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第2章・10話「絶対勝てない相手に勝利する方法」



気がついたら俺は自分のベッドの上にいた。


全身がバラバラにされたみたいに痛い。


だけどどうやら生きているみたいだ。


手を動かそうとして、左手を誰かにしっかりと握られていることに気づく。


ベッドサイドに視線を移すと、リシェル嬢がいた。


「リシェル嬢……もしかして、ずっと俺の手を握っていてくれたのかな?」


心臓がドキドキと音をたてた。


彼女のふわふわの髪を右手で撫でようとしたとき、教育係が部屋に入ってきた。


間が悪いやつだ。


もう少し待っていてくれればリシェル嬢の頭を撫で撫でできたのに。


「殿下お目覚めになられましたか?

 眠っている幼女相手にセクハラするのは関心いたしませんね」


「セク……そんなことしてない!」


頭を撫でるのもセクハラになるのだろうか? 気をつけないと。


教育係は、俺が一週間目を覚まさなかったことを教えてくれた。


あの日、リシェル嬢は泣きながらケガをした俺を背負って帰ってきたらしい。


リシェル嬢は「私が油断したせいだ!」と言って、ずっと自分を責めていたらしい。


「リシェル嬢のせいじゃないのに……」


悪いのは弱いくせに飛び出して大ケガした俺。


リシェル嬢なら猪の不意打ちを上手く躱し、返り討ちにしていたかもしれない。


だけどもし同じ時間に戻ったとしても、俺は同じ行動をするだろう。


好きな人にピンチが迫っているのに無視する選択肢なんか、俺にはない。


「全身の打撲と擦り傷、足を骨折してますが、命に別状はありません。

 殿下は悪運が強いですね」


教育係にそう言われてホッとした。


俺が後遺症の残るケガをしたら、リシェル嬢が悲しむ。


「初代勇者が取ってきた、不死鳥の葉の残りがあって助かりましたね。

 それがなかったら目を覚ましたあなたは、痛みでのたうち回っていたでしょうから」


「不死鳥なのに葉っぱなの?

 羽や尾じゃなくて?

 もしくは世界樹の葉やエリクサーとかじゃなくて?」


「さぁ、そのへんは不死鳥に直接聞いてみないとなんとも」


もしかして不死鳥の頭から木でも生えているのかな?

 

子供の頃読んだ昔話に頭から木が生えてくる、ちょっとホラーな話があったような?


「というより初代勇者って三百年前の人だろ?!

 その人が取ってきた葉っぱってことは、不死鳥の葉も三百年前のものってことで……。

 そんな古い薬を飲んで大丈夫なのか??」


「大丈夫です。

 あなたがこうして目を覚まし、元気にお話しをされているのですから、飲んでも害はありません」


そういうものなのか?


「辺境伯に感謝してください。

 不死鳥の葉という伝説級に貴重なアイテムを、皇族とはいえ他国の者に提供してくださったのですから」


「わかってる」


不死鳥の葉を手に入れるのは、勇者の末裔でもきっと大変なんだと思う。


その証拠に、初代勇者以外誰も不死鳥の葉を取りに行っていない。


「それから、殿下が眠っている間に事故のことを帝都にいる陛下に報告しておきました」


父上に報告されてしまったか……。


「それで父上はなんと?」


「両陛下は殿下が大ケガを負ったことを大変心配しておられます。

 なのでケガが治り次第……」


「帰国しろと……?」


「はい。両陛下はそのように仰せです」


教育係が静かに頷いた。


両親がゼーマン辺境伯家に俺を預けたのは、高くなり過ぎた俺の鼻をへし折り、俺に広い世界を見せるためだ。


その目的は辺境伯家に来て数日で果たされている。


俺がリシェル嬢に惚れて予定が変わった。


俺のわがままで今まで辺境伯家に滞在させてもらった。

 

訓練にかまけて皇太子としての勉強も遅れがちだし、この辺が潮時かもしれない。


「そうか、リシェル嬢はそのことを?」


「まだ話してません」


「リシェル嬢には俺の口から直接伝える。  だから黙っていてくれないか?」


「仰せのままに」


教育係はそう言って、部屋から出ていった。


彼なりに気を遣って、リシェル嬢とふたりきりにしてくれたんだろう。


リシェル嬢は俺がここを去ると言ったら悲しんでくれるかな?


告白の返事はついに聞けなかったな。


「リシェル嬢……」


俺は彼女の髪にそっと触れた。


その瞬間、バシッと手を払われた。


「ごめん……皇子様、体に何かが触れると対条件反射でつい」


「うん、わかってる」


俺は彼女に振り払われた右手を押さえた。右手がじんじんしている。


「って、皇子様起きてる!

 目を覚ましたのなら、なんで私のこと起こしてくれなかったの!?」


「いや……俺も今起きたところで……」


「皇子様が死んじゃうかと思って心配したんだから!

 皇子様が目を覚まさないかもと思ったら、私、私……!」


リシェル嬢が瞳に涙をいっぱいに称える。


いけない、このままでは好きな子を泣かせてしまう!


「リシェル嬢、あの……」


リシェル嬢になぐさめの言葉をかけようとしたとき、

「皇子様のバカーー!」

リシェル嬢に怒鳴られた。


「えっと、ごめん……!」


反射的に俺は謝る。


次の瞬間、リシェル嬢が俺に抱きついてきた。


好きな子に抱きつかれて、俺の心臓は破裂しそうなぐらいバクバクと音を立てている。


「私は猪の突進を受けても平気なの!

 弱いくせになんで飛び出してくるのよ!

 バカバカバカ!!」


大粒の涙を流しながら、リシェル嬢が俺の胸をポカポカと殴る。


いやポカポカなんて軽い効果音ではなく、ボカボカと結構重い音がしてる気がする。


病み上がりなんで手加減して〜〜!!


「心配かけてごめんねリシェル嬢。

 でも、もし同じ時間に戻れたとしても俺は同じ選択をするよ。

 だって好きな人を見捨てるなんてありえないから」


リシェル嬢の両手を掴み、なんとかボカボカ攻撃をやめさせることができた。


「私は勇者の末裔だから簡単には死なないわ。

 平気だって言ってるのに助けにくるなんて、皇子様って絶対大バカでしょう?」


「うん、そうかもね」


恋をすればきっと全員馬鹿になるんだ。


「リシェル嬢、少しは俺に惚れた?」


「……バカな人は嫌い」


うん、そうなるよね。


わかっていても、面と向かって「嫌い」と言われると辛い。


「でも、大バカな人は嫌いじゃないかも」


「えっ?」


えっとこの状況で嫌いじゃないってことはつまり……??


いや、相手はリシェル嬢。期待値は下げていかないと。


しかし、このチャンスは逃したくない。


「え〜〜と俺が勝手にしたことなんで、こんなことを言うのはおこがましいんだけど。

 リシェル嬢を体をはって猪から守ったので、リシェル嬢からご褒美がほしいんだけど」


「ご褒美……?」


「その、い、嫌じゃなければ、君のほっぺ……いや、額でいいので……く、口づけをしたいなぁ……っと」


チラリとリシェル嬢を見ると、彼女の頬は少しだけ色づいていた。


嫌……ではなさそう。


ええい! 男は度胸だ!


俺は意を決して、リシェル嬢の額に口づけを落とした。


幼女の両手を押さえて、額に口づけを落とすとかなかなかシュールな光景だと思う。


このあとリシェル嬢にぶっ飛ばされて、天に召されることになっても俺は本望だ!


チュッと音を立てて唇を離すと、リシェル嬢はボンと音を立てて倒れてしまった。


「ええっ……! ちょっとリシェル嬢……!!」


「皇太子殿下、目を覚ましたと聞いて駆けつけました。

 お加減はいかがですか?」


そこに教育係とともに辺境伯が入ってきた。


辺境伯は倒れているリシェル嬢を見て、「わしの娘に何をしたーー!」と叫び、抜刀。


「ひーー! 誤解です! 辺境伯ーー!!」


辺境伯の誤解が解けるまで、俺は生きた心地がしなかった。



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