている。


 ……いやこれどうなってんの。


 ドンッ。


 公太郎の疑問をよそに、重たい着地恩を立ててイリスの飛竜が転移ポイントに到着した。飛竜に乗ったまま転移魔法で飛んできたらしい。だが飛竜の手綱は見知らぬ若い女性が握っており、イリスはその背後に同乗している形であった。あれが(くだん)の人材だろうか。


 女性は白と黒を基調としたフリル付きのエプロンドレスを身にまとっている。ショートボブにまとめられたプラチナブロンドの髪の上には、同じくフリルのある白黒のヘッドドレス。いかにもバリキャリといった逆三角形のフレームレスグラス。白い手袋に、ガーターベルトで留められた白のニーハイソックス。靴は磨き上げられた光沢のある黒のローファー。


 早い話が、メイドさんだった。ただし、例えばメイド喫茶にいるような()()()()なかわいいタイプのメイドではない。ちょっとうかつには近寄りがたいというか、一切のミスなく仕事をこなす本職の方のようだ。


 「ハムタロッ、グリちゃんっ、ただい…」

 「お待ちください、イリス様」


 イリスが元気に飛竜から飛び降りようとしたが、即座にメイドがそれを制止する。

 そのままメイドは見た目通りの無駄のない、スキのない動作で音もなく飛竜より降りると、「さあ」とばかりにイリスへ両手を広げてみせた。


 「ラ…ラピルったら、もうっ!!わたしは子供ではありません!?ひとりで降りられます!!ハムタロの前で…は、恥ずかしいから、やめてください…」


 イリスはちらちらと公太郎たちの視線を気にしながら、赤くなってラピルと呼ばれたメイドに下がるように促した。


 「まぁ…そうでございましたか。それでは、こちらへどうぞ」


 主に心得たとラピルはうなずくと、ピカピカのエプロンドレスや手袋を一寸も気にすることなく、その場で地面に手をつき、四つん這いになる。


 「な、なにをしてるんですかっ、ラピル!?」

 「どうぞ、わたくしの背中を踏み台にして、安全にお降りください」

 「そ、そんなことしませんっ!!」

 

 ラピルの奇行に、穏やかなイリスが思わず大声をあげて拒否した。



 …どうやら、変な人がやってきたらしい。

TIPS:ラピルはリュナの同級生。心配性で過保護。ナイスバディ。

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