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野良猫奇譚談

作者: かりん党

私は猫である。

住んでいるのは大分県の深島という小さな離島に暮らす猫である。

この島では島民より我々猫のほうが数が多い。しかもありがたいことに、賢い島民が、我々をうまく利用して、猫に恩恵がもたらされる仕組みとなっているのでまず飢えることはない。それにすべての猫に名前を付けてもらっている。

私はある程度の地位を築き上げた野良猫の王である事を自覚している。決まった名前はあるのだが、昔は容姿からか、トラ、キジなどその他色々と呼び名が多様であった。その固定されない呼ばれ方が私は好きだった。

ずいぶん生きた。御年18歳とか。人間の年でいえば90歳くらいか。まあいい。

それよりも私は生まれた時から見える風景があった。

高い塀の上に座し、周りの景色を見ると、ふと、町並みや海の景色が消え、とてつもなく広い草原が視界に広がる。「あれっ?なんだ?」と思うと元の景色に戻る。

私が思うに、これは前世の記憶か?アフリカサバンナの記憶ではないかと想像した。

そして突然記憶が蘇った。

そう、私はかつて若いライオンだった。百獣の王といわれるあの雄々しい獅子。

生まれはアフリカ大陸ツァボというケニアの一地域に住んでいた。不思議とその時の姿はタテガミが短くライオンのメスに近い姿っだった。黄土色の草が繁る平原を駆けると、大地に乾いた風が流れ、短いタテガミや尻尾のたゆらぎなど、それはとてもとても心地がよかった。

振り返ると兄弟がいた。やはりタテガミの短い姿とよく似た顔つきに何とも言えぬ懐かしさを覚えた。我々は無敵だった。この地に生を受け、恐れる生物は皆無だった。

そんな平和が突然壊された。

鉄道とやらを作るとかでやたらと人間が集まっている。肌が白かったり茶色、黒、黄色と多種多様な人種がいるものだと木の上から兄弟と眺めていた。

人間とやらは動きも遅く、我々を見ても逃げない(気づかない?)ので一匹試しに食してみた。美味とはいかないが、最近数がめっきり減少したパワフルな水牛や足の速いインパラを狩るより簡単手軽なので兄弟で競うようにこれらを食した。

ある日のこと。人間が火と爆音が出る道具を我々に向けてきた。よくわからないが危険を感じて身をひるがえすと自慢の牙に何か熱い塊が当たり、折れた。いわゆる銃という武器だった。非力な人間でもこれがあれば我々と戦えると思ったのか時折攻撃を受けた。

幾度かの人間による襲撃後、私は激しい痛みの中、意識がなくなった。

目が覚めると、この離島で生を受けていた。

そう、我々は既に気づいている。この島の猫だけではない、全世界にいる猫たちも。

日夜、我々はじっと見つめる。餌をくれる人々の顔を。我々は人間の膝に乗り、撫でる手や指の細さと、少し爪をかけると出血する人の肌の薄さをを知っている。

そして、今日も人間に語り掛ける我々「そろそろお前らを食ってやろうか」と。

島民の少女は、やたらニャーニャーと甘えて鳴く全ての猫たちが、じっと自分の顔を見ているのに気づいた。


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