死にたがりの竜 7
梅雨と書けばつゆと読む。しかし、前線をつけるとばいうと読む。けれど今年はそんな梅雨より先に夏がきそう。ああ、習近平も来ないかなあ。
「恩寵・『因子解放』ー!!」
イリスの四肢が伸び、戦闘モードへ移行していく。
「俺もやるぞー」
公太郎も両手を合わせ、体内のマナをかき集めはじめた。度重なる魔法の使用で、もう残りが少ない。
「うむむむむむー」
蘇生魔法がそうだったが、大事なのは「できる」と思うこと。ほしい「結果」から逆算して魔法を構築すればいい。参考にするのはリュナが戦斧を出した時。それから、王都でのジジーだ。
「『召喚』魔法LV1ー!!」
公太郎の手に光の粒子が集まり、だんだんと一振りの剣の形を成していく。やがてズシッと重たい鉄剣が現れた。
「…よしー。思ったとおり、成功だー」
「…それは雷を斬る魔剣…とかでしょうか…?」
イリスが不思議そうな顔をする。
「ただの鉄の剣だー。こいつに『雷』魔法でちょっとした細工をするのさー。…おおー、はじめて持ってみたが、やっぱ結構重いなー」
公太郎が中空から喚び出したのは、これといった特徴もなく、なんの変哲もない鉄の剣だった。LV1の召喚魔法ゆえ、業物などのはずもなく、切れ味には期待できそうもない。
とはいえ、鉄のかたまりである。これなら十二分に効果が出るな、と公太郎は確信した。
「俺の準備はできたー。イリス、いけるかー?」
「いつでもいけます」
「じゃあ、手はず通りに頼むー」
「わかりました」
イリスはうなずくと、リュナの方へ駆け出す。間をおかず、公太郎も追従した。
「お義姉さまーーーーーっ!!」
咆哮のようなイリスの呼びかけに、大型と切り結んでいたリュナが硬直する。
「イリ…ス!?」
振り向いたリュナが実際に声を出したわけではない。リュナの視線が、リュナの見開かれた眼が、そういってるように公太郎から見えただけだ。時間にして0コンマ3秒未満。刹那ともいえるそのスキを、しかし大型は見逃さなかった。
「死ネ」
「クッ!」
大型がリュナの懐へするりと滑るように入りこむ。即座にリュナも戦斧を捨て、防御態勢をとろうとした。が、それよりもわずかに早く、大型の手刀が命を刈り取る死神の鎌のように振り下ろされる。
ドンッ!!
「グウウッ!!」
リュナの喉元が切り裂かれる直前、超加速をかけたイリスの体当たりが大型を吹き飛ばした。
「お義姉さま!!ご無事ですか!?」
「イ…イリス…どうして…?」
今度こそリュナははっきりとイリスの名を呼んだ。目に映るのは幻ではないかと、信じられないと、わずかに首を左右に振る。やがて、仮面の下から涙が流れた。
イリスはそんな義姉に微笑んで見せると、すぐに戦闘の構えを組みなおし、大型へ視線を戻す。
「ハムタロ!!雷撃がきます!!」
イリスのいう通り、大型は体勢を立て直し、右腕を天に掲げようとしていた。
「まかせろー!!いくぞー!!」
公太郎は剣を逆手に持ち、思いっきり地面に突き刺す。
「『土』魔法ー!!」
立て続けに魔法を展開。剣の突き立った地面がにわかに盛り上がる。土の柱を作るだけの単純な魔法だ。それだけに速度は速い。高さはあっという間に公太郎の背丈の倍以上を越え、伸び続けていく。
一方、大型の右手の指先にはすでに十分な魔素が集まっている。頭骨の口が不気味に開いた。来る!!
「全員ふせろー!!」
「『轟雷撃』!!」
大型の魔法が発動する直前、公太郎の合図で、状況をほとんど呑み込めていないリュナをイリスが強引に引き倒す。
ドゴオオオオオオオオオンッッ!!!
衝撃波を伴うほどの轟雷が、高くそびえた土の柱のその先端、「鉄の剣」へ誘われるように落ちた。
たまたま、ではない。公太郎はあらかじめ「鉄の剣」に『雷』魔法LV1でプラスの電荷を帯びさせておいた。一方、雷はマイナスの電荷を持つ。よって当然の摂理として雷撃魔法は剣に吸われたのだ。
「避雷針だぜー!!せいぜい1回こっきりだがよー」
雷撃の熱によって鉄の剣がドロドロに溶け、土の柱は衝撃に耐えきれず砕け散る。
「今だ!!イリスー!!」
公太郎に反応してイリスが飛び出す。それこそ雷光のごときの速さで距離を詰め、大型の鎧を踏み台に駆けあがり、宙を舞う。
「ハアアアアアアアアアアアアッ!!!」
乾坤一擲。イリスの正拳が頭蓋骨を撃ちぬいた。
「グウッ!!」
大型がのけぞってバランスを崩し、右手に発動しかけた次の雷撃魔法が霧散する。その様子は公太郎から見ても、スキだらけなのは明白だった。
しかし。
「くっ!か…堅い…!!」
。着地したイリスが歯噛みする。踏ん張りの利かない空中で、体重の軽いイリスの攻撃は、むき出しの頭を狙っても決定的な打撃にならない。
「ならば…わたしの手がおまえに届くように、膝を屈しなさい」
「…その必要はないわ」
イリスが足払いを放つ直前、その頭上高くを戦斧を手にしたリュナが飛び越えていった。公太郎が、イリスが、大型までもが、リュナの全身が空に描く放物線を無意識のまま目で追う。
「アンタ、本当に強かったわ。骨のくせにやるじゃない。ま、興味ないけど」
振り下ろされた戦斧の渾身の一撃が、大型の頭骨から鎧までたたき割った。
TIPS:より正確にいえば、公太郎の剣は避雷針としての役割を果たせていない。むしろその逆。その昔、仏塔のてっぺんに備えらえた「相輪」という金属の飾り、あるいはお城の屋根の「しゃちほこ」、これらに雷が落ちてしばしば火災になったという。剣はその相輪のように雷を誘っただけに過ぎない。しかし、この戦いでは雷を別のところに落とせればよかったので、結果的にはOKということで流してほしい。
ところで話は変わるが、敵がしゃべらないというのがこれほどしんどいとは思わなかった。グオオオとかうなったところで意味わからんし、ほんまなんやねんこいつと毎回思っていた。誰か先に教えといてよ。




