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能無し勇者は知恵とLV1魔法でどうにかする  作者: (^ω^)わし!!!
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竜の救済 4

スパロボを買おうと思ったら、あまりの高さに躊躇してしまった。

フルコンボだドン!だと2万円もするんですもの。

いくらなんでも2万て。

習近平が参戦してないと出せない金額だよコレ。


いや、買うは買うけども。

 「グリモア、教えてくれ。このオレは…お前の知っている、1000年前のオレの姿なのか!?よくわからない…。もう…思い出せない…。人間には時が経ちすぎている…」


 蘇った勇者ナユタは、己の顔を探るように手で触れつつ、喜びよりも戸惑いに色づいた声でグリモアに尋ねる。


 「…ああ、ナユタ…貴様はナユタだ!!1000年ずっと想い続けてきたのだ、(たが)えるはずもない。貴様は、我の記憶のままの、勇者ナユタだ!!…なん…という、奇跡か…」


 グリモアの言葉の最後のほうは、風に消え入るような小さな涙声になった。神の御業を目にした信徒がそうするように胸の前で手を組み、祈るように瞳を閉じる。


 「…そうか。オレは…あの頃のオレなのか…」


 真摯なグリモアの様子に納得を得たナユタは、感慨を吞み込むようにふと天を仰ぎ見た。塒の上空を覆っていた厚い雲はいまだ健在ではあるが、ところどころ切れ間が生じている。そこからわずかに差す月と星明かりが空の(きざはし)を降ろしつつあった。グリモアの苦悩を象徴するかのような不機嫌で毒々しい紫電は、いずこかへ去ってしまったようだ。


 「懐かしいな…」


 顔を出した月がナユタの1000年前への追想を促した。思えば1000年の間、不死者としてこの山には在ったが、こんな気分で月や星を目にしたことは一度たりともない。天に在る彼らは、グリモアと自分がしのぎを削っていたあの頃となにも変わらず、ただ静かに塒を照らし続けている。


 「…そうだ」


 しばらくの沈黙ののち、月光に誘われるようにナユタが口を開いた。


 「グリモア、お前の瞳を貸してくれないか」


 「…え?」


 突然の言葉に意図をつかめず、グリモアが目を丸くする。


 「お前の瞳に映ったオレを確かめたい。オレの顔がどんなだったか、思いださせてくれ」


 「え!?瞳…?え…?」


 いうやいなや、迷いなく直線的に向かってくるナユタに、グリモアがにわかに焦りはじめた。


 「ちょ、ちょっと待てっ!!なにをいっている、貴様!!…寄るなッ!!それ以上、我に寄ってはならんッッ!!」


 「…どうして?」


 「…だ、だって…その…、わ…我は……あ、あれだ…。い…今…うぅ…くっ…くく…臭い…から……恥ずかしくて…嫌だ……」


 グリモアはそそくさと立ち上がると、半身になって両手で身を庇い、顔を背け、全身で拒絶の意思を示す。冬が近づきつつあるというのに額から冷や汗をだらだらと流れている。羞恥に首まで真っ赤になった姿は、もはや竜の威厳などどこ吹く風の…年頃の女であった。


 「気にしないさ。オレなんか、さっきまで骨だったんだぜ?」


  ナユタが両手を軽く開いてグリモアの緊張をほぐそうと少しおどけてみせる。

 

 「わっ…我は気にするのだッッ!!か、顔が見たくば、鏡でよかろう。(ここ)にも鏡くらいはある。本体の下の…ええと、どこだったか…。と、とにかく!!持ってきてやるから、しばし待て!!」


 「そ…そんな悠長な…ことをやってる時間は…ないー…」


 自らの本体へと踵を返しかけたグリモアを、ナユタの背後でくずおれていた公太郎が呼び止めた。


 「も…申し訳ないが、いわなきゃ…ならんことがあるー…」


 ────このしくじりを…どう伝えたものか…


 公太郎は苦渋に満ちた表情で、息も絶え絶えながら必死に言葉を探す。蘇生魔法にありったけのマナを投入し、消耗していてまともにしゃべるのもかなり厳しい。イリスもマナを放出しきり、元の少女の姿で眠るように公太郎の背中へ寄りかかっている。リュナもまた膝をついて、回復に専念しているといった様相だ。


 それでも今、いわなければならないことがある。


 残酷な事実を。


 「俺の…魔法は、しょせん…LV1…なので、すまないー…ナユタを、完全には…蘇らすことが…できなかったー…」


 「ど…どういうことだ、ハムタロ!?なにをいっている、ナユタはこうして、立派に…」


 グリモアの反論を公太郎が食い気味に手を開いて制止する。


 「5分…持つかどうか…だー。ナユタが、天に還るまで…5分あるか、どうかー」


 「ご…5分ッッッ!!?」


 再び訪れた絶望に戦慄するグリモアの顔に、公太郎の心臓が針金で締めつけられるように痛む。

 悔恨と諦観の地獄の日々、その果てに見せられた希望がこれでは、余計グリモアを苦しめることになるだけだ。


 ────くそっ…こんなことなら、やらなければよかったかー?


 公太郎の胸にどうしようもないほどの後悔と無力感が押し寄せた。


 「お前には、感謝の言葉もない。当代の勇者…たしか、ハムタロ…といったな?」


 忸怩(じくじ)たる公太郎の思いを、ナユタが背中を向けたまま力強く吹き飛ばす。


 「勇者ナユタ…俺はー…くっ…たった5分のつもりではー…」


 「1000年前、とっくに死んだオレに与えられた『5分』…なんとありがたいことだ。こんな贅沢なことがあるか?しかも、目の前には…グリモアがいるのだ。この5分のためなら、オレはなにを差しだしたっていい!!」


 ナユタは両手を広げ、体全体で生の喜びを表現する。やや大げさで、わざとらしいその物言いが、公太郎に確信をもたらした。


 「…あんた、最初から…時間が無いことに…気がついていたなー…」

 

 「……フッ…」


 ナユタはあえてこちらを振り返りはしない。しかし公太郎には、ナユタがニヤリと不敵に笑ったのがわかった。


 「…そういうことだ、グリモア。オレには時間がない」


 「ナ…ナユ…タ…」


 事態にまごつくグリモアに、ナユタは今度こそ問答無用とばかりに大股で近づき、その両腕に彼女を搔き抱く。


 「あ…ああ、き…貴様…なにを…」


 グリモアがナユタの腕の中でむずがるように体をひねる。この期に及んでも、やはり自分の体臭が気になるのだろう。しかし、ナユタはグリモアの細い体をがっしりと包み、逃れることを許さない。


 「瞳を…見せてくれないか?」


 「うぅ…貴様というやつは…」


 耳にささやくナユタの強引さに観念したのか、おずおずとグリモアが正面を向きはじめる。限界まで赤面し、目を白黒させて泳がせるグリモアを、鼻が触れ合うほどの距離からナユタが真剣なまなざしで覗きこむ。星明かりを反射しながら揺れるグリモアの黒い瞳には、1000年の時が経とうとも、なるほど、たしかに見覚えのある姿が映っていた。


 「これが、オレの顔…か。フッ…なんだ。…惚れた女の瞳に映ったオレは、結構…イイ男じゃないか」


 「………ほ、惚れ…んんッッ!!?」


 真意を問おうとしたグリモアの唇をナユタが奪う。突然の口づけに頭が真っ白になったのか、グリモアはまばたきもせず、直立のままかたまった。


 1000年の想いを乗せるような、長い接吻。


 やがて体の硬直は解けていき、グリモアもまたナユタの背へ腕を回す。


 そして。


 わずかな逢瀬を惜しむように、静かに瞳を閉じた。

TIPS:蘇生魔法はしくじったのではなく、1000年前の相手にはもともとこれが限界。

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