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S2の敵国捕虜

かつて、帝国として名を馳せたライタニア。

戦力は落ちたものの、トップクラスの戦略と帝国時代に手に入れた領地と力を遺憾無く発揮していた。


そんなライタニアへ、レフリクトの捕虜を捕まえたとの連絡が入ったー。

_________________



「マキア様!

急ぎ、下の尋問室へ!S級の捕虜が捕まりました!」



ドンドンとドアを叩かれ、中に居た少女は羽根ペンを置く。

大して急いだ様子はないが、ゆっくりとした様子でもない。


少女の白く細い手には似合わない、いかつい帽子をかぶって扉へ向かう。



「そんなに叩くな」



扉を出てきたのは、長い銀髪に金の瞳の少女だった。愛くるしい見目と玲瓏な声には似合わない文言を言い放つ。


大きな瞳をまるで蛇の眼のように鋭くさせて、兵士を睨みつけた。



「もっ、申し訳ありません!」



兵士が敬礼する様子を一瞥して、少女・マキアは歩を進める。



「それで、S級捕虜の素性は分かっているのか?」



S級とは捕虜のランクである。

SからA、B、Cと順にランク付けされ、上から順に捕虜の価値を示している。

つまり、S級とは捕虜としての価値が限りなく高い、大物ということである。


兵士はマキアの後ろから答える。



「はい!

幹部候補である若者です!

どうやら、先月の奇襲では指揮を執っていたらしく……」



無駄に大きな兵士の声に、マキアは嫌そうに目を細めた。

しかし、兵士の内容からとんでもない奴を捕虜にしたのだと分かる。


確か、先月の奇襲はライタニアの天才参謀ですらあっと驚く戦略だったはずだ。


……しかし、そうなると何故そんな切れ者を捕らえる事が出来たのか些か不思議である。


マキアがそんなことを考えている内に、尋問部屋へ辿り着いた。

尋問部屋の前には数人の人だかりが出来ている。


……よく見れば、それは皆見知った者たちだった。



「あら、マキアも呼ばれてたの?」


「リアナ」



一番最初にマキアに気付いたのは妖艶な美女・リアナだった。マキアと同じ幹部兼尋問官である。マキアにとっては姉さんのような存在だ。


リアナの後ろには他にも尋問官のメンツが2人いた。

鋭いつり目のジョインはやけに嬉しそうにしている。嗜虐趣味の彼らしい、悪魔の笑みだ。「尋問官とは名ばかり、彼らは「拷問官」だ」、と揶揄される原因の半分はコイツだ。

もう半分はリアナだが……。


そしてもう1人、ショートカットのニナが……。



「……ニナ、どうしたの?」



マキアはニナの異変を感じとった。

いつも優しい笑みを浮かべた彼女が、何故か浅い息を繰り返している。

顔色も青白く、明らかに様子がおかしい。



「い、いえ。

まだ、分かりませんからー……」



ニナのよく分からない返答に首を傾げたが、答えを聞くことは出来なかった。

尋問官部屋の扉が内側から開いたからだ。



「どうぞ」



中から屈強な上級兵士が顔を覗かせ、マキア達が揃っていることを確認すると中へ誘導した。


相変わらず、鉄っぽい嫌な臭いのする部屋だ。


マキアはその臭いに顔を歪ませながら入室した。


部屋には1人の少年が立っていた。


その少年を見て、ニナが口を抑えた。


……この少年は確か……。


マキアが少年を思い出そうとした時、少年が顔を上げて、ニナを見た。

少年の瞳が大きく見開かれる。



「お母さんっ!!!」



苦痛に顔を歪ませて、少年は叫んだ。

それに呼応するようにニナもこう言う。



「カナテ!!」



そうだ、あの子はニナの息子だった。


2人の悲痛な叫びなど聞こえなかったように、上級兵士はつらつらと説明する。



「C203。歳は10。

捕虜、と言うより諜報員です。

傀儡だとは思いますが、こちらの情報を敵国に流していた所を発見」



ニナが泣き崩れた。

まさか尋問官の息子がスパイ容疑(ほぼ確実)を掛けられているのだ。


ニナに同情していた皆だが、次の言葉に耳を疑った。



「C203のペアですが、ニナ様にと上から命が下っています」



「そ、そんな……」



ペア、とは捕虜と担当する尋問官を指す言葉だ。

ライタニアでは尋問官が強い位置におり、捕虜の管理は尋問官に一任されている。

これを聞けば、母が担当なのは良いように感じる。

しかし、尋問官の取り決めの中に、「死以外の肉体的罰を与えること」が最低条件としてある。


……ニナは息子に、少なからず肉体的罰を与えなければならないのである。


マキアはニナに対して同情しながらも、兵士に促されるまま、移動した。



「こちらはA7とA8。S2の配下です。

こちらはリアナ様とジョイン様に」



A7とA8は双方ともレフリクト人らしい青い瞳を持っていた。

A7の方が屈強、A8は優しい面立ちだ。


上級兵士の言葉が終わると同時に、隣から熱っぽい吐息が聞こえた。


……またか。



「まぁ、可愛らしい。

私がA8を貰うわ」


「じゃ、俺は筋肉質な方な!」



……先程、「肉体的な罰を与えること」と言ったが、肉体的な罰には種類がある。

そんな中でもジョインとリアナの罰の与え方は「肉体的な罰」の代名詞とも言える。


ジョインはいわゆる暴力。強いやつを痛つけるのが楽しい、クズ野郎。

戦場ではこちらが殺られるような強い相手を痛めつけるのが快楽なのだ。


リアナは見目通りの好色な女。なんとも嫌な方法だが、プライドの高いレフリクト人を屈伏させるには1番手っ取り早い。


つまり、この2人が「尋問官は名ばかり。「拷問官」だ」と言われるに至る、原因である。


特にA8の方はリアナが好むタイプの幼い顔立ちだ。今は虚勢を張って、こちらを睨みつけているがいつ骨抜きにさせられるのか……。



「それでは、マキア様ははこちらへ」



マキアは最後に捕虜2人へ同情の目を向けた。


しかし、捕虜の管理は尋問官へ一任される。

これも良い当たりの尋問官を引けなかった彼らの運と捕まってしまうという失態を犯したことが原因である。


同情する以外にやれることは無い。



マキアは2人から視線を逸らして、奥へと進んだ。



奥へ進むにつれて、牢屋の頑丈さが増していく。


A級とは比べ物にならないほどの深層部へ着くと、上級兵士が足を止めた。



「……奴です」



上級兵士の物言いは辛辣だった。

A級に対する言い方とは明らかに違う。


マキアも少し緊張しながら、牢屋を覗き込んだ。



「っ」



んぐっと変な音を出しながら、唾液を飲み込んだ。


牢屋の鉄格子の奥、質素な椅子に座り、全身を括り付けられた、天使がいた。



長い金髪の髪は三つ編みに。椅子に座っていても分かるスラリと長い手足と背丈。


眠らされているのか、上半身は傾いたまま、瞳も閉じている。


しかし、ライタニアでは見た事のないほど、美しい見目をしていた。




もし、本当に天使だったら……

私たちは天使を捕まえるという大きな罪を犯しているのではないだろうか……?


そんな考えがマキアの頭を過ぎる。



「奴がレフリクトの幹部候補、先月の奇襲の指揮を執っていた男、S2です」



兵士にそう言われ、マキアはハッとした。

そうだ、彼は天使じゃないんだ……。


邪念を頭から振り払って、マキアは背筋を正した。



「こちらへ」



兵士に促され、牢屋へ足を踏み入れた。


近くで見ればより、美しさが伝わる。

しかし、その綺麗な顔の左頬には痛々しい傷がついていた。



「おい!起きろ!」



マキアが痛々しい傷を見ていると、目の前の天使のような男が突如カハッと息を吐いた。


気づけば、いつの間にか上級兵士が男の後ろに周り、うなじを叩きつけていた。



「っやめなさい!!」



マキアの大きな声に、上級兵士はビクリとしてマキアを見つめた。



「マ、マキア様……?」


「いつも言っているだろう!

捕虜をぞんざいに扱うなと!


この捕虜は今から私の管理下にある、私のペアだ!

これ以上私のモノに手を出すなら許さんぞ!」



マキアは驚いていた。


こんなに怒りを顕にしたのはいつ以来だろう。

そして、兵士も驚いた様子で後退りし、口早に言う。



「で、ではS2はマキア様の担当ということで」



そこまで言うと足早に兵士が去っていく。

いつもは怒らないマキアの顔が余程怖かったのか、それとも辞されると思ったのか……。


マキアは怒りを顕にしたことを悔やみながら、息を吐いた。

怒りなどと幼稚な感情表現、したくなかったのだが……。


そして顔を上げた時。



「っ」



青い瞳と目が合った。


整った顔と瞳はマキアの方を見つめていた。


先程、兵士に殴られたことで目が覚めたのだろう。

男はマキアを見つめていた。



「あ、お、大きな声を出してすまない……。

先程殴られたところが痛むか……?」



マキアはオロオロとしながら、男に話しかけた。男は何も言わずにじっとマキアを見つめていた。



「……話せないのか?」



指揮を執るぐらいながら言葉を発せて当たり前だと思っていたが……。


男が話さないことを不思議に思いながら、マキアは男の手枷に繋がる鎖を持った。

そして鎖を地面に繋ぎ止めている金具を外した。



「ほら、行こう。

こんな所にいては風邪をひく」



青い瞳の男はキョトン、としながらもマキアを見つめていた。


マキアは男に優しく微笑んだ。



瞳を開いた男は、まるで大型犬のような可愛らしい表情をしていた。

背丈だけは大きく、デカイ体には似合わない、幼い顔がついている。


マキアの後ろをそろそろと着いてくる様子も、大型犬を彷彿とさせた。



道中、お楽しみが一段落したらしいジョインとリアナとすれ違う。



「あ?マキア、てめぇまたそんな生温ぃことしてんのか?」



ジョインの言葉にマキアはフンッと鼻を鳴らした。



「痛めつけるだけ、は尋問官のすることじゃない」



マキアはそう言って、ジョインとリアナの前を通っていく。

マキアの後ろを着いていく男はジョインとリアナを一瞥した。



「あら……幹部候補というからどんなおじさんかと思ったけど、可愛い子じゃない」


「まぁ、見た目だけはな。

けど、先月の奇襲を成功させた奴だぜ?」



ジョインは尋問部屋から出ていくS2を見つめた。そして、はあっと大きくため息をついた。



「全く……マキアはなんであんな生温ぃんだよ。

相手は幹部候補だぞ?

あんなヤツを牢屋から連れ出して……危機感無さすぎだろ。

あれか、箱入り娘のお嬢ちゃまだからか?」



ジョインの言葉にリアナはふふ、と意味ありげに微笑む。



「それもあるでしょうけど、何よりもマキアが強いからでしょ。

マキアを襲おうものならすぐにいなされる。

強いからこそ、'手懐ける'っていう尋問が出来るのよ。

まさに、尋問官としては異端中の異端でしょうね」



リアナの言葉にジョインは顔を歪ませた。



「……まじ意味分かんねぇ。

合法的に人を痛めつける権利を貰ってるってのに。


……まぁ、そんな奴がライタニアの幹部なんだから文句は言えねぇな」



ジョインの言葉にリアナは微笑んだ。





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