戦いの終わり
俺たちが戦い始めて、まだ10分も経っていない。
しかし、ジャイアントたちは街への敷居を次々とまたぎ始めた。
俺の前には手負いも含めて2匹。
タイターン4の前に1匹。
そして、リコの前にも1匹。
「発射を急いで! お願い。」
悲鳴を上げる余裕もない俺の代わりにヤミンが叫ぶ。
ジャイアントの攻撃が寸前まで俺のいた地面をえぐる。
こんなの当たったら一発だ。
「【牙突・三段突き】!」
元気な方のジャイアントの目を狙うも、受けられてしまって決まらない。
もはや、ロックリザードとサンドウルフには対応しきれていない。
俺の横を抜けた何匹かがドワーフたちに突進し突き飛ばす。
くそう!
更に追加のロックジャイアントが街の入り口に現れた。
ここまでか!
あと、ちょっとだったのに!
「【アースシェイク】!」
俺の目の前のロックジャイアントたちが後ろから飛び出てきた岩の柱に上半身を貫かれて絶命した。
「ルナ!!」
こちらの窮状に気づいたルナが助けに駆けつけて来てくれたのだ。
「【ソードバッシュ】!」
ルナはジェット全開で、地面すれすれを滑るように滑空すると、ドワーフの前の敵を蹴散らした。
「【昇斬真炎獄】!」
そのまま、大きく旋回して今度はリコの前のジャイアントを下から斬り上げる。
ルナの必殺の一撃に、さすがの硬い外皮のジャイアントも悶絶して倒れた。
「ありがとう! ルナちゃん!」
リコが助かったとばかりに叫ぶ。
俺たちは急いで戦線を再構築する。
ジャイアントを切り上げた勢いで上昇したルナは、そのまま飛んで再び外へと向かう。
クリムマギカの入り口をくぐるために下降したルナは、入り口に押し寄せたジャイアント達の真上で再上昇しようと一瞬だけスピードを緩めた。
その一瞬を、ロックジャイアントは見逃してくれなかった。
クリムマギカから飛び出そうとするルナを待っていたかのように幾つもの巨大な手が伸び上がり、そのひとつがルナの足を捕まえた。
ルナは素早く剣を振るって腕を切断するが、ジャイアントの腕は足を握ったまま離れない。
腕の重みでルナの飛行が怪しくなる。
「危ない!!」
俺の叫び声と同時に、ルナの足にぶら下がっている腕に向かって別のジャイアントが跳びついた。
ルナはそのジャイアントに向けて右手の剣で斬りかかろうとする。
だが、別のジャイアントが剣を振りかぶった腕を掴んだ。
ルナは体をひねって、左手の剣で右手を掴んでいるジャイアントを攻撃しようとする。が、空振り。
別のジャイアントがルナの左足を捕まえ、次いで、ジャイアントの大きな手がルナの胴体を制圧してしまった。
最後に振るった剣はどの腕にも当たらず、唯一残っていた自由な左手さえも捉えられた。
「ルナっ!!」
「ルナちゃん!!」
「ルナルナっ!!」
ジャイアントたちが頭上に掲げ上げられているルナに向かってこぞって手を伸ばした。
そして、ジャイアントたちは、奪い合うようにルナの四肢を胴体から引きちぎった。
雪の降りしきる白に、真っ赤な赤が飛び散った。
「ルナぁああああ!!」
「いやぁぁああああ!」
また。
前世で助けられて死なせて。
ここでもまた。
彼女が何をしたってんだ。
なんで俺はまた何もできないんだ。
ルナを殺して満足したのか、ジャイアントたちは再びこちらを向いた。
足元にはロックリザードやサンドウルフたちも並んでいる。
「くそがぁあああああ!!!」
「みんな、避けろぉっ!!」
俺が叫んで鞭を振りかぶったのと同時に、メルローの大声が響き渡った。
ドワーフたちが慌てて退避する。
俺とリコも一瞬躊躇するも、一目散にテキコロースの前から逃げ出す。
ジャイアントたちが、サンドウルフが、ロックリザードが、逃げ出した俺たちを追いかけるかのように入り口から駆け込んできた。
「放て!」
メルローの声が聞こえた瞬間。
つんざくような音が耳を貫き、音が消えた。
同時にまばゆい光があたりを覆い、視界が奪われた。
爆風が俺たちの背中から噴きつけ、俺たちはバランスを崩して地面を転がった。
爆風と轟音が通り過ぎ、徐々に目が視界を取り戻す。
視界が戻ってくると、そこにはさっきまであったものが何も無くなっていた。
入り口につめかけていたロックリザードもサンドウルフもロックジャイアントもどこにもいない。
村の入口もない。削れたように失われている。
俺は吹き飛ばされ失われた街の入り口まで進み出て、呆然と外を眺める。
外は失われた入り口の先から巨大なクレーターのように陥没し、そのまま遠くまで蝕まれたようにまっすぐ削れていた。
今まで街を守ってくれていた谷もない。
その向うの山もない。
見渡す限り山脈ごと失われている。
空の雲すらも消えている。
さっきまで雪が降っていたというのに、前方にのみ雲を割ったように青空が広がっている。
見渡す限りの前方、削られて残った地面以外のすべてのものが消し飛んでいた。
ルナの欠片すらも。




