その4:冒険者ギルドでのできごと 2
歴史上に習近平ほどの偉人は存在しない
子供は公太郎の腰くらいの背丈で、10歳前後の女の子に見えた。幼女というには大人びており、少女というには幼い。
水を打ったように静かになったギルドで、公太郎は気がつけばポカンと口を開いたまま、女の子に視線を奪われていた。
(獣人…なのかなー?)
アニメやゲームをたしなむので、公太郎からすれば獣耳や尻尾がある人=獣人という式が成り立つのだが、どうもそういい切れない感じがする。
女の子は日の当たり方によって金にも銀にも輝く銀髪を、肩のあたりでザクっと切りそろえていた。頭の上には同じ毛並みの大きな耳、フードの裾からはやや毛足の長い尻尾が見え隠れする。
これだけであれば公太郎も獣人と即答するのだが、額には小型の尖った角があり、そして頭の両側面から水平に、人の手の平くらいの耳が生えているのだ。
つまり彼女には、頭の上と頭の横に耳が2つずつ、計4個の耳があり、それが時折ぴょこぴょこと動いているのである。
見方によれば鬼ともエルフともいえなくもない。 どうにも「属性」が渋滞している、と公太郎は思った。
だがそれ以上に、そんなことが些細に思えるほど美しく整ったかんばせ。翡翠色の瞳と赤く塗れた唇は、すでに蠱惑の艶を帯びはじめており、どこか末恐ろしくすらある。
長旅をしてきたのか、髪や頬が土埃にうすく汚れているが、それくらいではいささかの欠落も彼女にもたらせてはいない。
「あの…」と女の子がカウンターの受付係の男へひかえめに声をかけた。その可憐な響きで公太郎はひとり、はじめて花澤香菜の声を耳にした時の衝撃を思い出した。
「ここで、依頼をお願いできると聞いたのですが」
「……依頼?魔族が!?」
「はい」
「お前、人間と魔族は国境でずっと戦争してんだぞ?ったく、王都の警備はどうなってやがる。やすやす入り込まれてんじゃねえか」
「魔族の、不死族や虫魔族と争いがあるのは聞いています。でも、わたしは違う種なので通していただけました」
「…人間からすりゃ、魔王の手下に大した違いはねえっての。くそが」
受付の男はやれやれと頭をかきむしりながら、カウンター奥で別の仕事をする同僚を「どう思うよ?」と見た。視線が合った同僚は無言で肩をすくめるだけだった。
公太郎はそのやり取りで、ギルド内にいるすべての人の目が温度を失っていることに気がついた。
まるで家に入ってきた害虫でも見るかのように、汚物がそこに落ちているかのように、感情の消えた視線が女の子へ集まっている。
「……仕事だから話は一応、聞くだけ聞いてやる。依頼料はあるんだろうな?」
男は雑にカウンターの引き出しを開けると、依頼用紙とペンを取り出し、「書け」と女の子に投げるように手渡した。
「よかった、ありがとうございます」
女の子は笑顔で受け取ると、きょろきょろと机代わりになる場所を探した。だが、カウンターは彼女の背丈くらいの高さがあったし、他に適当な机代わりもなかったので、結局すみの床でカリカリと記入し始める。
そうこうしていると公太郎の耳に「なんで魔族がいんだよ」「気色わりい」「誰が受けんだ依頼」など、ヒソヒソと嫌なものが聞こえてきた。
「あのー、壁で書いたらいいんじゃないー?」
周りのささやきが彼女にも聞こえているかはわからないが、床にうずくまった背中がなんだか憐れで、公太郎は思わず声をかけた。女の子からすぐに反応はなかった。しばらくの間をおいて、女の子の4つの耳がぴくっと動いた。
「わたし、ですか?」
話しかけられたのが自分だとわからなかったようだった。女の子は他にそれらしき人がいないか周りを確認してから振り返ると、不思議そうに公太郎を眺めた。
「そう、だけどー…」
歳相応の純粋さからか衒いの欠片もなく、翡翠色の瞳があまりに真っすぐ見つめてくるので、公太郎は急に気恥ずかしくなって目をそらしてしまった。子供とはいえ、美人と話すのは緊張する。
「ありがとうございます、お兄さん。でも、もう書けましたから」
女の子は立ち上がると軽く膝を払い、笑顔で丁寧にお辞儀をした。それから依頼書に間違いがないかもう一度確認し、「お願いします」と男に手渡した。
「…依頼料。先払い」
「あ、はい」
男は依頼書の内容を見もせず、まずカネを払えと手で要求した。おもてなしの国、日本であれば即クレームものの態度だが、女の子は気に留めた様子もない。
いわれるまま肩から下げていた大きなカバンを探り、年季の入ったがま口の財布を手にすると、きちっと三つ折りにたたまれた1万円(エン?)を取り出し、男へ差し出した。
公太郎が受けようとしていた『家畜の世話』が日給1千エンだから、10日分相当である。
「1万エンね。まあ、内容次第だな」
男はそこでようやく依頼書に目を通しはじめた。
「依頼の内容は…『お花を育てるおてつだい』?…なんだこりゃ、そのままの意味か?」
「はい。王都に来るまでにわたし、いろいろな植物…お花や、お野菜、果物の種をあつめました。それを育てるおてつだいをお願いしたいんです」
「……ったく、麻薬とかじゃねえだろうな?住み込み可、ふーん?日数かかるなら日当が別でいるぞ?わかってんのか?ガキに払えんのかよ。……ってお前これ!」
「え?」
突然語気を荒げた男に、女の子が動揺を見せる。
「勤務地は大陸北東…魔界じゃねえか!!」
「は…はい。わたしのふるさとにお花を植えたいんです」
「かー。王都から何日かかると思ってんだ。特急馬車と船で直行しても半年…いや1年はかかるわ!」
「わ、わたし、転移魔法が使えますので、移動時間はかかりません!もちろん帰りもきちんとお送りします!」
女の子の反論に、男は心底あきれたそぶりをした。
「はぁぁ、お前なあ、フカシも大概にしろ。転移なんて大魔術師クラスでやっとの超高位魔法だっての。だったら、お前の薄汚れた旅装はなんだ。どうして魔法で飛んでこない」
「それは…一度来たことのあるところにしか使えなくて…」
「さらに、だ。今すぐ移動できるとして、誰が魔王の勢力圏に1万で行く?モンスターの巣みたいなとこによ。おーい!この中に誰か受けるバカはいるかー!?」
男がわざとらしく大声で問いかけると、冒険者たちから失笑が返ってきた。
「お金が…足りないということでしょうか」
ならば、と女の子は再び財布を開いたが、男が無駄だと制した。
「カネも足りねえの。俺の見立てでは、最低1000万。それでようやくカネに困った奴が名乗り出てくるかどうか、だ」
「い、1000万…」
莫大な金額の提示に、女の子の手が止まってしまった。手の平には硬貨が数枚。足りるはずもない。背中を丸めてうつむいてしまった女の子の姿に、公太郎は胸が痛んだ。
男がいうには、ふるさとから王都までどんなに急いでも1年。子供の足ならなおさらだろう。彼女はその道程を独りでやってきたのだろうか。その旅の結末がこんなでは、あまりに惨い。
「それなら…それなら、これが報酬の代わりになりませんか?」
だが、顔を上げた女の子は、意外なほどしっかりした表情だった。
女の子は襟元からお守りのような小さな袋を引っ張り出した。文字通り肌身離さず首から下げていたものだろう。袋からはビー玉のような石がひとつ出てきた。
「これ…は」
石を手にした男の目が見開かれる。男は慌てた様子で乱暴にカウンターの引き出しをまさぐると、ルーペをつかみ、まじまじと石を観察し始めた。
「まさか、恩寵の宝珠…か!?なんで、お前が持って…」
「祖母が持たせてくれたんです。大変価値のあるものだそうです」
恩寵の宝珠という単語に、ギルド内が張り詰めた。
公太郎にはそれがなんなのかさっぱりわからなかった。しかし、周りの嘲笑は瞬く間に消え去り、冒険者たちから職員まで、その場の誰もが息をするのも忘れたかのように石へ釘付けとなっている。
「価値…価値か。お前、わかってんのか恩寵の宝珠がどんなものか。呑めばそいつの恩寵を宝珠に記録されたものへ書き換えるシロモノだぞ。人生が変えられるってことだ。場合によっちゃ、国レベルのカネが動く」
「では、報酬として成り立ちますよね?」
「マジかよ…。たかが『花を植える』ってだけに恩寵の宝珠…?」
女の子の身を乗り出すかのような真剣さに、男はたじろぐようだった。
だが。
「…いや、ちょっと待て。宝珠に記録されたものへ書き換える、つったよな。価値があるかは記録されたもの次第だ。第一、偽物かもしれん。むしろそっちの可能性の方が高い。調べさせてもらうぞ?」
「…どうぞ」
男は別の職員に専用の白手袋と宝石商が扱う精密なルーペを持ってこさせると、それぞれ手と顔にセットした。物語の探偵が犯人の残した証拠品を扱うように、慎重に用心深く丁寧に、穴が開くほど調査しはじめる。
女の子も公太郎も他の者も、男の様子を物音ひとつ立てず見守った。外の通りの喧騒が遠くしみいるような静けさに、壁掛け時計の秒針が規則正しくリズムを刻む。
5分くらいたっただろうか。男が「シヨウショ!」とつぶやくと、宝珠の上にリレキショのような画面が開いた。公太郎は物にもステータスがあるんだ、と思った。
「………クックック、フフフ、ほ、本物だ」
「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」
男の結論にギルド内が一斉に湧いた。その勢いに、関係のない公太郎までもが喜び、飛び上がってしまうほどだった。
しかし男はすぐに片手を高く挙げると、ニヤニヤした顔で盛り上がりを鎮めるよう周囲を見渡した。
「まあ、早まるな。確かにこの恩寵の宝珠、本物だ。…価値はないがな」
「ど…どういうことですか!?」
「宝珠に記録されてるのは『LV1魔法』だ。こんなしょっぱい魔法、恩寵が無くてもその辺の幼児だって覚えられる。はっきりいってゴミだゴミ」
男が宝珠を投げるように女の子へ返すと、ギルド中から「アホくさ」というため息が漏れた。
「そういうわけだ。内容も報酬も話にならん。花を植えるくらい自分でやるんだな」
「待ってください!お金なら、わたしが働いて必ず用意します!魔界が危険なら、わたしが必ず守ります、だから!!」
「いい加減にしろ!!!」
なおも食い下がろうとした女の子を男が怒鳴りつけた。
「こっちも仕事だと思って付き合ってやりゃあ、しつけえんだよ!!さっきから適当なこと並べやがって!!働く?1000万だぞ!?そもそも人間の王都にガキを、まして薄汚い魔族を雇う場所なんかねえ!守る?人間に魔族の口約束を信じるバカはいねえ!!カネがないなら、さっさと失せろ!!」
「そんな…」
男の剣幕に女の子はたじろぎ、縮こまってしまった。その様子が琴線を刺激したのか、男はサディスティックな笑みを浮かべる。
「ああ、そうだった。俺の知り合いに奴隷商がいるんだが、そいつがいうには貴族の中に子供をおもちゃにするのが趣味のド変態野郎がいるそうだ。特に魔族がお気に入りらしい。なにをしても心が痛まねえから、だとよ。なんなら紹介してやろうか?1000万はいかずとも結構な値段になるらしいぜ?」
「ッ!!」
あまりの言葉に女の子が固まる。みるみるうちに獣の耳もエルフの耳も尻尾もぺたんとしょげて、なにもいえなくなってしまった。
ただのイジメの光景でしかなかった。耳をすませば「鬼畜すぎwww」「ま、正論だけどよwww」「容赦ねえww」「さっさと消えろw」といった不快な音も聞こえてくる。
誰もかれも、この状況に一寸の疑問も持たず、当然のものとして、楽しみ、ある種の快楽すら得ているらしい。
「うぐっ…ふっ、うぅ…くぅ…」
とうとう女の子は小さな肩を震わせ、涙を流しはじめてしまった。床にぽたぽたと、とめどなく水滴が落ちていく。だが女の子は必死に両手で顔を覆うと、それを見せまい、声を上げまいとした。彼女の誇りがそうさせているのは明らかであった。
「「「「「「「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」」」」」」」
女の子の姿に、誰もが笑いはじめた。爆笑、苦笑、嘲笑。程度の大小に差はあれど、受付の男も、カウンター奥の職員も、公太郎の近くにいる冒険者も、酒場の男女も、給仕も、誰もが、皆、例外なく。
「俺がやろかー」
公太郎の声はやかましい空間に不思議とよく通った。
潮が引くように笑い声が霧消する。
公太郎がゆっくり歩み寄ると、女の子は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、一歩後ずさった。全身が硬直し、口は小刻みに震え、目には恐怖が浮かんでいる。人間の大人の本物の悪意に触れたのだ、無理もない。
公太郎はおびえさせないように自身も半歩後ろへ下がって距離を取り直すと、膝をついて女の子と目線の高さを合わせた。わざとらしい笑顔にならないよう注意して公太郎は微笑を作る。
「依頼書を見せてもらってもいいかなー?」
公太郎が静かに手を伸ばしても、女の子は動けなかった。
それでも辛抱強く待ち続けると、やがて(まるで猛獣に手ずからエサを与えるかのようにではあったが)女の子はそっと依頼書を渡してくれた。
「内容は『お花を育てるおてつだい』で間違いないねー?勤務地はー、俺にはわからないけどー、『住み込み可』ってとこが気に入ったなー」
「おい、あんちゃん!!」
「どうだろうー、俺にまかせてもらえないだろうか」
「あんちゃん!!空気読めよ!!」
男がカウンター越しに口をはさんだが、公太郎は無視した。
公太郎の脳内では『スイッチ』が入っていた。普段、上司から「お前としゃべってると眠たくなる」と評される公太郎だったが、このスイッチが入ると自分でも驚くほど頭の中が刹那的に、瞬間的に、情念的に、衝動的になる。己の行動が導く結果へ、あらゆる覚悟が決まる。
今、のんびりとした公太郎の人生において、そう何度も入ったことのないスイッチが入っている。
早い話、公太郎はキレていた。
だが、男は公太郎の内面の変化に気づくはずもなく、まくしたて続ける。
「困んだよあんちゃん、筋ってもんがあるだろ!依頼を受ける時はギルドを通す!これは絶対だ!冒険者をやってくなら、あんちゃんの信用にも関わ…」
「俺は冒険者じゃないー。この子の依頼も断ったー。どっちも、あんたがいったことだー。なら、問題ないよなー?」
「うぐっ」
「心配するなー、話が終わればすぐ出ていくー」
公太郎は一瞥で男を黙らすと、自分のリレキショを開いた。再び笑顔を作り直し、女の子へ向き合う。
「俺の名前は伊藤公太郎。お嬢さんのお名前を聞いてもー?」
「………イリス…です」
「そうかー、イリスさん。いい名前だなー。話を進める前に、俺のリレキショを見てくれー」
『リレキショ』
名前:伊藤 公太郎
職業:無敵の人 (ランクダウン)
経歴・前職等:無職
特技・資格等:特に無し
恩寵:特に無し
「この通り、俺には恩寵がないー。だから冒険者にはなれないらしいのだがー、ぜひイリスさんをおてつだいしたいと思ってる。もちろん、断ってくれても構わないがー」
「…無敵の、人?」
「無敵?…うわ、なんだこりゃー」
イリスに指摘され、公太郎はひっくり返った。キレて後先考えなくなったせいで、リレキショの記述がさらに悪い方向へ変わったらしい。
「…とてもお強い、ということでしょうか…?」
「いやー、そうではない。強くは、ない。たぶん…ってかほぼ、そういう面でご期待にはそえないー。なんといったらいいか…無敵は説明しにくいから、ツッコまないでほしいー」
困ったな、と恥ずかしそうにいいよどむ公太郎に、イリスの泣き顔が少し和らいだ。
「わたしの依頼の場所は、ここからとても遠い、魔界の奥の奥です…」
「イリスさんは転移魔法が使えるんでしょうー?」
「魔界は、魔物がいるので危険かもしれませんよ?」
「イリスさんが守ってくれるんでしょうー?…いやこれ、さすがに情けなさすぎるなー」
「魔族のいうことを信じるんですか?」
重要な質問だった。
────信じる信じないでいえば「信じる」で答えは簡単だ。なぜなら単純に、イリスが嘘をつく必要がないから。…というより嘘をついたところで「すぐバレる」し。
特に転移魔法のくだりについて、受付の男は取り合いもしなかったが、そんなもの実際に使ってもらえばいいだけなのである。
しかし、ここでその回答は避けたい。これは「そんなレベルの低い嘘はつかない」といってるに過ぎず、「君を信じる」という答えではない。
だがしかしシンプルに「俺はイリスを信じる」とだけいっても、言葉に根拠や裏付けがなく、軽くて薄っぺらくなる。
なんかもっとこう…俺はイリスの味方だ、と伝えたい。周りが敵だらけの状況でも、ひとりくらいは味方がいるぞ、絶望しなくていいぞ、と思ってほしい────
「俺は────、この世界の人間じゃないー」
「え?」
公太郎が急に突飛な話をはじめたので、イリスは目を丸くした。
「つい2時間くらい前に、こことは違う世界から召喚されたんだが、それゆえにー、この世界の人間と魔族のしがらみ…確執や憤りとかの背景はわからないー…」
公太郎はあごを撫でつけながらいちど区切りを入れた。思いを伝えるため、再度言葉をどう選んだものかと考えてみる。が、結局、大した名案は出てこなかったので、心をそのまま話すことにした。
「…そんな俺だが、正直いってー、イリスさんを尊敬しているー」
「そ、尊敬…?」
「ここの人たちの反応を見れば、人間の街で魔族がどんな不当な扱いを受けるかー、俺でも察するものがある。なのに、遠いとこからこうしてひとりでやってくる『根性』。これは俺の世界では…いや、俺には…リスペクトに値するんだー」
「ッ…!!」
「『信じる』よ。俺にとってはそれで十分だー」
水滴が床に落ちる音がした。胸の前で両の拳をきつく握り、嗚咽を漏らすまいと顔を真っ赤にして歯を食いしばったイリスの目から、とめどなく涙があふれている。
「それに俺の出身の国ではー、『かわいいは正義』という格言がある。俺はかわいいこの味方だー」
「…うくっ、ふふ…なんですか、それ」
ビシッとサムズアップした公太郎がおかしかったのか、袖で涙を拭きながらイリスがわずかに苦笑した。
「…さっきもいったとおり、俺には恩寵がない。でも仕事は必死でやると約束するー。どうだろう?ぜひとも受けさせてもらえないだろうかー」
「これはわたしの祖母の格言なんですが…」イリスは口に手を当てるとコホンとひとつ咳払いをした。
「男の価値は、顔でも恩寵でもない。…ここだ、と」
公太郎の胸の心臓あたりに、イリスの小さな手が触れる。
「……わたしも、そう思います!」
満開の花が咲くように、イリスが笑った。
tips:この世界の人間にとって人間以外の人型生物は魔族。エルフもドワーフも人魚も巨人も小人もみんな魔族。慈悲はない。
動物は家畜以外すべて魔物。でも高位の魔物が人型に変身したら魔族。逆も然り。Zガンダムがモビルスーツで、ウェイブライダーがモビルアーマーみたいなもの。