第3章1話「不死鳥と初代勇者」
――不死鳥視点――
この世に生を受けて700年。
ここ数百年、不死鳥の羽を求め山を登ってくる人間もおらず、退屈していた。
そんなとき、突如として奴は現れた。
「よっす!
おらっちはレイ!
勇者やってるだ!
おめぇが不死鳥け?
どんなケガや病も治す薬を持っているってほんとけ?
おらっちにも一つ分けてくれさ!」
突如やってきたその男は、明るい笑顔でそう言った。
ここは神聖な不死鳥の山で、我は自分で言うのもなんだが、こう見えて神についで神聖な生き物なんだが……。
なんでこんなに気さくに話しかけられるのだ?
「よかろう!
薬が欲しければ我と戦え!
薬を得られるのは我と勝負し、我に勝利したものだけだ!」
「つまりおめぇに勝てば、薬がもらえるんだな!
おっし!
いっちょやってやるさ!」
そして出会って数分で、レイと名乗る男とのバトルになった。
「なっ、この我が負けただと?」
信じられん!
鋼の剣をでたらめに振り回すだけの、この猿みたいに男に高貴な我が負けたというのか……!
「さあ、約束通りおめぇに勝ったさ!
薬をくれっさ!」
「わかった、約束だからな。
仕方あるまい」
我が頭の羽をむしって男に渡すと、男は凄く微妙な顔をした。
「なんだ、貴重な不死鳥の羽だぞ?」
「いや〜〜、人間に例えるとハゲ頭のおじさんから髪の毛を貰ったようなもんさ。
薬とはいえ、髪の毛を食べるのは微妙な気分さ……」
「誰がハゲ頭のおじさんだ!
我の人型の姿はお前と同じくらい若い!
髪の毛もふさふさしているぞ!」
男は文句を言いながら不死鳥の羽を口に入れた。
「うげっ……もさもさして食べにくいさ」
「バカ、我の羽を直接食べるやつがいるか!
その羽は水に浸してから煮出して、汁の方を飲むのだ!」
「そんなことしていたらおらっち、おっ死んでるさ」
「は? どういう意味だ?」
「これを見てけろ」
男は手袋を外し腕をめくった。
あらわになった男の二の腕は、濃い紫色に変色していた。
「毒にやられたのか?」
毒が広がらないように腕の付け根部分を布で縛ってある。
「バジリスクとミドガルズオルムの毒を受けたさ。
僧侶に『解毒魔法が効かない』って言われた時は死ぬかと思ったさ」
「バカな!
バジリスクとミドガルズオルムの毒を受けて生きている人間などいるわけが……」
「ここにいるっさ!
おっ腕が普通の色に戻ってきたさ!
さすが不死鳥の羽、効果てきめんさ!」
こいつはバジリスクとミドガルズオルムの毒に冒されながら、モンスターが闊歩する危険な森や毒の沼地を超え、雲よりも高い不死鳥の山をロッククライミングしてきたというのか?!
そして毒に冒された状態で我に勝利したというのか!?
「信じられん……規格外の男だ」
「不死鳥さん、ありがとな!
すっかり元通りさ!」
「待て、毒が消えたならもう一度我と勝負を……!」
「仲間が待ってるからまた今度な!
おらっちか仲間が瀕死のケガを負うか、毒に冒されたらまたくるさ!
その時は羽じゃなくて、葉っぱかなんかもっと口に入れやすい薬を用意しておいてけろ!」
男はそう言って、我の静止を聞かずに山を降りていった。
「不死鳥の羽以外の薬だと……誰が用意するか、そんなもの」
後日、不死鳥の羽と同じ成分を持った植物を育て出した辺り、我も相当どうかしている。
きっと暇すぎておかしくなったのだ。
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それから何年かして不死鳥の木が順調に育った頃、その男は再び我の前に姿を現した。
「おらっちの仲間の戦士と魔法使いがスコーピオンの毒で苦しんでるさ、不死鳥の羽を二枚分けてほしいさ!」
「良かろう!
だが薬は我に勝った者にしか渡せん!」
久しぶりに男が現れたことに我の気持ちは高揚していた。
「いいさ!
いつでも相手になってやるっさ!」
「言っておくが我はあれから修行をつみ、以前より強くなっているぞ!」
「それはお互い様さ!」
男とのバトルは本当に楽しかった。
男の型は相変わらずめちゃくちゃで、攻撃手段は単調、だが……なぜか奴には勝てなかった。
「おらっちが二連勝したさ!
約束通り薬はもらっていくさ!
でも羽を一度に二枚も抜いたら不死鳥さんハゲたりしないさ?」
「不死鳥の羽はもう渡さん。
今は不死鳥の羽と同じ成分の不死鳥の葉を渡している」
と言っても不死鳥の木を育ててから、ここにたどり着いた人間はこの男以外いないのだが。
「へ〜〜!
じゃあこれで不死鳥さんの頭がハゲる心配をしないで、いっぱい戦えるさね!」
「我は不死鳥だ!
抜けた羽の代わりは、すぐに生えてくる!
ハゲたりはせん!」
「それは便利さ!
おらっちの国の国王様が知ったら、羨ましがるっさ!」
「そちの国の国王はハゲなのか?」
「つるっつるさ!」
「そうか、それは難儀だな」
「じゃあ、おらっちは仲間が待ってるから帰るさ!
またな不死鳥さん!
あんた、おらっちが戦った中で一番強かったさ!」
男はそう言い残して山を降りていった。
「またな……か」
退屈にも一人きりの生活にも慣れていたはずなのに、その言葉が妙に胸に響いた。
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