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裁きの雷が落ちる場所

作者: ウォーカー

 ついさっきまで明るかった夕暮れの空を、黒い雨雲が湧き出て覆っている。

間もなく大粒の雨が落ち始めて、辺りは激しい雨となった。

雨雲の下、寂れた神社の軒下で、一人の男子生徒が雨宿りをしていた。


 その男子生徒は大人しい性格で、

人気ひとけのない場所を求めて、この神社を訪れていた。

人気のない場所で好きな本を読む。

推理小説、歴史書、物理学書、それがその男子生徒の楽しみだった。

しかし運悪く夕立に見舞われ、身動きが取れずにいた。

「天気予報は晴れのはずだったのに、夕立なんて参ったなぁ。

 これじゃあ読書に集中できないよ。

 ・・・げげっ!あれは。」

雨空を見上げていたその男子生徒は、遠くに人影を見つけて顔色を変えた。


 静かな神社の空気を破るように現れたのは、数人の男子生徒たち。

どの生徒もその男子生徒と同じ制服を着ている。

それもそのはず、現れた男子生徒たちは、

その男子生徒の天敵であるいじめっ子たちだった。

いじめっ子の男子生徒たちは、神社でも無遠慮に大声ではしゃぎ合っている。

雨でぬかるんだ神社の地面を無神経に踏み荒らし、

靴についた泥を無作法に払い飛ばしながら、

やがてその男子生徒がいる軒下へとやってきた。

「なんだ、お前もここで雨宿りしてたのか。」

「全く、こんなところに一人でいるなんて、相変わらず根暗な奴だな。」

「ここは俺たちが雨宿りで使うから、お前は他所へ行けよ。」

いじめっ子たちは、その男子生徒に、吐き捨てるように言った。

言うまでもなく、外は夕立の激しい雨が降り注ぎ、

雨雲からは雷鳴まで聞こえている。

こんな雨の中で外に出れば、すぐにずぶ濡れになってしまうことだろう。

ここには僕が先にいたんだ。出ていくのはそっちだろう。

そう言いたいところだが、その男子生徒は口にできない。

相手はいじめっ子たちで体格もよく多勢に無勢。

もしもここで食ってかかったら、明日から何をされるかわからない。

仕方がなく、その男子生徒は、

鞄を頭の上に掲げて傘代わりにし、夕立の中を駆け出した。

頭の先から靴の中まで、あっという間に雨に濡らされていく。

それでも、いじめっ子たちから逃れられるなら安いものだ。

そう考えていたその男子生徒に、計算外のことが起こった。

突然、まばゆい光が辺りを包んだかと思うと、その男子生徒の体が硬直した。

ほとんど間を置かずに、大きな雷鳴が響き渡った。落雷が起こったのだ。

その男子生徒は、落雷をまともに受けて、

ぶすぶすと小さな煙を上げて地面に倒れ込んでしまった。

落雷は人体に直撃すれば命にも関わる重大事。

雨宿りの場所を失ったその男子生徒は、不幸にもその生命まで失おうとしていた。

それなのに、その原因を作り一部始終を目撃した、いじめっ子たちはというと。

「すっげー!今の見たか?人間に雷が落ちたぞ!」

「こいつは珍しい、おい、スマホで写真に撮っておこうぜ。」

いじめっ子たちは、落雷に打たれたその男子生徒を見て大はしゃぎ。

救命行動をするどころか、

各々が持つスマートフォンを片手に記念写真を撮っていた。



 もやもやとした空間を体が漂い浮き上がるような感覚。

次にその男子生徒が目を覚ますと、そこは神社でも病院でもなかった。

そこは真っ白な霧のようなものが微かに漂う広大な空間で、

足元は雲が覆っている。

傍らには古めかしい着物姿の老爺ろうやがいて、

その男子生徒が目を覚ましたのを見て、穏やかに話しかけてきた。

「おお。やっと目を覚ましたか。気分はどうだ?」

「ここは、どこですか。僕はどうして。」

「よく聞くが良い。

 ここは天界。神の住む場所だ。

 お前は雷に打たれて死んで、この天界に送られてきた。」

「天界・・・?僕が、死んだ?」

「そうだ。

 わしは、お前がいじめられているのを見て、

 いじめっ子たちを雷で脅かしてやるつもりだった。

 それが逆に、落雷でお前を死なせることになってしまった。

 気の毒なことをしたと思っている。」

突飛な話だが、しかし心当たりがないわけでもない。

その男子生徒は気を失う直前、確かに雷に打たれた記憶がある。

全身を強烈な衝撃が襲って、立っていることもできなかった。

もしも生きているとしたら、このような無事な体ではいられないだろう。

それに、今いるこの場所も、静かで広大で、とても現世とは思えない。

夢ならいずれ覚めるはず。今はこの老爺の話を聞くことにした。

「理解ができたか?では話を進めるぞ。

 儂は雷を司る神、雷神だ。

 お前は、儂が起こした雷に打たれて死んだ。

 雷神の雷に打たれて死んだ人間は、次の雷神になるのだ。」

「僕が神様に?そんなの無理です。

 そもそも雷神様って、緑色の衣を羽織った鬼みたいな神ですよね?

 あなたはそのようには見えませんが。」

「それは初代雷神様じゃな。儂よりもずっと昔の雷神様だ。

 儂も元々は人間だったのでな。

 お前と同じく、雷神の雷を受けて次の雷神になった。

 だから、お前にもできるはずだ。

 最初は儂が一緒にいて指導してやるから、心配しなくていい。」

「でも、僕が神様になんて、そんな。

 自分が死んだこともまだ理解できていないのに。」

「お前はまず自分が死んだということを理解しなければならない。

 その上で、ここ天界では、悠久の時が流れている。

 地上とは時間の流れが異なる場所だ。

 いずれはお前の親しい者たちも寿命を全うし、天国なり地獄なりにやってくる。

 しかしそれまでには、お前は遥かな時間を待たなければならない。

 何もせずにいるには勿体ないと思わんか?

 特に何をするあても無かろう。

 儂の顔に免じて、雷神の役目を試してみては貰えんか?

 雷神になれば、人間たちがいる下界に影響を与えることもできる。

 お前にもやり残したことがあるだろう。」

雷神になって、人間の時にやり残したことをする。

その言葉の魅力は、その男子生徒が雷神の役目を引き受けるのには十分だった。


 天界の足元に広がる雲。

そこに開いた大きな穴から、今その男子生徒は下界を見下ろしている。

遥か下方の遠くに見える小さな下界は、

集中するとまるで望遠鏡を通したように鮮明に見えるようになった。

これが神の力かと、その男子生徒は実感するのだった。

その男子生徒は、雷神と名乗る老爺から、

まずはお試しとの条件付きで、雷神の役目を引き受けることにした。

雷神の能力とは雷を操る力。

雷神の役目とは、雷を操って、下界の世のため人のためになること。

世のため人のためになることと言うと幅広いが、

その男子生徒にとっては、やることは既に決まっている。

自分をいじめて死ぬ原因を作ったいじめっ子たちを懲らしめてやりたい。

それが世のため人のためにもなるはず。

そのために今、その男子生徒は、下界の様子を観察していた。

雲の穴を通して見る下界には、その男子生徒が通っていた学校が映っている。

学校では先生や生徒たちが校庭に集まって全校集会が行われている真っ最中。

その男子生徒が亡くなったことに関する説明が行われているようだ。

それなのに、当のいじめっ子たちときたら、先生の話もろくに聞かず、

他のいじめられっ子をいじめているのだった。

「あいつら、僕を死なせた癖に、反省もせずに他の子をまたいじめてるのか。

 雷神様、雷神の力って雷を起こす力だよね?」

「ああ、そうだ。今のお前はもう雷神の力が備わっている。」

「よし、じゃああいつらに雷を落としてやる。

 もしもそれで死んだとしても、自業自得ってもんだ。」

それから全校集会が終わるのを待って、

いじめっ子たちが人気ひとけのない校舎裏に移動したのを見計らって、

その男子生徒は雷神の力を使った。

神の力は偉大だが、使う神自身には造作もないこと。

特別な儀式などは必要なく、ただ念じれば良いということだった。

その男子生徒が念じると、やがて学校の上空に真っ黒な雨雲湧き出てきた。

大粒の雨粒がいじめっ子たちを襲う。

それと同時に、大きな稲光が輝き、

雷がいじめっ子たちを打ち砕いた・・・はずだった。

しかし実際には、雷は近所の木に落ちただけで、いじめっ子たちは無傷だった。

もう一度、もう一度。

しかし何度試しても、雷は落とそうとしたところには落とせなかった。

「あれ?また外れた。僕のやり方が悪かったのかな?」

「それもある。

 しかしそれ以上に、雷神の力はその程度ということだ。

 雷神は雷雲を起こして落雷を起こすことができるが、

 雷が落ちる先までは選べない。

 それは下界の事情による、雷の性質だからな。」

雷神の説明は、その男子生徒にはやや落胆させる内容だった。

てっきり、その男子生徒は、雷を操る力は万能だと思っていた。

雷は電気、人を殺すこともできれば、膨大なエネルギー源にもなりうる。

しかし実際には、雷神の力は雷の原因を作るだけ。

電気の性質を変えたりすることはできない。

起こった雷がどこに落ちるのかは、下界の状況次第ということだった。

その男子生徒は口を尖らせて雷神にぶーぶーと文句を言った。

「それじゃ、雷神の力なんて大したことないじゃない。

 大事なのは原因じゃなくて結果なんだから。」

「ふぉっふぉっふぉ、まあそう言うな。

 神が私利私欲のために下界に干渉してしまわないように、

 神は無数にいて、各々で力を分け合っているわけだ。

 しかし雷神の力だって、工夫次第では色々なことに使えるのだぞ。」

「ところで、雷神様は、僕と同じく元々は人間だったって言ってたよね?

 どうして人間から雷神になったの?」

すると雷神は遠い目をして懐かしそうに答えた。

「儂が生きていた頃は、この辺りに人はこんなにいなかった。

 僅かな人数の人たちが、藁葺き屋根の家に住み、

 田んぼを耕して飢えを凌いでいた。

 ところがある時、大きな干魃かんばつが起こった。

 雨が全く降らず、田んぼは干上がって作物は取れなくなった。

 困った儂たちは、天の神に雨乞いをするために舞を踊っていた。

 すると、その当時の雷神様が、それに応えてくれようとした。

 雷神の雷を起こす力を利用して雨雲を発生させて雨を降らせてくれたんじゃ。

 恵みの雨に儂たちはたいそう喜んだ。

 そこまでは良かったんじゃが・・・。」

「雷神様が発生させた雨雲って。」

「そう、そこじゃ。

 雷神様の力は雷を起こす力。

 雷神様が発生させた雨雲は雷雲、本来は雷を発生させるためのものだった。

 当然のように雷雲からは雷が発生し、雷は運悪く儂の突いていた杖に落ちた。

 そうして儂は雷神様の落雷に打たれて死んで、次の雷神になったわけじゃ。」

「なるほど、そんな事情だったんだ。

 ・・・あれ?待てよ。

 雷神の雷に打たれて死んだ人間は、次の雷神になるんだよね?

 じゃあ、僕がいじめっ子たちを落雷で殺したら、

 いじめっ子たちが次の雷神になっちゃうじゃない!」

「ふぉっふぉっふぉ、そういうこともありえるかもしれんな。」

危うく、その男子生徒は、

復讐相手のいじめっ子たちを神様にしてしまうところだった。

ぶんぶんと頭を横に振って、その男子生徒は作戦の練り直しをするのだった。


 次に、その男子生徒がいじめっ子に復讐するために思いついたのは、

落雷で火を起こすことだった。

落雷自体でいじめっ子たちを殺してしまえば、

いじめっ子たちを次の雷神にしてしまうかもしれない。

しかし、死因が落雷の直接の影響でなければ、それを回避できると考えた。

落雷で火を起こし、火事を発生させて、いじめっ子たちを死に至らしめる。

だが、そんな作戦もやはり上手く行かなかった。

対象が燃える物であれば何でも良いので人間相手よりもましとはいえ、

やはり雷を落とす対象を選ぶのは難しい。

しかも雷雲は雨も降らせてしまう。

雨で濡れた物に落雷で火をつけるのは尚更難しい。

何度も何度も雷を発生させたが、火事どころかボヤを起こすのが精一杯だった。

「やっぱりこれも無理かぁ。

 それに、火事なんて起こしたら、他の人も巻き込んでしまうものな。」

成果といえば、相次ぐ落雷にいじめっ子たちを不審に思わせたくらい。

何者かの策略か、はたまた天罰か。

しかし、それもすぐに気の所為だとあしらわれてしまった。

いじめっ子たちを狙って火事を起こして焼き殺すなど、とても叶わず、

その男子生徒は天界の雲の上に体を放り出して寝転んでしまった。


 天界の雲の上に横になって、その男子生徒は考えた。

考えて考えて、ガバっと起き上がって言った。

「そうだ。雷をそのまま使おうとするから駄目なんだ。

 雷は電気だ。電気が流れれば、電磁波が起こる。

 電磁波を使えば良いんだ。」

名案とばかりに指を鳴らすその男子生徒に、

雷神である老爺が興味深そうに尋ねた。

「ほほぅ、なにか妙案でも見つかったか。」

「うん、雷神様。

 光、可視光って電磁波の一種なんだ。それを使おうと思う。

 雷を使って電気を流して、電磁波を起こしてみる。

 今度は落雷とは違って電気の性質を利用するものだから、

 もっと正確に制御できると思う。」

「それはつまり?」

「雷で映像を映すってことさ。」

そうしてその男子生徒はまた下界を覗き込んだ。

またしてもいじめっ子たちは、学校の校舎裏に集まっている。

そこに雷神の力を使って、雷雲を発生させる。

ちょっとずつちょっとずつ、雷を制御して、目的の電磁波を発生させていく。

ここではその男子生徒の好きな物理学の知識が役に立った。

微細な雷を上手く制御して電磁波を発生させると、

やがて、何もない空間に、ぼやーっと映像が浮かび上がった。

それは、雷に打たれて黒焦げになった、その男子生徒の姿。

おどろおどろしい遺体の映像が、いじめっ子たちの前に映し出されたのだった。

しかし、いじめっ子たちは物を知らぬ幼児というわけではない。

遺体の映像が現れたところで、泣き叫んだりすることはなかった。

最初こそ、突然現れた映像に驚いたようだった。

しかし、映像自体が薄く不鮮明なのもあって、反応は今ひとつ。

映像を確かめ、そこに何も無いのを確認すると、すっかり落ち着いてしまった。

目をごしごしして、どうせいたずらか見間違いだろうと結論したようで、

いじめっ子たちは映像に見向きもしなくなった。

「くそっ!あいつら、幽霊が怖くないのか?」

「幽霊の正体見たり枯れ尾花、というところではないかの。」

雷神の指摘に、その男子生徒は歯ぎしりをしている。

それからその男子生徒は、自分の遺体の映像を、

いじめっ子たちだけでなく、他の人たちにも見せてみた。

学校にいた先生、生徒、近くにいた人たち。

しかしそのどれも、最初は驚いてくれるのだが、

そこに何もないと分かると、やはりあまり興味を示さなくなってしまった。

雷神の力で映す映像が不安定で、

長時間安定して映し続けられないのが災いしたようだ。

薄く出たり消えたりする映像は、せいぜい見間違いとしか思われなかった。

「あー!だめだ!」

その男子生徒はまたしても頭を抱えてしまった。


 いじめっ子たちに復讐しようと三度みたび失敗して、

その男子生徒は頭を抱えていた。

「雷を使って電磁波を起こす。着眼は良いはずなんだ。

 でも、映像を安定して映し続けることはできない。

 どうしたら良いんだろう。」

すると雷神である老爺がのんびりと言った。

「いっそ復讐なんぞに拘る必要はないのではないか?

 お前をいじめたいじめっ子たちは、

 若くして既に地獄行きの要件を満たしているように思える。

 お前が今復讐せずとも、死ねば裁きが下されるぞ。

 お前が無理に自ら手を下さずともよいではないか。」

「それじゃあ駄目なんだ。

 いじめっ子たちは死ぬまでに、またいじめる相手を選ぶから。

 それを止めさせるのが、僕が思った世のため人のためになることなんだ。

 これ以上、被害者を出さないためにも、いじめっ子たちを放っておけないよ。」

「とはいえ、雷神の力は、言ってみれば、

 電気と、後は音と光くらいなものじゃからのぅ。」

「神様の力もたいしたことないね。

 ・・・いや、待てよ。電気と音と光?

 そうか!電磁波の使い方だ!その手があったか!」

頭上から降り注ぐ雷のように、妙案がその男子生徒の頭に降りてきた。

首を傾げる雷神を他所に、その男子生徒の復讐作戦が始まろうとしていた。


 人がすっかり寝静まった深夜。

その日の夜遅くに降り出した雨は衰えること無く、

時折、雷を伴う雷雨へと変わっていった。

いじめっ子もいじめられる子も、等しく夜の眠りの世界にいた。

すると突然、いじめっ子たちのスマートフォンが一斉に鳴り始めた。

「な、なんだ!?」

「こんな夜中に電話なんて、誰からだよ。」

各々の自宅に寝ていた、いじめっ子たちが、

電話の音に睡眠を妨害されて、のそのそと起き始めた。

睡魔に呆けた顔でスマートフォンの画面を見て、そして戦慄した。

スマートフォンの画面には、落雷で死んだあの男子生徒の名前が表示されていた。

いじめっ子たちは泡を食って騒ぎ出す。

「あ、あいつ、死んだはずなのにどうやって電話を?」

「そもそも、俺はあいつの番号なんて登録してないぞ!」

そうしている間にも、電話の呼び出し音は続き、振動機能までもが加わった。

電話の呼び出し音が死人の叫び声に聞こえる。

電話の振動音が死人のうめき声に聞こえる。

いじめっ子たちは堪らず、電話を取ってしまった。

受話器からは、ザザッ、ザザッとノイズだけが聞こえる。

それが急に静まったかと思うと、恨みに満ちた声が聞こえてきた。

「僕をいじめ殺したことを、みんなに告白しろ。

 僕はお前たちのせいで雷に打たれて死んだんだ。

 それを包み隠さず、親や先生に報告しろ。

 証拠は、お前たちのスマートフォンの中にあるはずだ。

 そうしなければ、僕はお前たちを許さない・・・!」

電話の向こうからは、ただそれだけが繰り返し聞こえている。

いじめっ子たちは、ある者は泣き叫び、

またある者はスマートフォンを投げ捨てて布団に頭から潜り込んだ。

しかし、切っても切ってもその電話は止まらない。

着信拒否しても、着信通知を消しても、いつの間にか元に戻ってしまう。

いたずら電話だと電話会社に問い合わせても、

その時間にそんな番号の電話は使われていないと言われてしまった。

恨みの電話は、その晩を始まりとして、いつでもどこでもかかってきた。

その男子生徒からいじめっ子たちに電話がかかってくる時、

その時は決まって、外は激しい雷雨になるのだった。

雷が神の怒鳴り声に聞こえる。

激しい雨が死者の血涙に思える。

雷雨はいじめっ子たちにあの日のことを思い起こさせた。

雨宿りしていた男子生徒を、雷雨の中に歩かせ、

落雷で死なせたあの日のことを。

あの時、いじめっ子たちは、いじめた相手を心配するどころか、

面白がって遺体の写真を撮っていた。

その写真は今もスマートフォンの中に残っている。

震える指でその写真を確認してみる。

すると、写真の中の黒焦げの死体は、落ち窪んだ瞳で、

こちらをじーっと覗いていたのだった。

「わあああああ!」

「ごめんなさい、ごめんなさい!」

そうして、いじめっ子たちは、自分たちがしたことを、

証拠写真付きで親や学校の先生に白状していったのだった。



 それから、その男子生徒がどうなったのか知る人間はいない。

分かっていることと言えば、亡くなったその男子生徒が在籍していた学校では、

数人の悪名高い生徒たちが学校からひっそりと姿を消し、更生施設へ行ったこと。

とは言え、いじめが無くなったわけではなく、今でも時折いじめは起こっている。

手を変え品を変え相手を変え、悪事いじめは起こる。

悪事が起これば、その被害に遭う者がいる。

被害者が救われることは期待できない。

だが、生徒たちの間では、ある噂がまことしやかに囁かれている。

いじめが起こると、いじめっ子のところに電話がかかってくる。

電話はいじめを白状するよう迫る内容で、切っても切ってもまたかかってくる。

まるで外部から操作でもされているかのように、

着信拒否も着信通知拒否もできない。

電話を取ることしかできない。

いじめを白状して止めるまで、その電話から逃れることはできない。

そんな何者かからの電話がかかってくる時は、

決まって外は激しい雷雨になるのだという。



終わり。


 亡くなった人は神様になると聞きます。

では、亡くなった人が神様になって、

それでも現世とのしがらみを捨てられない場合はどうなるのか。

そんな場合を考えて物語にしてみました。


亡くなった人が神様になって、

現世の事情について理解した上で助けてくれるなら、

人が神様になるのも悪いことではないように思いました。

人の事情を一番良く知っているのは、神様より人でしょうから。


お読み頂きありがとうございました。


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