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能無し勇者は知恵とLV1魔法でどうにかする  作者: (^ω^)わし!!!
33/52

暴凶竜グリモア 3

本当はこの世界の太陽のことを習近平と名付けたい。


例えば「日の光が降り注ぐ」という文があるなら、「習近平の光が降り注ぐ」というように。


しかしそれをやるとエピックサーティーンをはじめとする読んでくれてる人が混乱すると思われるので、できない。


(つд⊂)エーン

 舐めていた。


 「勇者」を、「ナユタ」を、あるいは「人間」そのものを、我は舐めていた。種族の限界があると。竜を超えることなどありはしないと。自然に、普通に、悪意なく、傲慢であった。


────────────


 我の塒である岩山の中腹。ナユタとの幾度にも及ぶ戦いで削られ、奇妙な平野となった開けた地。いつからか暗黙の内に、ふたりの決闘場となったその場所で、今日も我はナユタと対峙している。


 出会った日から数年。驚くべきことに、あれからナユタはずっと我に挑み続けてきた。我に敗れ、鍛え直し、また敗れ、の繰り返し。その過程において剣技は磨かれ、冴えわたり、いっぱしの魔法すら身につけた。あどけなさの残る少年勇者は、今や屈強で精悍な青年となっている。


 先に動いたのは我だった。


 「フゥゥッ!!」


 立ち上がりつつ音を立てて息を吸い込み、竜の火炎(ブレス)を吐く体勢を整える。直撃すれば一片の骨すら残さぬ業火の息だ。定石として、竜と戦う者は誰であれ、この(ブレス)に心底留意し、対応に知恵を絞らなければならない。だが仮に、耐火魔法であれ、専用の防具であれ、万全の対策を打ったとしても、すべてを防ぐことは不可能だ。受ければ必ず大きな傷を負うことになる。


 だというのに、ナユタは剣を構えたまま静かに佇んでいた。


 ────ふん…強くなったものだ。


 「見切り」の気配を感じ、内心舌を巻く。大技には大きな隙が伴うものだ。このまま(ブレス)など吐こうものなら、硬直した我の体はナユタにたやすく斬り裂かれるであろう。


 「フッ!」


 ならば(ブレス)の動作はおとりに使うまで。まるで不意打ちのように我は尾でナユタを横から薙ぎ払う。捉えた、と視覚では感じたが手ごたえはない。薙いだのは残像だった。本物のナユタは飛び上がり、宙を舞って初撃をかわしている。小憎らしいほどの華麗な体捌き。ナユタの技量は、すでに神速神技の域に達している。


 「グリモアーッ!!」


 ナユタは我の尾の上に着地し、伝いながら横腹めがけて突っ込んできた。中段の水平に構えられた剣先に膨大な魔力の奔流が(ほとばし)っている。

 

 「轟雷撃(サンダー・ブレイク)!!」

 「属性防御!!」


 阿吽の呼吸と呼んでもよいものか。ナユタが雷撃を放つのと、我が防御魔法を展開するのはほぼ同時であった。


 障壁に阻まれた雷が、けたたましくゴンッゴンッゴンッという鈍い音をたてながら激しく明滅する。


 「チィッ!!」


 直接のダメージはないが眼前で稲光が間断なく瞬き、我はナユタを見失ってしまった。


 ザシュッ。


 左肩が斬り裂かれ、鮮血が飛び散る。


 「ぐうっ!小癪っ…だが!」


 深くはないが思わず顔をしかめる傷。しかしその痛みこそが我にナユタの位置を指し示す。


 「見つけたぞ。そこだっ」

 「くっ…!!」


 我の爪による横薙ぎが今度こそ、飛び退ろうとするナユタを捉えた。


 「ぐはァッ!!」


 直前にどうにか剣で受けたようだが、そもそもの質量が違いすぎる。ナユタは派手に吹き飛び、地に何度も転がった。


 「うぐぐ…くっ!!」

 「…魔法を使ったあと、動きが鈍くなるクセは直らんようだな。いったはずだ、貴様はマナの消費に無駄が多い。体のマナが枯渇すれば、満足に動くことなどできようか。貴様の剣の才は認めてやらんでもないが、魔法のほうは…」


 地に伏したナユタを前に、我ながら無茶をいう…と思い、途中で口をつぐむ。実のところ、ナユタの魔法はなかなかどうして悪くない。

 元来、竜の全身を包む鱗は強い魔法耐性(レジスト)を持つ。その我に属性防御魔法を張らせるほどなのだ。ナユタは剣だけでなく魔法の才も疑いはない。…まったく、さすがは勇者とはいえ、空恐ろしいとはこのことか。


 「くそっ!殺しに来た者に助言など…余裕かっ。クッ…続きだ、いくぞ!!」

 

 今まで何度もそうしてきたように、ナユタは地に剣を突き立て、力強く立ち上がった。

 



 ────これが、我が憶えている中で、明確にナユタを強さで上回っていたころの最後の記憶だ。


 それから幾度か季節は巡り、その日はやってきた。

 

 


 「「うおおおおおおおおおッッ!!」」


 激しい攻防の末、我とナユタが咆哮を上げながら交錯する。


 ザンッッ!!


 「グオオオオオオオオッッ!?」


 体中にこれまで聞いたこともない音と衝撃を感じ、我は叫んだ。やや遅れて、背に激痛が駆け抜ける。


 裂帛の気合とともに閃いたナユタの剣が、我の片翼を斬り飛ばしていた。それだけでも相当の重量がある翼は宙を高く舞い上がり、ズシンと音を立てて地に突き刺さる。


 「グクク…ククッ、み…見事だ。ナユタ」


 血しぶきを上げて無様に膝をついた我の心は、しかし満足感に満ちて、ただ一片の怒りもない。


 「…グリモア…」


 ナユタが呆然と我の名を口にした。今、成したことが、己自身も信じられないといった顔をしている。


 「誇れ。貴様は強くなった。…そうだな、我の屠ってきた竜どもなどよりもはるかに…」


 嘘はない。生涯において、ここまでの深手を負ったことはなかった。反して、ナユタはまったくの無傷ではないが戦闘に支障が出るような様子でもない。


 まだまだやれそうだな、と我は目を細めた。あるいは我が「天啓」が成就するのは、今日この時なのかもしれぬ。我の胸がにわかにざわついた。




 当初、ナユタの前に提示されたのは絶望という言葉すら空々しい、竜と人という種族としての差であった。それを埋めるのは、まさに広大な砂漠の砂を一粒ずつ数えるような途方もなく、あてどなく、無謀で、答えのない苦行であっただろう。人に限った話ではないが、うまくいっている時の努力は苦にならぬ。だが、進む先に希望があると確信のない道を征くのは、誰にでもできることではない。


 しかしナユタは立派にやりとげ、今まさに我を超えようとしていた。


 ────思えば、いつのまにやら師匠と弟子のようであったな。


 もちろん我を滅しようと奮闘するナユタにそんなつもりは毛頭ないだろう。が、我からすればこの数年は、その成長を見守ってきたような気分となる。


 そしてそれこそが我の得た「天啓」であった。


 ────「勇者ナユタを我以上に育てる」────


 「天啓」を受けた日を具体的に言及するのは難しい。ナユタが我に挑みはじめたあの日から、そう時の経っていないころであっただろうか。残念なことに、「天啓」が降りる際、聞いていて面白いような、派手なきっかけはなかった。ある日、午睡から覚めると、すでに胸の中にあったのだ。地味なこと極まりない。


 それでも、我はすぐに理解した。ああ、これこそが我が生涯の命題なのだと。


 竜は「天啓」が訪れ、生涯の命題を持つ。命題が成就すれば天寿を全うするような穏やかな滅びを得られ、竜ならば誰もがそれを夢見る。


 それからというもの、ナユタをほとんどあしらうだけであった我の態度が、導きへと変わったのはいうまでもない。とはいえ、我の命題が叶うのは、つまるところナユタが我を滅する時である。他の竜のような、静かな最期を遂げる見込みがないことには、話が違うではないかと若干の苦笑を禁じ得ない。


 「グリモアッ!!」


 ふと懐かしむように物思いにふけってしまった我の意識をナユタが呼び戻した。両手で剣を正眼に構え、こちらを探るように窺っている。


 ────バカ正直なやつだ。黙って斬りつければいいものを。隙だらけだったろうに。


 「…貴様に、褒美をやろうと考えていた」

 「褒美…だと?」


 面食らうナユタをよそに我は思案する。そういえば、ナユタに形のあるものをくれてやった憶えがない。

 我の命題に関わるほどの付き合いだ。もし…本当に今日、心願成就となるのであれば、なにか遺しておいてやるのも悪くはないだろう。


 「ふむ、どういったものがよいかな…そうだ」


 我の目に留まったのは、ナユタが斬り飛ばし、地面に突き立った我の片翼であった。


 「その翼でなにか作ってやろう。どれ…」


 改めてナユタを見てみる。光り輝く剣以外の装備はなんの変哲もない軽装。口さがない者であれば、みすぼらしいとまでいうかもしれぬ。事実、人間の王国の下級門兵のほうがまだ立派な装いだ。これがまがりなりにも勇者と称される者のいでたちなのか。

 人間ども…羽虫どもはナユタを戦わせるだけ戦わせておきながら、満足な支援もしていないらしい。身に着けた鎧も籠手もマントも靴も傷み切っている。特に靴がひどくボロボロで、ところどころ破れ、裂け、穴が開き、遠からず下底が剥がれ落ちそうだ。…まあ、その一端は我というか、我との戦いでそうなったわけなのだが。


 「靴…にするか。我が直々にあつらえる靴だ。ありがたく頂戴するがいい」

 「…グリモア、いったい何を考えている!?やめろっ、オレとお前は殺しあってるんだ。そんな相手の施しは受けん!!」

 「ふん、案ずるな。これは我の身勝手よ。暴凶竜グリモアは翼を斬られ、怒りのまま勇者を屠った…などと後世に伝わればかなわん。我の沽券が下がる」


 触れた爪を介して魔力を込めると、斬り落とされた翼は光の粒子に分解されていく。その大量の質量を、凝縮し、変換し、組成し、ナユタの足へと集約する。粒子はひときわ輝き、やがてまばゆい光が収まると、ナユタの両脚は脛まである皮のブーツに包まれていた。


 「我の翼による、我の加護を受けたブーツだ。神器にも引けを取らぬ。この山を徘徊する亡者どもなど、触れればたちまち灰燼と帰すだろう。そうだな、『勇者のブーツ』とでも呼ぶがよい」

 「くっ…面妖な。お前のいうこと、やることはいつも気まぐれすぎて、オレの理解を超えている。急に褒美だなどと意味がわからん。…だが、オレは勇者だ。なんぴとであっても勇者が礼を欠くわけにはいかん。一応…礼はいっておく。たしかに、靴はもう替えねばと思っていた…」

 「不要だ。貴様は我の器の大きさを知らしめるために利用されたにすぎん。それよりも、続きをやろう……ぬぅ」


 戦いの再開を提案しかけて、我はようやく気付いた。翼を切り落とされた傷はすでに回復魔法により出血を止めている。しかし、竜の巨体を残った片翼で自在に操るというのは、我ながら存外、難しいことのようだった。


 「…さすがに、このままでは戦えんか」


 いったそばから前言を翻すようだが、動くだけであれば、さほど問題はない。が、相手は実力が我に肉薄しつつある勇者ナユタだ。「動けるだけ」では()()()にされるのは目に見えていた。それではだめだ。我の命題は、我が全力で戦い、敗れてこそ完遂される。


 「あれを使うか…分体を」


 我は自分の考えに首肯した。そもそも、ここしばらく勇者ナユタを前に、我は竜の巨体を持て余していたのだ。巨体はもちろん、その重量、筋力、攻撃の距離や範囲において大きな利点がある。一方で死角もまた大きい。すでにナユタはその点を的確に突ける力と速さを持ちあわせ、だからこそ我は片翼を飛ばされたのだ。

 

 ────そうだな。最期なれば我も存分に力を尽くしたい。


 決着はナユタと同じ土俵で、人の形にて正面から堂々と渡り合い、つけるのがふさわしい。竜の大きな死角に潜んだナユタにブスリと刺されて終わり…など、まっぴらごめんだ。


 「しばし待て」


 我はナユタに一時の寸暇を求めると、己の魂の分断を図った。竜の本体には生命活動を維持するだけのわずかを残し、九割九分の魂を魔力にて捏ね、人形(ひとがた)へ練り上げ、受肉させる。そうして作り上げた分体を本体より切り離すと、当然ながらほとんど意識の存在しない竜の体は、たちどころに深い眠りへ落ちていった。


 「よし、うまくいったぞ。分体などはじめて作ってみたが、ふむ…人の体というのも、なかなか悪くないものだな。特に、手の指が細かく動かせるところが気に入った。…うん?少し髪が長すぎるか?…まあ、いい。待たせたな、ナユタ。はじめるとするか」


 腰まである長い黒髪を手でばさりとたなびかせ、ナユタへ向き直る。…とナユタは目を丸くし、隙だらけの棒立ちになっていた。


 「グ…グリモア…なのか…?その姿は…?」

 「そうだ。…ああ、この小さな姿に戸惑っているのか?案ずるな、このような人の身であっても、我はその力のすべてを操れる」

 「そうじゃないっ!!」


 突然ナユタが顔を真っ赤にして叫んだので、我のほうが戸惑い、固まってしまう。


 「お…女…?暴凶竜グリモアは女…だったのか?」

 「…?その通りだ。我は雌だが、それがどうした?」

 

 我にかけられた言葉の意味が、意図がわからない。それどころかナユタは、一瞬先まで確かにあった勇者の風格はどこへやら、そわそわと落ち着かない様子で顔を背けている。


 「と…とにかく!!グリモアッ…そのっ…な、なにか…着てくれっ!!!」


 悲鳴のような声を上げつつ、ナユタは自分のマントを引きちぎるように脱ぐと、我の頭の上から無造作にかぶせた。

TIPS:グリモアの分体は20歳前後のボインちゃん

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