第2章・7話「ミミックとの再戦」
ゼーマン辺境伯領に来て五か月が経過した。
朝の基礎体力作りと、午後の剣術の訓練のおかげで俺はかなり強くなった。
なので今日は、ここに来たばかりの頃に戦ったミミックとの再戦をすることになった。
「皇子様、死にそうになったらいつでも助けて上げるから安心して」
「リシェル嬢、大丈夫だよ!
今回は前のようにやられたりしないから!」
ミミックとリシェル嬢の戦い方を見て、ひとつわかったことがある。
多分あれが奴の弱点だ。奴の弱点を突けば俺でも勝てるはず!
「試合開始!」
リシェル嬢の開始の合図とともに俺は地面を蹴った。
この勝負はスピードとの戦いだ!
俺は一度高く飛び、落下速度を加えてミミックの蓋の部分めがけてキックをした。
もちろんミミックはこの程度のキックでは倒せない。
俺はポケットからロープを取り出し、ミミックの蓋が開かないようにぐるぐるに縛った。
以前、リシェル嬢がミミックを制したとき、奴の蓋の部分を攻撃しているのを見て気づいたんだ。
こいつはワニと同じで噛みつく力は強いけど、口を開ける力は弱いんじゃないかって。
案の定、先手を取って蓋の上に乗ったらミミックはピクリとも動かなくなった。
それと、以前辺境伯が古紙をまとめるのにリシェル嬢のリボンを使っていたのを参考にした。
ミミックの蓋が開かないようにぐるぐる巻にしてしまえば、奴は身動きが取れない。
「どうリシェル嬢?
今回は俺の勝ちでいいかな?」
「そうね、ミミックの弱点を的確に見極め、素早く動いたあなたの機転の勝利だわ。
及第点ね」
これだけやってもまだ及第点なんだ。
先は遠いな。
「モンスターとの模擬戦に勝利したし、次は私と勝負しましょう」
「えっ?」
「そっちは真剣でいいわよ。
私は木刀……いや素手でいいわ。
ハンデを付けて相手をしてあげる」
「リシェル嬢に真剣を向けられるわけ無いだろ。
俺は木刀を持つからリシェル嬢も木刀を持ってくれ」
「私と対等に勝負するつもり?
後悔しても知らないわよ」
「後悔なんかしないよ」
ミミックに勝ったことが、俺の自信につながっていた。
俺とリシェル嬢は互いに木刀を持って向かい合った。
一分後、俺の自信は粉々に打ち砕かれることになる。
リシェル嬢が目にも止まらぬ速さで撃ち込んで来て、俺の木刀はあっという間に飛ばされた。
その後リシェル嬢に足払いをされ俺は無様に転んだ。
立ち上がろうとしたら、リシェル嬢に木刀を喉元に突きつけられていた。
まるで勝負にならなかった。
これじゃあまるで大人と子供の試合だ。
いやそれよりも酷い、剣の達人と赤ん坊の試合だ。
そのくらい、今の俺とリシェル嬢にはレベルの差があった。
「皇子様、弱〜〜い。
私、弱い人のお嫁さんになるなんて嫌だわ。
やっぱりお父様と結婚しよう〜〜」
「待って!
次は絶対君に勝って見せるから!
俺を見捨てないでくれ!」
俺は無様にリシェル嬢のズボンの裾にすがりついた。
リシェル嬢に、残念なものを見るような冷たい視線を向けられた。
とは言ったものの、どうやったらリシェル嬢に勝てるのか俺には皆目見当もつかなかった。
リシェル嬢に勝利しないと、彼女をお嫁さんにできないなんて!
リシェル嬢をお嫁にするハードルが高すぎる!
後日、リシェル嬢にも意外な弱点があることがわかるのだが。
その時には俺の帰国が間近に迫っていた。