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能無し勇者は知恵とLV1魔法でどうにかする  作者: (^ω^)わし!!!
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暴凶竜グリモア 9

サガフロンティア1と2を買ったのだけど、やる暇がないまま置いてたらセールになってしまった。

そして気がつけば、ロマンシングサガ2にもなにやらよさげなアップデートが入ってるみたい。

これは最終皇帝を習近平にして、もういちど最初からやってみてもいいかもしれないな。

 動揺はない。


 死したはずのナユタが目の前に立ち、剣を向けていても、我の心はかすかも揺らがぬ。



 事態は概ね訊いた通り。


 我のもとへたどりついた魔術師は苦悩を吐きだすように、こう述べた。




 ────「ナユタ様と私は大魔王と剣を交え、ついには追いつめました。しかしその土壇場で、当代の大魔王の正体が『亡霊(ゴースト)種』と判ったのです。彼奴(きゃつ)にとって肉体は仮初であり、使いつぶしていくものでしかありませんでした。


 進退窮まった大魔王は、卑怯にも…近隣からさらってきた幼い子供に取り憑いたのです。…あとはもう、ご想像の通り。『子供の命が惜しくば、武器を捨てろ』…大魔王は自身の首に刃物を突きつけながら我らに要求をいたしました。吐き気をもよおす外道です。


 しかし、我らは従うしかありませんでした。人質の子供は人間だけではなく、エルフやドワーフといった魔族の子らもおり、10人を超えようかという状況だったのです。


 グリモア様もご存じのかとは思いますが、『亡霊(ゴースト)種』に憑依された者は、魂を侵され、同化し、やがて元の人格は消滅いたします。そうなれば、もはや生きる屍も同じこと。まして彼奴は大魔王ともなる凶悪な亡霊。魂の未熟な子供など、憑かれればひとたまりもないでしょう。


 もしも、取り憑かれた子を見捨て、斬り捨てたとしても、大魔王が次々と乗り移っていくのは明らかでした。そうなれば大魔王を討ち果たせようと、いったい幾人の子らが犠牲となったことか。……無論そのようなことをナユタ様がなさるはずもございませんが。


 そのあとのことは、口にすることすら(はばか)られます。大魔王は我らの武器ばかりか、身につけた装備のすべて、果ては衣服まで奪い去ると、無抵抗のナユタ様を手にかけ、その肉体に取り憑いたのです。


 私もまた捕らわれ、処刑を待つ身でございました。…けれども、隙を見てどうにか逃れ、落ち延び、こうして生き恥をさらしております。グリモア様に、ナユタ様の気高い最期とその無念をどうしてもお伝えしたかったからです。生前のナユタ様は、友であるあなた(グリモア)様の話をよくされておりましたから────




 …目の前の者は、姿かたちこそ同じなれど、ナユタではない。

 

 先ほど、ナユタの骸を辱めている大魔王は、我に「激昂するな」といった。


 …とんでもない思い違いだ。


 激昂などするものか。


 そんな段階はとうに過ぎている。


 業火のごとく燃え上がる怒りも、血が逆流するような憎悪も、もはや心の器をあふれた。度が過ぎれば(かえ)って鎮まるとは(まこと)。一見すれば鳴りを潜めたそれらは今、岩に沁み入る清水のように、冷たい血潮となって静かに我の全身を廻っている。


 「どうした、グリモア?なぜ、泣いている?なにか悲しいことでもあったのか?」


 ナユタの姿をした大魔王による、まるでいたわるかの声での嘲笑。知らぬうちに我の双眸から、涙がとめどなく流れていた。


 「……ナユタ…我が友よ。死してなお、仇敵に身を凌辱され続けるは辛かろう。そのくび木、我が解き放ってやる」


 決意とともに我は仕掛ける。


 力と速度のみ、正面からのバカ正直な攻め。


 「ククク…なんだ、それは?」


 大魔王が冷笑しながら我の拳を捌く。


 だが。



 ────────遅い。


 遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。遅い。



 ────────弱い。


 弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。弱い。


 ナユタなら、この程度の突きを捌くだけで終わらせたりはしない。流れるように、華麗に、反撃を合わせてくるはずだ。ナユタなら、我の軸足に寄りすぎた(たい)の乱れに気づかぬはずがない。ナユタなら、我に竜の息(ドラゴン・ブレス)など吐かせる隙を見せるはずがない。ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、ナユタなら、大魔王(貴様)などに遅れをとるはずがない!!!!!!!!!!!!!!!


 

 「(いたずら)に長引かせるつもりはない。滅せよ」


 宣言とともに我の武技の回転と速度が上がっていく。正拳、鉤突き、肘撃ち、掌底、手刀、鉄槌、前蹴り、蹴り上げ、かかと、足刀、胴回し…意表を突く見せかけ、だまし、牽制などひとつもない。すべてが必殺。直撃すれば消し飛ぶ打突の暴風。


 「うぐっ、…くっ!?」


 たまらず大魔王がうめく。見るからに反応が遅れはじめ、纏った鎧の肩口を、わき腹を、大腿を、我の拳足がかすり、砕いた。


 「蜥蜴ふぜいが!!」


 我の足払いを飛び上がって避け、大魔王が苦し紛れに空中からの斬り下ろしに入る。


 ────悪手。


 いかに剣速が凄まじかろうと、そんな大振りが(たい)の崩しもなく我にあたるはずもない。見切った斬撃が我の髪を何本か飛ばす音を聞きながら、貫手を放つ。


 ドシュッ!!


 確かな手ごたえ。命に届く一撃が大魔王の胴を無惨に貫いた。


 「ガフッッ!!」


 大魔王の吐血が我の顔を汚す。むせるような鉄錆の臭い。内包した魂は大魔王であっても、痛みを感じているのはナユタの肉体であることを思うと、やるせなさに胸が締め付けられる。


 「致命傷だ。その体はもう持たん。貴様は滅ぶ」

 「クッ…」


 握っていた勇者の剣を取り落とし、大魔王が床へ両膝をついた。しばらく我の腕を抜こうともがくが、やがて諦めたように全身から力が、マナが抜けていく。


 「……どうした。さっさと体を捨て、我に乗り移らんのか?」


 ここから万にひとつ、大魔王が永らえるには、我の体を奪うしかない。それが奴の唯一の希望であるはずだ。そう仕向けた。わざわざ炎の壁で周囲をかこったのは、場に誰も踏み入れさせないため。この痴れ者がナユタにしたように、子供など別の体へ逃れられないようにするためだ。


 「……………ク……」


 「遠慮するな。やるがいい。我に憑依してみせろ」


 しかしどうにも反応の悪い大魔王に、苛立ち、促す。


 ────さっさとナユタの体から出てこい。そうでなければ、ナユタの骸は救われん。そしてそれが貴様の滅びだ。我は己の魂すら分ける術を持つ者。意に沿って大魔王が我に取り憑いたなら、即座にその魂…八つ裂きにしてくれよう。


 「……ク……ククッ…クックックック……そのつもりは…ない」


 「……なに?」


 「お前に取り憑くつもりはない。このまま滅んでやるといっているのだ。わからんか、蜥蜴?」


 光のない空虚な目で、口で、大魔王が笑った。底の見えぬ暗い洞を覗きこんだり、穴から無数の毒虫が這いだしてくるのを目にした時のような、根源的な嫌悪感を呼び起こす表情。我の背中に、やおら冷たいものが流れる。


 「…ほう。ずいぶんと潔いことだ。子供を人質に取るなど、薄汚い者にしては…」


 平静を装った言葉とは裏腹に、我は身震いした。


 この得体のしれない気色悪さはなんだ。


 息がかかるほど至近の距離でいることに、いいようのない不気味なものを感じ、我は胴を貫いた手を抜こうと試みる。…瞬間、拒むように大魔王が我の手首をつかんだ。滅びゆく者とは思えぬ力強さで、がっしりと。


 「っ!!放せ。気安いぞ。触るなっ!!」


 「…そう嫌うなよ。最期にひとつ訊いてほしいことがあるだけだ」


 「くっ…」


 邪気のない大魔王の笑顔に、我は気圧されつつあった。ここにきてはじめて、大魔王の真の恐ろしさを垣間見た気がする。


 訊いてはいけない…この男がこれから吐きだす言葉を、微塵たりとも訊いてはいけない。我の頭に本能からの警告がけたたましく鳴り響いていた。


 「実はな、グリモア。オレはこうして…お前が手を下さずとも、滅びるところだったのだ。そうだな…あと数日くらいには」


 「……なんだと?」


 「オレが逃してやったあの魔導士の爺、お前になんといった?…あくまでオレの想像だが、『オレが勇者を殺して憑依した』とかそんなんじゃないか?どうだ、当たらずしも遠からずといったところだろう?まあ、爺には、()()()()()はずだからな」


 大魔王が得意げな子供のようにうなづく。


 「だがオレは、これは…オレとお前だけの秘密にしてほしいんだが、勇者(こいつ)を殺してはいないのさ。死の寸前までは追い込んだが、殺さなかったんだ。オレは憑依する時、いつもそうする。…考えてみろ、急所を刺したりして完全に殺してしまったら、生命活動が停止して傷が治らなくなるじゃないか。文字通り、死ぬほどの傷が。それは憑依する方にとっても極めて不都合だ。あとでとても困る。だからオレは勇者を殺さず、体に取り憑いたのさ。…けれど、それがまずかった。舐めていたんだオレは。勇者を。体が深く傷つけば、その魂もまた深く傷つく。たとえ勇者であろうが、そんな瀕死の魂など容易に食い尽くせる…と思っていたオレは手痛い反撃を受けた。勇者の魂の光が、逆にオレを侵食しはじめたんだ。逃れようにも、もう遅い。気づいた時にはオレと勇者の魂がすでに同化をはじめていて、あと戻りのきかない段階だった。どっちの人格が消えるかというところにきていた…といえばわかりやすいか?。…いや、どっちもなにも、オレが消えるのは目に見えていたな。それほど勇者の光は眩しかった。もし、そのままオレが消えてしまえば、どうなるかはわかるだろう?…そう、勇者はなにごともなく、この体で目覚めるのさ」


 「…ナユタが…目覚め…?」


 ドクンッと我の体内で心臓が大きく跳ねる音がした。…喜びの音ではない。これは、破滅の予感だ。


 「オレは心底焦った。このままではマヌケな大魔王サマは、自ら墓穴を掘った挙句、ひっそりと消えてしまう。大魔王たるオレがひとり、ただ黙って死ぬなど、そんなことは受けいれられるはずがない。これではまるで雑魚がくたばる(ざま)じゃないか。しかし、オレの知りうる限り、勇者の肉体を滅せられる者はそうはいない。オレの有力な部下どもは、すでに勇者によって討たれていたからな。その時だよ。暴凶竜グリモアの名が、オレの頭に閃いたのは」


 「なにを…なにを、いっているのだ。貴様は…」


 呼吸が浅く速くなる。頭の先から足の裏まで、体中の毛穴が開き、粘度の高い嫌な汗がにじみだす感触がきた。


 「お前と勇者が懇意にしていたのは、部下からの報告で知っていた。我ながら自分の閃きに膝を打ったね。これぞ天の配剤じゃないか。早速オレは、捕えていた爺をあえて逃し、お前のもとへ向かうように工作した。爺がお前を動かすことができるか、できたとして…オレの消滅までに間に合うかどうかは本当に賭けだったな。さっきお前が(ここ)に現れた際、オレは内心…小躍りしたくなるような気分だったよ」


 「うぐっ…くっ、ま…さか…」


 とんでもない過ちを犯してしまった確信に、我の体はもはや隠しようもないほど大きく震え出す。


 「ククク…感謝するぞ、グリモア。オレの死に、わざわざ(道連れ)を添えてくれたこと。フフフフ…これ以上を望むべくもない、勇者という極上の華だ。お前のおかげで、この大魔王、孤独で無意味で惨めな死を迎えずにすむ!!最高だ!!こんな魂が救われるような、満ち足りた気分があるか!?ハーッハッハッハッハ!!」


 「き…貴様…この我を(たばか)り、我の手でナユタを…」


 「そうだ、お前には礼をせねばなるまい。せめてもの心づくしだ、オレは一足先に逝ってやる。わずかではあるが、勇者との別離の時をお前に贈ろう。存分に堪能してくれ…フフッ…さらば…だ」


 「待て!!大魔王!!くそっ!!待て!!待てえええええええええええっっ!!」


 我の叫びも虚しく、大魔王はいちど痙攣すると力尽き、肉体が我にもたれかかる。抜けていくその魂が完全に虚空へと消え去るのを、我は呆然と見送るしかなかった。


 「…グリ…モア…」


 囁くような声に、我の背骨へ電流がはしる。ナユタが目を覚ましていた。しかしその眼に生命の光はすでにない。


 「ナユタ!!…ああっ、我は…我は…なんということを…!!」


 ようやく我はナユタを貫いた腕を引き抜き、その体をかき抱く。


 「そこに…いるのか、グリモア?暗くて…わからない。寒い…。なにも…見えな…い」


 「いるぞ!!ここにおる!!…ナユタ、訊いておるのか!!我はここだ!!」


 耳元で必死に呼びかけるも、ナユタは我をグリモアと認識できない。


 「ガフッ…」


 時間切れを告げるように、ナユタが苦しげに血の塊を吐きだす。我の指が触れた頬から伝わる体温は、死人のごとく冷たい。


 「ナユタ…!!ナユタ!!我を見よ!!グリモアだ!!頼む…我を…見てくれッ!!」


 「…すみ…ませ…ん、誰か…は…わか…りません…が、そこ…の人。伝えて…は…いただ…け…ないでしょ…うか…」


 血に濡れた震える手で、ナユタが我の肩をつかんだ。ゾッとするほど、か弱い力で。


 「どう…か…グ…リモア…に。……………ぁ…………」


 「…なんだ?訊こえんぞ!?…おいっ、なんといったんだ!!訊こえぬ!!ナユタ!!ナユタァァーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」




 それがナユタの最期の言葉だった。



 勇者ナユタは、こうして我の手により、その生涯の幕を閉じたのだ。

TIPS:大魔王の一人称やしゃべりかたが勇者と同じなのは、魂が同化したから。もともとは朕だった。…いや、朕は王様の一人称じゃないか。それはそれとして、回想はこれで終わり。想像以上に長くなってしまった。

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