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不毛な戦いに終止符を。

多少動けるようになったマキアは窓の外からレフリクトの様子を見ていた。と言っても小さな豆粒ほどの人間が行き交う様子だけだが。

行き交う人々はどれも兵士ばかりで、装備をしている。

土地はライタニアと違って、痩せている。時には物資用の荷馬車が通るが、その馬車に乗る作物も小さく細い物が多い。



「……噂通り、だな」



マキアはボソリと呟いて、窓の外を眺めることをやめた。どうせ、これ以上何も情報を得られらしない。



「……ライタニアの……女神」



先程、マークが言った言葉だ。この言葉が指すのは、私達'ヨーク家'。ヨークの一族を……正確にはニキ・ヨークを指す言葉だ。


マキアはそっと目を閉じ、かつて祖母から聞いた話を思い出した。



_____________________


かつて、世界はひとつであった。


今から何百年も前、ライタニアとレフリクトは元は1つの国だった。その時、ヨーク家は貴族の中でも王族に近く、祭事を取り仕切っていたらしい。


しかし、世界は二分される。


比較的貧しい土地を有していた西側の者たちが革命を起こす。王族は王都の位置的に東側に付いた。その西側・革命軍が現在のレフリクト、東側・王族軍がライタニアとなった。


女・子供関係なく、戦争に駆り出された頃、救世主が現れた。それが、ニキ・ヨーク。マキアの祖先である。

彼女は攻撃が一切当たらなかった。それはまるで女神の加護が付いているかのようで。そんな彼女は祭事を司る一族だったことと名前から、「ライタニアの女神」と呼ばれるようになった。

そんなニキ・ヨークは前線を退いた後に病死する。しかし、ニキ・ヨークの'攻撃が一切当たらない'という伝説だけ、連綿と後世に受け継がれていく。


……今思えば、攻撃が一切当たらないというのも相手の軌道を読んだ末、また当時は銃よりも剣が主流だったから、と理由を付けれなくもない。

けれど、そんな噂は大きくお鰭をつけて広がり、私達ヨーク家は「神の使い」と崇められるようになった。

ヨーク家から輩出された軍人は代々優秀だった。それは地頭が良いから、ではない。

「神の使い」の一族として祭り上げられ、周りからの圧に必死に答えようと足掻いた結果だ。

私も勿論、例外では無い。

その努力の結果、私はライタニア史上最年少で幹部に上り詰めた。


……ヨーク家は今やライタニアの大きな部分となっしまった。マキアが敵国に囚われたことは軍隊の指揮を下げる一因になりかねない。

それほど、私達ヨーク家は軍事的に重要な役割を担っている。



マキアはそっと目を開けた。

暗くなった外とを隔てる窓に移る金の瞳は、ヨーク家を象徴するものだ。そして、母から受け継いだ銀髪。

この見目のせいで「聖女」だと、「本当の御使い様」だとも言われたが、私にそんな力は無い。けれど、人々の信じる力とは恐ろしいもので、本来そんな力が無い者に、力を与えてしまう。


……私がいなくなった今、ライタニア軍は、ライタニア国は……どうなっているのだろう。


マキアのいる部屋の窓からライタニアの明かりも、ライタニアの行く末も見えはしない。


_____________________

マキアが囚われて2日目の朝。


体の痺れは極わずかになり、体を動かすことも苦ではなくなった。

……好機が訪れても、この体なら難なく対応出来るはずだ。いつでも逃げられる。


……しかし、私が捕まっているのは理由があるはずだ。普通ならもう殺されていてもおかしくないのだから。

……それならせめて、私がレフリクトに必要とされている理由を知ってからの逃亡でも良いかもしれない。



「……マークなら、それを知っているかもな」



ぼそりと呟いた言葉に言霊が乗ったのかもしれない。

その日の夕方、マークは現れた。

……リュークを連れて。



室内は異様な雰囲気に包まれていた。

マキアの目の前にはマークが鎮座しており、その隣には縮こまったリュークが座っている。こちらと視線を合わせる様子は無い。



「……何の御用で」



マキアが言い放つも、マークは無愛想な面のまま。微動だにしない。


マキアは不思議に思いながら、いつもの癖で相手の身なりを記憶していた。

職業病、と言うべきか、尋問官として相手から得られる情報は全て記憶する癖がついていた。


そんなマキアだったからこそ、昨日のマークとは違う点に気付いた。



「……その徽章……」



真っ白く、明らかに軍人の中でも頭1つ違う制服。それは昨日と変わらない。

しかし、首元の徽章。

それは昨日と変わっていた。


マークは待ってました、と言うように冷酷そうに結ばれた口の端を釣り上げた。


……マキアは尋問官という役職柄、レフリクトの徽章に知識があった。……あの徽章は……。



「……幹部に、なったのか」



若き天才幹部候補だったマークは、恐らく今日の昼、幹部に昇格していた。

そして、マキアは自分が囚われた後の昇格に納得した。自分がこうして好待遇を受けているわけにも意味がある。



「………南東支部への奇襲成功、そして私を生け捕りにしたことが決定打か」


「……慧眼だな。

幹部候補、ということは勿論俺以外にも何人か候補がいた。そこで、上官殿は俺達に功績を上げるよう言った。

俺の功績は、ライタニア南東前線への奇襲と、それを足掛かりにした、あの城・南東支部への奇襲の成功。そして、敵方の戦力と士気を削ぐため、「ライタニアの女神」の奪取」



……よく出来ている。南東支部はレフリクトとの戦場の穴場である。争いは比較的激しくなく、かつ戦線から遠すぎない重要な役割を持つ拠点である。しかし、レフリクト側から攻める際には、南東前線を突破しなければいけないため、容易に立ち入れる場所では無い。難攻不落と呼ばれるに値する場所だった。それ故、幹部などが多く在中する城で、そこから前線へ指令が送られていた。

そして、王都へのライフラインでもあり、情報から物資に至るまで全ての始まりは南東支部だったと言って過言では無い。

そんな南東支部への奇襲成功……南東支部の城は先日の交戦でレフリクト陣営に堕ちただろう。


……さすが若き天才幹部候補といわれただけある。



「……それで、私をこうして捕らえている理由はなんだ」



マキアはかなり過酷な状況だと分かっていたが、気丈に鋭い視線でマークを見つめていた。


マークも同じように鋭い視線でマキアを見つめていた。



「……君は人質だ。……いや、この戦いを終わらすための生贄と言ってもいいな」



マークの隣に座るリュークは、ずっと下を向いていた。



「レフリクトは、戦争を終わらせる。

そのために、君を我が国の一員として歓迎する」


「……一員、だと?」


「今や、王族など君たち「ライタニアの女神」たる救世主の足元にも及ばない。ライタニアにいる王族はもはやお飾りに過ぎない。

本物のライタニアの心臓はヨーク家だ。

対して、レフリクトは戦争が始まって以来、王族などいない。武力による強さでその国の長となる。


……今、我が国の長は我らが父上」



マキアはマークの言葉に耳を疑った。

昨日、マークは伯爵家の息子だと言ったが、その伯爵は今やレフリクトのトップだという。それは……つまり。



「マキア・ヨーク。

君をレフリクトとライタニアの友好の証として、レフリクトへ招待する」



マークはリュークを見て、リュークの肩に手を乗せた。



「我がレフリクトのトップ、ハデス・エヴァンが次子、リューク・エヴァンとの婚姻によって、この不毛な戦いに終止符を打つ」



マークの瞳が、珍しく輝いていた。


マキアをその瞳を見つめて、暫くぼんやりとしていた。頭に、情報が入ってこないなんて経験、今日が初めてだった。

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