戦場にかける橋
「ふっふっふ。準備するから荷物運ぶの手伝って。」
そう言って、橋の爆破のために俺たちを自分の部屋へと案内するメルロー。
とてもごきげんだ。
程なくして、彼女の部屋の前に到着。
俺を残してメルローは自分の部屋へと入っていく。
ちょうど、そこにリコが外からヤミンを連れて駆けてきた。
「ケーゴ! ここに来るようにって言われたけどどうしたの?」
さっきまで本当に外を駆け回っていたのだろうか、ヤミンがぜえはあ言っている。
「メルローさんの魔導機器で橋を落とす。」
「えっ!? そんな事したら私たち帰れなくなっちゃうよ!?」リコが驚いて声を上げた。
「帰り方は後で考えよう。今は助かることが優先だ。」
俺がそう答えたところで、メルローが部屋から出てきた。
「君たち、私の部屋からこのマークのついた袋を運び出してくれたまえ。」
メルローは両手に持っていた袋を掲げて俺たちに見せた。
袋には三角の形の中に飛んでくる隕石の絵が描かれた印がついている。
色が黄と黒の警戒色だ。
俺たちはメルローの部屋からその怪しいマークの付いた袋を担ぎ出し、そのまま背負って入り口の橋まで運び出した。
「じゃあ、橋の上にその中のものを並べて。」
入り口ホールでメルローが指示する。
袋の中には瀬戸物っぽい丸だったり四角だったりの塊がたくさん入っていた。
「これなんですか?」
「うん。どれもロマン兵器の材料・・・の失敗作かな。威力はあるんだけど、変な衝撃与えると爆発して大変なんだ。」
爆弾じゃねえか!
さっきヤミン、壁にぶつけてたぞ?
メルローは爆弾の一つを手に取った。
「これなんかね、お師匠様超えの威力が出るように作ったんだけど制御系が全然組めないもんだから、どのくらい爆発するかもわからないんだ。こっちは、どうやっても魔力と相反しちゃって、上手く装置に組み込めなくて・・・」
メルローが雄弁に語り始める。
「ケーゴ! あれ!」リコが叫んだ。
崖の向う、道の俺たちがここまで来たのと逆側の曲道から最初のジャイアントが現れた。
フォルムだけなら腰巻きみたいなボロを
「でけえぇ・・・。」
「あれ倒せるの・・・?」
俺とヤミンから絶望のため息が声となってもれ出てきた。
10メートル位ある。巻いただけの裸で丸坊主のおっさんだが、顔面に大きな目が一つしかついていない。
なんとかの巨人みたいにキモい。
ジャイアントの足元には、岩肌色に擬態したワニみたいなモンスターのロックリザードや、犬みたいな体だが6本足で関節の付き方が虫みたいなサンドウルフが控えている。
ジャイアントがでかすぎるせいでどっちも小さな生き物みたいに見える。
「で、こっちのやつは、テキコロースに入れようとしたんだけど・・・
「メルローさん来ちゃった! 来ちゃった! 説明はいいから!」
ご満悦で失敗作について語り続けているメルローを急かす。
俺たちはメルローが量産してしまった爆弾を急いで橋に並べていく。
ジャイアントたちが崖の対岸にたどり着き橋を渡り始めたところで、ようやく俺たちは持ってきた爆弾をすべて並べ終えた。
「どうすれば良いのですか?」
「どれか一つに打撃を与えて爆発させれば、誘爆してすごい威力になるはずだよ! ふっふっふ!」
メルローは手近に落ちていた大きめの石を拾うと、爆弾の一つに近づい、ちょっ! 待って! 待って!
慌てて岩を振り上げて爆弾を殴ろうとしたメルローを羽交い締めにする。
「落ち着いて! そんな事したらみんな巻き込まれて死んじゃいますって。」
「そういえばそうだった。あまりの爆発に我を忘れてしまった。」
あまりの爆発ってなんだよ。これからだよ。
「中に戻って、私の弓で爆発させよう。」と、ヤミンが提案した。
俺たちは急いで街の中まで戻る。
幸い敵はゆっくりと進行してきている。
まだ橋の真ん中辺だ。
ヤミンが振り返って弓に矢をつがえた。
「【スナイプ】!」
【強打】持ちのヤミンのスナイプが並べてある爆弾の一番大きいのに命中した。
まばゆい閃光と轟音が響き、ものすごい突風が俺たちの所に届いてきた。
「思ったよりいまいち。」
メルローが心底残念そうに呟いた。
爆煙が流れると、そこには無傷の橋があった。
煙の向うに、爆発などなかったかのように進み来る巨人たちが見えた。
「だああ! 橋落ちてない!!」ヤミンが頭を抱えて叫んだ。
「皆! 私が中央を耐える。だが、一人で守るには入り口が広すぎる、両サイドを耐えてくれ!」
いつの間にか礼服に着替えてきたエデルガルナさん状態のルナが俺たちに指示を出す。
「俺達だけじゃ厳しい! メルローさん! 誰かつれてきて!」
「【スナイプ】!」
次の矢をつがえたヤミンがジャイアントを攻撃するが硬い外皮に弾かれる。
「やばい。アイツ見た目通り強い!」
「ケーゴは左をお願い。」
リコが前に出て剣を抜いた。
俺はルナを真ん中にリコと反対側に進み出る。
ついに、目の前まで迫りきた巨人たちがはるか頭上から俺たちのことを見下ろした。
バシッ!
大きな音がこだました。
そして、突然、轟音とともに橋が崩れ始めた。
俺たちの目の前にいたロックジャイアントやロックリザードたちが崖の下へと消えていく。
あぶなかった・・・。
死を覚悟した。
俺たちはルナ以外みんなヘナヘナと座り込む。
爆弾が効いてたのか、巨人たちの自重で落ちたのか、ともかくギリセーフだった。
敵は崖の向うでこっちを見てウロウロしている。
とりあえずは、テキコロースの完成までは時間を稼げそうだ。




