オマケ「砂糖よりも甘いため息を吐く」
※リシェルとエカードの出会いをリシェル視点から書いてみました。
※後半は結婚前のリシェルとエカードがイチャイチャしてます。
――リシェル視点――
――十一年前、ゼーマン辺境伯領――
私とエカード殿下との出会いは、十一年前ゼーマン辺境伯領の魔の森、エカード様十歳、私は七歳だった。
ガーゴイルの大群に取り囲まれて、泣きべそかいてる子供が、まさか未来の伴侶になるとは思わなかった。
今覚えば、銀色の髪を後ろで一つに束ね、紫の瞳をうるうるさせていたエカード様は国宝級に可愛らしかった。
だけどあの頃の私は、剣術と強くなることにしか興味がなく、エカード様の美しさの虜になることはなかった。
七歳の私はご飯は手づかみで食べるし、食べながらおしゃべりするから、スープやパンをボロボロとこぼしていた。
お父様は「辺境伯家の長女としてマナーやダンスを覚えなさい」と口うるさく言ってくるけど、当時の私はダンスやマナーなんて「なにそれ美味しいの?」って感じでまるで興味がなかった。
当時の私は、平民の子供より礼儀がなってなかったと思う。
お父様は「お前に弟ができなかったら、お前がいずれ婿を取り辺境伯家を継ぐのだ。だからお勉強もしなさい」と言っていたけど。
私は自分の名前が書けて、あとは簡単な読み書きができればいいと思ってた。
書類仕事なんてお婿さんになる人や家令に押し付けておけばやれる。
だけど魔の森のモンスターは勇者の末裔である私にしか倒せない。
だから幼い頃の私にとっては、強くなることが全てだった。
エカード様に出会わなければ、私は今でも獣のように野山を駆け回り、モンスターを狩るだけの暴れ者だっただろう。
エカード様との出会いが私を変えた。
エカードは私に食事のマナーとダンスを教えてくれた。
今までに何人もの先生が、私に食事のマナーとダンスを教えようとした。
でも私がナイフやフォークを壁にいる虫に向かって投げるから、どの先生も怖がって逃げてしまった。
ダンスの先生も同じだ。私に投げ飛ばされた先生は、二度とこの屋敷を訪れることはなかった。
だけどエカード様は他の先生とは違った。
頬を私が投げたナイフが何度頬をかすめても、何度私に投げ飛ばされても、エカード様は諦めずに私に食事のマナーとダンスを教えてくれた。
エカード様の初対面の印象は、私が愛用してる剣も持てないひ弱な泣き虫だった。
この頃から私の彼への評価は、ひ弱な泣き虫から少し根性のある男の子に変わっていった。
エカード様は、朝の訓練を泣き言を言わずにこなしていた。
ランニング10キロ、腕立て伏せ、腹筋、スクワット1000回、素振り1000回。
これをやらせると、ほとんどの人間は初日に逃げ出してしまう。
でも彼は瞳に涙を滲ませながらも、訓練に耐えていた。
エカード様は、ミミックにも勇敢に立ち向かっていった。
飼いならされているとはいえ、ミミックに立ち向かっていった人間を初めて見た。
私はそんな彼に、惹かれていっていたと思う。
その証拠にある雨の日、彼がマナーの講師も剣術の訓練もサボったとき、私は一人で訓練するのが寂しくて彼の部屋に突撃している。
いつの間にかエカード様と一緒に訓練するのが当たり前になっていた。
その日彼の部屋に突撃したことがきっかけで、私は勉強の大切さを知ることになる。
私に勉強の楽しさを教えてくれた、エカード様と彼の教育係の先生には感謝しかない。
そんな穏やかだけど楽しい日々が何か月も続いて、私はマナーや教養を少しずつ身に着けていった。
だがその間に私は自分が少しずつ弱体化していたのだ。
エカード様と花畑にピクニックに行く日、私は己の強さを過信し剣を持って行かなかった。
完全に慢心していた。
その結果「おやつ」として認識していた猪の群れを倒しそこね、エカード様に重症を負わせてしまった。
彼が私を庇って大ケガしたとき、自分の体が恐怖で震えていることに気づいた。
己の油断で大切な人を傷つけてしまった。気がつけば自分の目から涙がボロボロとこぼれていた。
でも泣いてばかりはいられない。
私はボロボロになった彼を背負い、屋敷への道を走った。
森から屋敷までの道が果てしなく遠く感じた。
屋敷についた私はお父様に助けを求めた。
会議室のドアを蹴破り、「お父様どうしよう! エカード様が死んじゃう!」と泣きながら叫んでいた。
初代勇者様の残してくださった不死鳥の葉がなかったら、エカード様はこの世にいなかっただろう。
お医者様に「不死鳥の葉のおかげで一命はとりとめました。もう大丈夫ですよ」と言われても、私は彼のそばを離れなかった。
エカード様が目を覚ますまで、ずっと彼のベッドの側についていた。
多分、このときには私はエカード様のことが大好きだったんだと思う。
一週間後、彼が目を覚ましたときとても嬉しかった。
また彼の藤色の瞳を見ることができて、はしゃいでいた。
まさか彼に額にキスされるとは思わなかった。
そういうことに免疫のなかった私は、額にキスをされた衝撃で気を失ってしまった。
エカード様は私をおでこにキス一つで倒したのだ。
そのとき彼は「私より強い」という、私の結婚相手の条件を満たしたのだ。
そして目を覚ました私はようやく、エカード様が好きだと自覚した。
エカード様を好きだと意識したら照れくさくて、彼によそよそしい態度を取ってしまった。
だけどエカード様が帰国する日が間近に迫っていると知って、私は彼の部屋に突撃した。
アールグレイとチーズケーキの入ったバスケットを持って、こっそりと窓から侵入するのは楽しかった。
「卒業試験」という名のもとに、彼とのふたりきりのお茶会とダンスを楽しんだ。
まさか彼に唇にキスされ、私がその衝撃で倒れたタイミングでお父様が部屋を訪ねてくるとは思わなかったけど。
私はエカード様と相思相愛の関係になり、「リシェル」「エカード様」と名前で呼び合う仲になった。
エカード様が帰国してもまた会えると思っていた。
辺境伯令嬢の立場なら、いっぱい勉強すれば皇太子である彼と婚約できると思っていた。
まさか勇者の一族に、ニクラス王国の王族に服従する呪いがかけられていたなんて……。
私と結婚すればエカード様と私の子はニクラス王国の王族の言いなり……。
我が一族の呪いのせいで、私たちの婚約は成立しなかった。
私は、エカード様と結婚できないと知りショックだった。
そのもやもやをモンスターにぶつけ、魔の森の討伐に明け暮れた。
だけどエカード様は、私との結婚を諦めていなかった。
水面下でニクラス王国の王族を皆殺しにする計画を立てていたのだ。
お父様も王族と縁を切る方法がないか考えていた。
お父様の機転のおかげで、ゼーマン辺境伯家はニクラス王家から百万年の休暇を獲得した。
エカード様の活躍により、百万年経過する前にニクラス王国は滅び、王家の血を引くものは一人残らず捉えられ、儚くなった。
☆☆☆☆☆
十一年後、フリーデル帝国。
「リシェル、何を見ているの?」
「エカード様と結婚できないと知って、荒れていた頃に倒したモンスターの数と、アルド様と婚約して荒んでいた頃に倒したモンスターの数を記した日記を見ておりました。
あの頃はため息ばかりついておりましたわ」
「もう、そんなもの数えなくていいよ。
これからは俺が贈った宝石の数と種類を数えてほしいな」
「エカード様からは沢山の宝石やアクセサリーをいただきましたわ。
ハート型にカットされたアメジストのネックレスに、
オーバルカットされたタンザナイトのピアスに、
紫色のサファイアと言われるバイオレットサファイアをラウンドブリリアントカットした指輪に、
紫色のモルガナイトと言われるヴァイオレットモルガナイトのペンダントに、
ラベンダー翡翠のブレスレット。
どれも貴重で高価なものだと一目でわかるものでしたわ。
あら、よく考えると私がエカード様から贈られた宝石は紫色ばかりですね?」
「当たり前だよ。
リシェルには俺の瞳の色の宝石以外身に着けてほしくないからね」
リカード様に贈られた宝石が素敵過ぎて、別の意味でため息が出そうですわ。
「リカード様、愛が重いという言葉をご存知かしら?」
「愛が軽いよりはよくない?」
エカード様が穏やかにほほ笑む。
「それもそうですわね」
「それより、ウェディングドレスのデザイン画が届いたので見てほしいんだけど」
「またですか?
私、格闘技や剣術には詳しいですが、ドレスのデザインには詳しくありませんよ?」
この間もエカード様にAラインとプリンセスラインとベルラインとマーメイドラインのウェディングドレスのデザイン画を見せてもらったばかりだ。
「今から覚えればいいよ」
エカード様の抱えてきた紙の束には、ウェディングドレスのデザインが描かれていた。
この間見せてもらったデザインとは違った形のAラインとプリンセスラインとベルラインとマーメイドラインのドレスのデザイン画と、
今回はスレンダーラインとエンパイアラインとミニ丈とロングトレーンのドレスデザイン画も混じっている。
「どれも素敵ですが私にはどのデザインがいいのか、よくわからないわ」
「それならここにあるデザイン画のウェディングドレスを全部作らせて、君に全部試着してもらおうかな」
にこやかな笑みを浮かべるエカード様を見て、これからは宝石だけでなく、エカード様に贈られたドレスの数を数えることになりそうだわと思った。
――終わり――
「靴のデザインだけど、厚底とハイヒールだったらどっちがいいかな?
靴の素材は革とサテンとエナメルどれがいい?
布製の紐を編み上げて作ったフラットな靴なんかもいいよね?」
「エカード様にお任せしますわ」
読んで下さりありがとうございます。
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