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第2章・2話「ゼーマン辺境伯家での修行」




――エカード視点――



ゼーマン辺境伯家の朝は早い。


日が昇る前に叩き起こされ、十キロのランニング。


腕立て伏せ、腹筋、スクワット1000回、素振り1000回。(ちなみに辺境伯とリシェル嬢はこの十倍のメニューをこなしている)


そしてようやく日が昇った頃、屋敷に戻って朝食。


目の前では辺境伯とリシェル嬢によって、大量の料理が消費されていく。


俺は目の前のスープをスプーンでかき混ぜていた。


「皇子様、食べないの?

 うちのシェフの料理は美味しいわよ」


鶏の足を手づかみで掴み、豪快に口に運んだリシェル嬢が、むしゃむしゃと鶏肉を咀嚼しながら尋ねてきた。


「朝からあんなハードメニューをこなしたせいか、胃が食べ物を受け付けなくて……」


「あれでハード?

 初日だからかなり緩いメニューにしたつもりなんだけど?

 やっぱり皇子様って軟弱ね」


チーズケーキを両手に持ちながら、リシェル嬢がくすくすと笑う。


リシェル嬢はチーズケーキを手づかみし、そのまま口に放り込んだ。


お菓子のクズが彼女のほっぺについてる。


俺はリシェル嬢が頬に付けたお菓子のくずをとって、口に入れたい衝動にかられた。


「リシェル、食べながら話すのはやめなさい。

 それから料理はフォークやナイフやスプーンを使って食べろとあれほど注意しただろ?

 それなのにお前と言うやつは……。

 そんなことではお茶会にもパーティにも連れていけんぞ」


お茶会か、リシェル嬢に俺の髪の色の銀色のドレスか、瞳の色の紫のドレスを着せたいな。


ドレスや宝石で着飾ったリシェル嬢はさぞかし美しいだろうなぁ。


彼女は動きやすいという理由で男物の服ばかり着ている。


初めてリシェル嬢に会ったときも、彼女は男物の服を着ていた。


桃色の服を着て髪に同色のリボンを付けていたから女の子だとわかったようなものの、リボンを付けていなければ男の子と見間違えているところだった。


「お茶会やパーティなんて軟弱な集まりには行かないわ。

 私は一生ゼーマン辺境伯領で、魔の森のモンスターを退治しながら暮らすの!」


「誰に似てこんなおてんばに育ったのやら」


ゼーマン辺境伯がやれやれと言って肩をすくめた。


「見なさい、殿下の所作の美しさを」


俺はやっとのことでスープを一口飲み込んだところだった。


辺境伯に急に話を振られてむせそうになる。


「そうだ!

 リシェルは殿下に剣術を、殿下はリシェルにマナーを教えると言うのはどうだろ?」


「ええ〜〜!

 私、マナーの勉強なんてしなくていいわ。

 それに弱虫に剣術を教えてもつまらないよ。

 皇子様の師匠はお父様でしょう?

 お父様が皇子様に剣術を教えれば良いじゃない」


「わしは一応辺境伯だから書類仕事もせねばならんのだ。

 それにお前は辺境伯家の一人娘なのだから、どこのお茶会にお呼ばれしても恥ずかしくないように、マナーを完璧に覚えなくてはいけないのだよ」


「お茶会になんてお呼ばれしてもいかないもん」


「マナーを覚えるまで、魔の森でのモンスター退治を禁止する」


「お父様の横暴!」


リシェル嬢とふたりきりでマナーのレッスン!


ということは……『皇子様、フォークとナイフが上手く使えないわ』といって泣きべそをかくリシェル嬢の後ろに寄り添い、

『こうやって使うんだよ』と彼女の耳元で囁き、リシェル嬢の手を取りフォークとナイフの使い方を教えることができる!


ダンスのときはぴったりと寄り添って、彼女に愛を囁き続けることも可能!


二人で過ごす時間が増えれば彼女も俺に好意を……!


『皇子様のこと弱虫なんて言ってごめんなさい。私、マナーでは皇子様に手も足も出ないわ。それに比べて皇子様はテーブルマナーもダンスも完璧ね。私いっしょに過ごすうちに皇子様のことが……』

『皇子様ではなく、エカードと名前を呼んでくれリシェル』

『エカード、愛してるわ。

 お嫁さんにして』


そして二人の唇と唇がかさなって……!


な〜〜んてことになってしまったり! ぐふふっ!


「皇子様も私にマナーを教えるのは嫌よね?

 皇子様が剣術の稽古をする時間が減っちゃうもの!」


「ゼーマン辺境伯、リシェル嬢、おまかせください!

 俺がリシェル嬢を一流のレディーに育てて見せます!」


「ついさっきまで口を半開きにして鼻の下を伸ばしながら、ぐふふって声に出して笑ってた人に言われても……」


「わしも殿下のにやけた顔を見ていたら、殿下と娘をふたりきりにしてよいものか、不安になってきたよ」


リシェル嬢と辺境伯が冷たい目でこちらを見ている。


いけない! 皆の前で妄想していたせいで、二人に引かれてしまった!


「男が一度引き受けたことです!

 簡単には引き下がれません!」


ここで引き下がってたまるものか!


俺とリシェル嬢のラブラブハッピー恋人計画が!!


「わかった、そこまで言うのなら殿下にお任せしましょう」


「ありがとうございます、ゼーマン辺境伯!

 必ずやリシェル嬢を一人前のレディにしてみせます!」


「ええ〜〜!

 マナー教育やだぁ〜〜!」







もしここで俺がリシェル嬢のマナー教育を断っていたら、彼女は生涯ゼーマン辺境伯領で伸びやかに暮らせたのかもしれない。


数年後、成長した彼女は王都のお茶会に参加し、王妃に目を付けられてしまうことになってしまう……。





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