暴凶竜グリモア 4
やったね、たえちゃん。ペルソナ4がリメイクされるんだって。
もう楽しみで今から夜も眠れないよ。
でもペルソナ4ってP4Gで完成してるから、グラフィックやテンポにマヨナカダンジョンくらいしか直すところなくない?
追加要素で考えられるとしたら、そうだな…最強ペルソナに習近平を追加するくらい?
「ぶ…無礼者!!なにをするっ!」
突如視界を覆ったマントを引きはがしながら、我は抗議する。
「いいからっ!とりあえず、マントをやるから、体に巻くとか…なんなら服に変えるとかしてくれ!このブーツみたいに…できるんだろ!?」
しかしナユタは背を向けたまま、上ずった声でいうばかりだ。その態度で、我はようやく合点がいった。
「ははん?さては貴様、我のこの体に劣情をもよおしたか」
「ちっ…ちがうっ!オレは、ただ…ぐはっ!!」
隙だらけのナユタの背を雑に蹴り飛ばす。
「…愚か者め。敵の外見に惑わされるとはなんたる未熟さ。情けない。よいか、この世界には…魔族の中には、煽情的な見た目で、あらゆる誘惑の手練手管で、敵の油断を誘い、陥れようとしてくる者などいくらでもおる。たとえば淫魔などだが…普通ならば勇者の敵ではない、とるにたらぬ羽虫どもだ。が、そんなザマでは貴様の命も、いずれ定かではないな」
「くっ…」
無様に転がったナユタへ、我は挑発めいた台詞を吐き捨てる。だがそれでも、ナユタは歯噛みしたまま、ただ立ち上がるのみであった。
────やれやれ…どうやら今日、天啓の成就とはいかないようだ。
我は嘆息しながら、どうしたものかと思考をめぐらせる。
……さしあたって、こんなのはどうだろうか。
「ナユタよ。女に免疫が無いというのであれば、今より王都に帰り、娼婦のひとりでも抱いてくるがいい。さすれば……さ…さす、れば…?」
軽い気持ちで、思い付きで発した言葉であったのに、どうしてか我はそれ以上をつむげなかった。続きを口にしようとすると、心にひどい重力を感じるのだ。胸の内に生じた正体のわからない黒いもやが、深海の水圧のように、我を押しつぶそうとしてくるようで、苦しい。
………閃いた。
「そうだ、我を抱いてみるのはどうだ?そのほうが話が早いであろう。…正直にいえば、我も交尾の作法などよく知らんが、貴様が望むなら子を産んでやってもよい」
「バッ…バカなことをいうな!!」
「な、なんだとっ!?」
これぞ最善ではないか、と喝采したくなる案をにべもなく却下され、我は憤慨した。だが怒り以上に、ナユタの拒絶が胸に痛い。翼を落とされた時などよりも、ずっと。…なんなのだ、これは。
「いいか、グリモア。女が、軽々しくそんなことをいうもんじゃない!そういうのは、もっと…こう、互いの気持ちとか、絆を深めた者たちのすることだ!!」
「い、意味がわからん…。我らは数年、命のやり取りをしてきた仲ではないのか!!それ以上の絆が、この世のどこにある!?…つまり貴様は、我では…ふ、不服だと申すのか!?くッ…!!そんなに…しっかりと欲情しておきながら!!」
「…そうじゃない。そういうことじゃないんだよ、グリモア」
とても話にならない、とでもいいたげなナユタの姿に、我の胸はいっそう痛みを増す。
「帰る」
「ま…待て!待たんか!まだ、話は終わってはおらんぞ!!…おい、どこへ行く!!」
背を向けたまま山を下りはじめたナユタを、我は必死に制止した。しかし、できたのは口でいうだけ。腕を伸ばしてつかむとか、前に回り込むとか、やりようはいくらでもあるのに体が動かない。足の裏に根でも生えてしまったかのようだ。
そうこうして我がまごついている間に、ナユタの背はもう見えなくなってしまっていた。
「なんなのだ!アイツは!!」
胸を満たした原因のわからない怒りといらだちのまま、我はナユタの残したマントを地に叩きつけようとして、できなかった。出会ったころからナユタが身につけていたマントは、端が擦り切れ、ところどころ破れ、傷んでいる。
「まったく…痴れ者めっ…」
ナユタの身代わりに、懲らしめるようにマントを唇と前歯で甘く噛む。土埃のにおいに交じって、ナユタの香りが鼻腔をくすぐった。
そうしていると少し心が落ち着いてきたので、我は近くの岩に上り、腰を下ろして考えてみる。
「…たしかに、はしたなかっただろうか…」
子を産むなどと、なぜ口にしたのか自分でもわからない。単に我の心が「そうしたい」と感じ、提案しただけなのだが、ナユタの反応を振り返ると、なにやらとんでもないことをいってしまった気がしてくる。…しかも、全裸で。
今さらながら、我は羞恥を覚え、顔が熱くなった。とりあえずナユタのいう通り、なにか着よう。
────そうだな、ワンピースでも仕立てるか。
早速マントに魔力を通すと、形状が変化しはじめ、一枚の服ができあがっていく。
「…神器に比肩しうるブーツの返礼にしては、ナユタよ、やや素朴すぎないか?」
いいながら袖を通すと、ナユタの香りに包まれた気がして妙に面映ゆく、我は己の肩を抱いた。
遠い西の空に日が落ちかけている。
夕日が沈みいくのを座ったまま眺めながら、次はいつ逢えるだろう…と我はぼんやり考えていた。
────ナユタは怒っただろうか…我に愛想をつかし、もう逢いにきてくれなくなるのではなかろうか…
そんな想いが廻ると、我の鼓動はにわかに早くなり、嫌な汗が額ににじむ。
────いや…逢いにこぬなら、こちらから出向いてやろう。きっとアイツ、驚くぞ。分体とはいえ、なにせ暴凶竜が街中に現れるのだから…
ナユタが目をまん丸にしながら間抜けに大口を開く姿を想像して、我はクスリと笑った。
TIPS:勇者は童貞、グリモアは処女




