第1章:異世界 4部: 異世界人
[登場人物]
山田一貴 38歳、独身。サラリーマン、動画好き。不慮事故で転生。
スラスラ スライム、イグドラシルの住民
モイ 大蜘蛛、イグドラシルの守護者
イグドラシルを登ってから3日が経った。
その間にミョウガを使った料理。
料理というほどでもないが、そのミョウガ味焼肉を特段に気に入った2匹に鳥肉を焼く日々が続いたのだ。
ほんの数日前は肉が食べられることに感動したが、3日3食とも肉が続いた今はしばらく見たくないほどになった。
ミョウガが無くなったことでようやく焼肉パーティーは終わる。
次は魚だ。
魚のさっぱりした肉をミョウガで焼いて食べたい。できたら生で食べたいが、恐らく見慣れない魚しかいないだろう。
大樹イグドラシルに立て掛けて置いていた釣竿を見、竹が必要なことを思い出した。
コップや皿といった生活用品に加工できる竹。前の世界ではプラスチックにとって代わられたが、江戸時代までは竹素材も多かったのだ。
釣竿の木では引っかかって、しなった時に折れる。竹はある程度しなれるのだ。
さっそく、食べ終わって満足しているモイに話しかけた。
「モイさん、北に竹らしい密林があるんだよね?そこまで案内してくれないかな?」
「ん?おお?案内か。案内してやりたいが、ワシはここを離れることはできん。イグドラシルを守らんとイカンからな。」
「守るって?何から?」
「西にイグドラシルを狙っている連中がいるんよ。」
「連中?」
「うむ。ここからだいぶ離れているのだがな、、、、。」
「まぁ、来たら来たで追い払うんやけど。いつ来るか分からんから。張り付いとるんよ。」
「そんな訳やから、すまんが、その竹とやらはスラスラと行ってくれ。」
「スラスラは場所分かるの?」
「たぶん大丈夫なのー!」
少し不安を覚えながら、スラスラと準備を整え、北に向かって歩き始めた。
この森は深い。
どの方角に行っても薄暗い。
太陽が昇っている内はいいが、夕方になると暗くなる。その為、夕方は行く先で火を点けて松明を作らないとほぼ見えなくなる。
夜は月が出るので、少しマシだ。
そういえば太陽は2つあるが、月は1つだ。
そんな事を思いながらしばらく歩くと、川にたどり着いた。
「ここから川沿いに歩くなのー。」
と西に向かって歩いていくスラスラについて行った。
まだ太陽は真上に差し掛かろうとするぐらいだ。時間はまだある。
川を覗きながら歩いていく。
前は巨大魚が水面を飛んでいたが、今は見当たらない。
「スラスラはここにはよく来るの?」
「あまり来ないなのー。いつもはイグドラシルの周りで遊んでるなのー。」
「そうなのか。竹って分かる?」
「竹か分からないなのー。それっぽいのは見た事あるなのー。」
「あとちょっとで着くなのー。」
川沿いに歩いて、10分ぐらいだろうか。
突然、スラスラが川沿いを離れて、森に入って行った。この辺だろうか。
またしばらく歩くと、少し開けた所に出た。
目の前に見慣れた木があった。
竹だ。
辺り一面に生えている。竹林。
ようやく見つけた。
これで色々と雑貨が作れる。
さっそく取ろうと思ったが、刃物は何もない。その為にモイの牙や爪を借りようと思ったが、イグドラシルに残ってしまった。
スラスラなら倒せるだろうか?以前見た木を抉る技は見たことある。
「スラスラ、この木倒せないかな?」
「切ってもいいなのー?」
「切れるの?」
「ザクッとできるなのー!」
「ほんとお願い!根っこ辺りから切り倒して欲しい!」
「任せるなのー!」
スラスラは竹の前に立つと、身震いした。
身体から水の刃がほとばしる!
スパッ!スパッ!!
太い竹をあっさりと切り込み、竹はゆっくりと後ろに倒れていった。
ドスーン!!!
「スラスラ!すごいなっ、それ!」
「えへへ、久しぶりにやったなのー!」
スライムはゲームの世界だと弱く描かれるが、スラスラはかなり強いんじゃないかと思った。あの大蜘蛛モイと仲良しなだけある。
さっそく竹から枝や葉っぱ集めに取りかかる。
ここの植物は生長が早いのか、この竹も背が高い。50メートルはある。
まず釣竿になる枝を探した。
どの枝も幸いに良い枝ぷりだ。太くて長い。釣竿に良さそうな枝ばかりだ。葉っぱも付いている。
あとはコップやお皿になる胴体の切り出しだ。スラスラに切り出し場所を教え、切ってもらった。ササッとカットしてくれる。切り口も綺麗だ。このまま使えそうだ。
これで目標は達成できた。
また必要な時に取りに来たらいい。持てるだけ持って、さっそく戻ろうと竹林から見えるイグドラシルへ向かおうとした。
「あ、そちらは危ないなのー。」
「え?」
「崖があって登れないなの。遠回しに行くなの。」
薄暗く奥までは見えないが、遠回りしてきたのはそういう事だったのか。
川側に向かい歩き、そこからまた来た道を戻っていった。
イグドラシルに着くともう周りは暗くなり始めている。急いで火を起こし、食事の準備にかかる。今日は枝豆とキノコのミョウガ炒め。ミョウガの香りが食欲を誘う。調味料、塩や醤油があるともっといいが、、、。
モイも来るかも知れないのでありたっけの食材を使おう。明日また集めればいい。
出来た料理をスラスラに取り分け、モイの分も取り置いて、自分のを食べ始めた。
うん。味は薄いが悪くはない。ミョウガが効いている。タンパク質もビタミンも含まれているから栄養価では申し分ない。食べながらモイの分に目をやり、イグドラシルを見上げた。今日は来ないのか?珍しいもんだ。
肉を食べすぎて腹一杯なのかも知れない。
スラスラはもう直ぐ食べ終わる。
「今日はモイさん来ないね。これも食べていいよ。」モイの分を差し出すと嬉々として食べ始めた。けっこうな食いしん坊だ。
食べ終わると周りはもう真っ暗になっている。食後の運動に立ち上がり、松明を持ってイグドラシルの広場へと歩いた。
月明かりに照らされた広場の真ん中に見慣れない木がいくつか浮かび上がっている。
近寄るとリンゴが生っている。
前に種を植えたリンゴだ。
1ヶ月もしないうちに大きくなり、実を結んでいる。凄く早い成長だ。1個もぎ取りかじってみると美味しい。いつも取っているリンゴと変わらない。少し前に植えた枝豆も育っているがまだ実は実っていない。もしここで採れるならわざわざ行く必要がないから助かる。魚が取れるようになれば食事の心配は当面大丈夫だろう。
それにしてもこの成長の速さはこの世界の特徴なんだろうか?周りの木々も高いし太い。
ふと思いついた。
竹槍を作ろう!
この周りでは動物を見かけないが、居るはずだ。ずっとモイ頼りではいけない。自分でも狩らなければ。それに竹槍に草つるを結めば
魚を突くことも出来る。
さっそくイグドラシルの穴に戻ると、休んでいたスラスラにリンゴをあげると竹をカットしてもらうよう頼んだ。
スラスラはノリノリでカットしてくれた。
竹槍が2本、手に入った。
《カズキは攻撃力が5あがった。》
そんなナレーションを頭の中で流し、近くの木を突いてみた。
ズドッ!
なかなか良い。木に穴が空いた。竹の先端も凹みがない。思ったより鋭い。扱いに気をつけないとなと思い、竹の末端に穴を開けてもらい、草つるを通した。竹の投げ槍だ。さらに竹を縦に割り、太さが良さげなものを選んだ草つるを先端に付ける。釣竿の完成だ。エサは現場調達だ。
これで明日の釣りの準備はOK!
早いけど寝よう。焚き火の火を落として眠りについた。
翌朝、天気がいい。快晴!
穴から出ると、背伸びする。
リンゴを取り出して、スラスラの前に置き、釣竿と投げ槍を手に取って、リンゴかじりながら歩き出す。昨日の竹林への道にあった河岸を目指した。穏やかで釣りがしやすそうだったからだ。少し歩くと後ろから食事を終えたスラスラがついてくる。
「スラスラは魚は食べれるの?」
「食べれるなのー!」
「そか、、、まぁそんな気はしたよ。」
「魚は自分で取って食べてるの?」
「たまに打ち上げられた魚を食べるのー!」
「う〜ん、何でも食べれるんだなぁ。」
行く道で草つるやエサになるミミズや虫を拾いながら進むと、河が見えた。
天気が良いのもあってか、河の水は透き通ってて綺麗だ。
さっそく腰を下ろし、竹の棘にミミズを刺して投げてみる。
草つるはそんな長くないから遠くまでは飛ばない。夕方前までに1〜2匹釣れたら良い方だろう。のんびり構えようとしたその時。
竿がしなった。
引いている。
「え?投げたばかりだぞ?」
「草かなんか引っかかったのかな。」
立って引いてみると草つるが暴れている。
魚だ。
いきなりヒットしてびっくりしたが、落ち着いて竿を引く。リールなんてない。
時々暴れるがなんとか竿を立てて引くと魚の姿が見えた。後ろに下がって一気に引く!
魚が打ち上がる。上がった魚はピチピチと跳ねて、岩の上に横たわった。
サンマに似た感じだが、色は少し赤い。
食べれるのか分からないが、とりあえず1匹釣れた。
「よし!この調子で釣りまくるぞ!」
エサをつけ、また投げる。
するとまたすぐに竿がしなっている。
「ど、どうなってるんだ?この河。」
「まさか魚も食いしん坊なのか、、、」
「魚いっぱいなのー!」
その後も、入れ食いというほどに投げては釣れる。そんな状態が続き、振り返ると魚の山が出来た。
「こんなに食べれないから、今日はもう戻ろう。」
「スラスラ、これ食べていいよ。」
と、10匹ほどスラスラの前に置いてあげる。
手を伸ばして身体に取り込んでいくスラスラを横目に大きな葉っぱに魚を包んでいく。
「さて、戻るか!今日は焼き魚だな!キノコとミョウガの葉っぱの包み焼きもいいな!」
「美味しそうなのー!」
「まだ食べるのか、、、。」
暗くなるどころかまだ太陽が真上に見える時間に帰路についた。
帰り途中に枝豆やミョウガも回収し、少し太陽が傾いてきたときにイグドラシルに着いた。
そこにはモイの姿が見えた。
さらにモイの側に誰がいる。
いるというより倒れている。
「モイさん、その人は、、、?まさか」
「お?帰ってきたか。これはエルフだ。森で倒れていたんでな連れてきた。」
「え?エルフ?」
肌は真っ黒で、耳はとんがっている。
背も高そうだ。手も長い。
そして女性のようだ。
「あ、あのモイさん。まさか、た、食べるの?」
「ん?食べないぞ?エルフは食べれないからな。」
「そ、そっか。それは良かった。」
「気絶しているのかな?」
「見つけたとき倒れていたな。」
「それが良いかもな。たぶんお腹空いて倒れたんだろう。」
「行き倒れか、、、。」
「じゃ、起きるまで食事の用意しとこう。」
「美味しそうな魚取ってきたな。よし、ワイも肉を取ってこよう。」
そういうとイグドラシルに登っていった。
「スラスラ、木の枝と枯葉集めてくれないか?」
「任せるなのー!いっぱい集めてくるなのー!」と森の中に消えた。
火を起こすと、広場のリンゴを取りに行った。となり見るともう枝豆も生っている。
これで取りに行く手間が省ける。
枝豆とミョウガが石の器で濾して混ぜていると、上からモイが現れた。
「運がいい。近くに鳥がいた。」
いつもの鳥が2匹並んでいる。
スラスラも大量に枯木や枯葉を集めてくると、さっそく鳥の羽を取り除いてくれた。
ひと口サイズにカットしてもらい、熱した石板に乗せていく。ミョウガとキノコも和えて、リンゴ汁をかける。今ある素材を活用していく。
肉が焼けていくと、焼ける音と匂いで、エルフが眠りから目覚めた。
ソッと近づいて、恐る恐る声をかけた。
「大丈夫か?」
その返事がかえってくるより、エルフへ立ち上がり、石板の上にある鳥肉を掴んでは口に放り込む。
その瞬間、口を押さえて、後ろに倒れ、悶絶していた。
あっちーーーぃ!エルフの声にならぬ声が聞こえてきそうだ。
お腹がよほど空いていたんだろう。
ものすごい勢いで食べ、ものすごい勢いで悶絶している。
自分とモイとスラスラは呆然と眺めていた。
そしてモイ。
「う〜ん、エルフにも色々いるもんだな。」