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能無し勇者は知恵とLV1魔法でどうにかする  作者: (^ω^)わし!!!
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竜の救済 5

難易度エキスパートではじめたスパロボがかなり難しい。

相手の戦力のほうが常に上なので、ストーリーの緊迫感を手ごたえとして実感できるのがとてもいい。

簡単だとやっぱりすぐに作業になっちゃうから。


ところで主人公の名前は変える派?変えない派?


わしはもちろん、習近平…さ!


 「愛してるよ、グリモア。1000年前から、ずっと」


 時が停止したかと錯覚するほど長い口づけのあと、ナユタが微笑んだ。


 「あの日、オレはお前を『友』と呼んだが…あれは嘘だ。『それ以上』だ。未熟なオレは自分に自信が持てずいいだせなかったが、あの頃からお前に首ったけだ」


 「ナ、ナユタが…我を…」


 頬を上気させ、夢にまどろむようなとろけたグリモアの瞳が、はっと見開かれた。


 「わ…我も、我もだ!!我も、ナユタを愛しておる…。この1000年、ナユタだけを想っていた…」


 あわてて自分もと、食い気味に想いをぶつけてくるグリモアに、ナユタがうなづく。


 「すまない、ずいぶん待たせてしまったな」


 「……よい。いいんだ。…二度と逢えぬとあきらめていた貴様と、再びまみえられた。万感の想いを交わせた。これ以上のことはない。長い時を…滅びを渇望してきた身なれど、生きてきて…1000年生きながらえてきて、本当によかった…」


 眉を寄せて悔やむナユタに、グリモアがフルフルと首を振って応えた。無粋な鎧越しではあるが、わずかな逢瀬の時を噛みしめるように、ナユタの胸に手を添え、頭を寄せる。


 その時。

 

 「…あっ、あああああっっ!!!!」


 突如、グリモアが天に向かって叫びをあげ、胸を掻きむしりながら、その場にくずおれた。


 「グリモアッ、どうした!?」


 異様なグリモアの様子に、ナユタだけでなく、短い時であってもせめてふたりの邪魔はすまいと黙っていた公太郎も動揺する。


 「こ、これは…なにが起きたんですか、ハムタロ?」


 雰囲気の変化を察し、公太郎の背に寄りかかって眠っていたイリスも目覚めた。不安げに公太郎のシャツを握り、肩からのぞくようにあたりを探り見る。


 「わからんー」


 公太郎はイリスに短く応えたものの、起きている異変は明白だった。グリモアの、竜の本体が、光を発している。鋭く尖るような光ではない。闇に浮かぶような淡い蛍光だ。


 「魔素が…薄くなってきているわ。…急速に」


 リュナが公太郎とイリスをかばうように前に立った。とはいえ、戦斧(ラブリース)を手に警戒はしているが、臨戦態勢に移ったというような雰囲気ではない。あくまで不測の事態への備え…おそらくリュナも感じているのだ、この変容は害意あるものではないと。


 「たぶん、臭いもだなー。とっくに鼻がやられてよくわからんがー、空気が澄んだ気がするー」


 リュナへの賛同代わりに気づいたことを述べてみる。鼻を通る空気が、夜の冷たさを伴って心地よい。浄化だ、と公太郎は思った。グリモアから放たれる粘りつくような魔素が、悪臭が、真夏の炎天下に置いたひとかけらの氷のように、あっという間に溶けて消え去っていく。



 「…………か…叶った…」


 皆の視線の中心で、わなわなと肩を震わすグリモアが両手の平を見つめながらつぶやいた。


 「叶った…叶ったんだ!!わ…我の『天啓』がっ…今ッッ!!叶ったんだよ…間違いない、はっきりとわかる。…『ナユタを我以上に育てる』という命題が、成就したッ!!」


 開いていた手を握りしめ、大それたことを発見した子供のように頬を赤らめたグリモアが飛び上がる。


 「こ…これが、こんな簡単に叶うものなのか…。我は…難しく考えすぎていた。『天啓』はナユタが我より強くなること、即ち…我を滅することでこそ…『成る』と思い込んでいた。……だが…違う。そうではなかった。ナユタの強さなど畢竟(ひっきょう)…どうでもよいのだ。命題の正答は、我の中、我の心にこそ在る。『我以上に育てる』とは、我にとって、己よりもナユタを想い、愛することに他ならない!!」


 夢中になって早口でまくし立てるグリモアのぼさぼさの髪が、細やかな手入れをされたようにさらさらと光沢を帯びていく。それだけではない。落ちくぼんでいた目が、かさかさの唇が、傷んでいた肌が、ひび割れた爪が…彼女を形作るすべてが、みずみずしいハリを取り戻し、艶めきだつ。

 

 「ああ…なんと、我はなんと愚かだったのか…。つまるところ『天啓』など、1000年前にとうに叶っていたのだ。そんなことに気づかぬとは。あとは、気づくだけだった。気づけばよかったのだ。我は…この世の誰よりも、我自身よりも、ナユタを愛しているとっ!!」


 感極まったグリモアが、今度は自分からナユタと唇を重ねた。


 「わ、わ…グリモアさま…お綺麗です…」


 公太郎の肩越しにふたりを見つめるイリスの指に、ぎゅっと力がこもる。イリスのいう通り、グリモアは綺麗だった。今の彼女にはもはや苦悩に満ちた陰鬱な呪われた女といった面影はひとかけらもない。これを生命の息吹というのだろうか。生命力がオーラとなって、花開くようにグリモアの全身から放射されているようだ。


 …違う。『ようだ』などとの比喩ではない。実際グリモアは淡く光っている。竜の本体と同じように、分体である彼女もまた、やわらかな蛍光を纏っていた。

 そして、それが伝播するように、ナユタの体も輝きに包まれはじめる。


 「…()がきたようだ」


 「グリモア、その体は…?」


 淡い光とともに穏やかに微笑むグリモアの肩をつかみ、ナユタがこれから起こる事態を察したように眉を(ひそ)めた。


 「どうやら…ともに逝けるらしい。夢の叶った竜はその生涯を閉じるものなのだ。ありがたい…まさか我がこのような最期を迎えられるとは」


 「なんだと…バカなッッ!?なんで…そんなことになるっ!てっきりオレは…お前はこれからもっと幸せになって…」


 たちまち気色ばむナユタに、グリモアが静かに首を振る。


 「情けない顔をするな。我は今、言い表せないほどの多幸感に包まれているのだ。これ以上はない、我が身には十分すぎる。それにナユタよ、貴様はせいぜい己の心配をするがいい。竜の…我の伴侶となったからには、魂が天に還ろうと…決してもう離れてなどやらん。覚悟せよ。我の愛は、貴様の想像しているよりもずっと重いぞ?…ふふっ」


 「クッ…」

 

 邪気のないグリモアの笑みに、ナユタが言葉に詰まる。ここからナユタに打つ手はない。ナユタ自身にも時間は残されておらず、すでに体は粒子へと分解がはじまっているのだから。


 ならば。


 「覚悟…か。オレの魂は、1000年前からお前とともに在る。今さら…さ」


 ナユタはグリモアの滅びを受け入れ、力いっぱい彼女を抱きしめた。


 それを機にグリモアとナユタを包む輝きが一層増していく。公太郎は、彼らの輪郭がわずかに判別できる…という明るさに、思わず手で目を覆った。まったくもって無粋な例えではあるが、夜間に対向車のハイビームに目がくらんだ時に近い。そのためよく見えはしないが、光の中でふたりがこちらを向いた気配がする。


 「ハムタロ…我が生涯において二人目の友よ。この暴凶竜グリモアが認めよう。貴様こそは、真の勇者である。そしてその従者たちよ。ありがとう…貴様たちは我らを1000年の悔恨より救いだしてくれた。心よりの感謝を捧ぐ。当代の勇者一行の未来に、多くの光があらんことを…」

 「お前には…ハムタロ、なにか礼をしたいが、先代勇者としてオレが遺せるものはほとんどない。だからこの勇者の剣をお前に託す。気難しいが、オレの相棒だ。どうか大切にしてやってくれ」


 直視すれば目を傷めそうな輝度にあって、言葉は不思議な音階であった。内容からどちらが話しているかは容易にわかる。しかし音だけを聞けば、グリモアとナユタ、どちらの声でもあるように聞こえるのだ。まるでふたりの声が徐々に重なり、混ざり合いつつあるというような。


 「さあ…いこうか」


 その最後の言葉はどちらのものだったか、公太郎はもう聞き分けることができなかった。


 まばゆい光の中でふたりの影が溶けあい、ひとつの玉となって天へ昇っていく。グリモアとナユタの魂は融合し、ついには不可分なものになったのだと公太郎は本能的に悟った。竜の本体も砂の城が波にさらわれるように、あっという間で跡形もなく消え去り、輝く粒子となって彼らの魂の後を追う。


 美しくも、どこか儚げな光景だった。イリスもリュナも厳粛な葬送に立ち会うように、ひとことも発せずその軌跡を目で追っている。

 公太郎もまた、ただ黙ったまま光を見送るしかできなかった。けれども、心にはかすかな靄がかかっている。グリモアもナユタも、おそらく満足して逝っただろう。だがどうしても…自分としては悔いが残る。やはり…もっと、せめてあと少し、1000年も苦しんだ彼らに時間を贈りたかった。なにか生きた証を、愛の証を残せるような…。


 ────うぬぼれだ。


 いい気になるな、と自戒とともに公太郎は目を伏せた。


 この世界に来て、たまたま行きがかりで魔法を手に入れ、ここまでは人生で類を見ないほどうまくいってきたかもしれない。…が、魔法といえど、望むことすべてが叶うほど全能な力などあろうはずもないだのだ。現状の力量では、これが精いっぱいだった。できることはやったはずだ。もっと良い、他の手立てなど…少なくとも今は思いつかない。


 …そう考えてはみても、公太郎の胸には手痛い敗北感のざらっとした確かな手触りがある。


 唇を嚙みつつ空を見上げると、天上へ至る道を指し示すような光跡を描いていた光の玉も徐々に小さくなってゆき、やがて天の星たちのひとつとなった。

 天蓋を覆うような満天の星は真に見事で、さながら空に浮かぶ海のようである。それゆえに、公太郎がひとつまばたきをすると、彼らの魂がどのあたりに消えていったかもうあやふやになってしまった。それが余計に寂寞(せきばく)をかきたててくる。


 ────寒いな。


 公太郎は体に身震いを感じた。静寂と冷たさを伴い、夜の帳が再び塒へ降りてきている。グリモアとナユタの去った跡には、輝きを失った勇者の剣がぽつりと地に突き立っていた。


 「勇者の剣…預からせてもらうー」


 公太郎が近づき、柄を握って引き抜くと刀身がわずかに光を放つ。しかしやはりナユタの手にあった時の輝きとは比べものにもならない。いうまでもなく、理由には想像がついた。剣も公太郎を真に己の主とは認めていないということだ。


 それもそのはずだ、と公太郎はうなずく。グリモアは『貴様こそは、真の勇者である』と評してくれたが、誰あろう自分こそがそう思えていないのだから。


 「アタシは…勇者(アンタ)の従者…か」


 短いため息とともに公太郎が剣を鞘に納めると、リュナがぽつりととつぶやいた。


 「アタシ、グリモアからはそう見えてたのね」


 「え……?あ、ああ…すまないー。すぐに訂正しとけばよかったなー?」


 言わんとしていることを察し、公太郎は頭を下げる。…正直あの時はそんな暇もなく、雰囲気でもなかった。が、魔王の妹として相応の実力と自負のあるリュナにとっては面白くない一言だったかもしれない。


 「…別に。気に障ったわけじゃないわ。ただ…まあ、そりゃあそう見えるでしょうね…と思っただけ。アタシとアンタの距離感…っていうの?隣にいても、いつだって少し離れてるでしょ。アタシのほうから意識して気をつけてるのよ。うっかり肌が触れちゃわないように。だから…グリモアがそう思っても不思議じゃないわ」


 「…うんー?」


 察してみた内容はどうやら的外れであったようだが、されどリュナのいいたい主旨がいまいち呑み込めず、公太郎はあいまいに返す。


 「アタシ、グリモアがちょっぴりうらやましかったな。愛する(ひと)となんの気兼ねも

なく触れ合える彼女が」


 「…ああー」


 リュナが寂しく微笑むのを見て、公太郎はようやく理解を得た。リュナは捨ててしまいたいのだ。名の通り、彼女自身へも呪いとなっている恩寵(オリジン)、「呪熱の女帝」を。


 「そういえばー、リュナはグリモアに聞きたいこと…だったかー、確かめたいことがあったんじゃなか────」

 「空からなにか来ますっ!!」


 公太郎の言葉を遮って、イリスが危急を告げる。リュナも瞬時に顔を引き締め、イリスとともに公太郎を守る位置取りをとった。


 「なんだー、あれはー?」


 イリスの指し示すほうから、たしかになにかがゆっくりと降ってくる。星や月明かりの逆光となって黒いシルエットしかわからないが、それなりに大きく丸い。いや、楕円だろうか。少なくとも完全な球形ではない。


 「下がってください、ハムタロ」


 イリスの手による指示に従い、公太郎は一応3歩ほど後退する。しかしいかんせん、自由落下にしてはすっとろい速度で降りてくる謎の物体は、どうにも危機感を刺激せず公太郎は頭をかいた。


 「『土』魔法、発動待機ー」


 とはいえ、油断や気の緩みが抜き差しならない状況を呼び込むのはごめんだ。公太郎はいざという時の盾代わりにする土塁の魔法を地に仕込みはじめた。イリスとリュナも即応の体勢を崩さず、状況の見極めにはいる。


 トスン。


 果たして物体は大した音もたてず、三人の注目の中、グリモアの本体があったあたりへと軟着陸した。


 「……卵、だわ」


 イリスが思わず見たままを口にする。


 物体は公太郎がひと抱えもできそうな、大きな卵であった。

TIPS:空から降ってきた卵を見た際、イリスは食べられるか?とひそかに考えた

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2人が救われて結ばれて報われて本当に良かった...
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