ルナちゃん
「ルナちゃん!!」
「どうしたの!?」
ヤミンとリコが慌ててエデルガルナさんを両脇から助け起こす。
毒か?
もしかして、このハム、ヤバいのか?
「ふぇ? ぜんぜん酔ってないですにょ?」
にょ?
「もしかしてルナちゃん、酔ってる?」
「ルナルナはお酒に弱かったのか・・・。」
意外だ。
ともかく、毒とかじゃなくて良かった。
ホッとした俺たちは朦朧としているエデルガルナさんを近くの椅子に横に寝かせると、食事を早々に切り上げて部屋に戻ることにした。
リコとヤミンが二人でエデルガルナさんに肩を貸して部屋まで送り届ける。
俺が背負おうと提案したら女子二人に全力で反対された。
まあ、ヤミンのほうがパワー系だし、そのほうが効率的だ。
エデルガルナさんの介抱は女子二人に任せ、今日はそのまま解散となった。
そして、何事もなく、朝。
なんだかんだで酒も入っていたのですぐに寝てしまった。
そのせいで朝早く目が覚めた。
放置してある馬車が心配だったのでなんとなく様子を見に出かけようと部屋を出る。
そして、部屋から出て5メートルも歩かないうちのことだった。
「ケーゴさん、見つけた!」
最初の分かれ道を通りかかったところで、横から出てきた女の子に突然洋服の裾を掴まれた。
「リ・・・誰?」
俺にそんな事してくるのはリコくらいだろうと振り返ったら、誰か知らない女の子だった。
またかよ。
マジ誰?
でも、今、俺の名前呼ばれたよね?
「迷子になったの。」
「あ、はい。迷子ですか。」
「お願い。部屋に戻りたいの。」
黒髪ロングの可愛い子だ。
俺と同じくらいの背でモデルみたいに細い。歳は同じくらいだろうか?
部屋着っぽい飾り気皆無なワンピースを着ているが、スタイルが良いのでそれでもすごく可愛い。いや、むしろそれがいい。
女の子はすがるように俺のことを見つめてくる。
照れる。
「部屋はどちらですか?」
「? ケーゴさんの2つとなりだよ。」
「2つとなり?」
確かヤミンの部屋だったような?
逆の隣かな?
「ルナちゃん?」
と、俺が困っていると後ろから声が・・・えっ? ルナちゃん!?
「どうしたの?」
声をかけてきたのはリコだった。
「リコリコ!」
俺の服をはっしと掴んでいた女の子は、俺を解放するとトコトコとリコのほうに走って行く。
「みんなが食堂行ってたらどうしようって思って、食堂に行こうと思ったら迷っちゃった。」
「まだ、1時間くらいあるよ。ルナちゃんは慌てんぼさんだね。」
ルナちゃん?
エルデガルナさんもルナよな?
「てへへへ。」
「ケーゴは何してるの?」リコが何やら訝しげな目線を俺に向けた。
「ケーゴさんに助けて貰ったんだ〜。」
女の子が俺の代わりに嬉しそうにリコに答えた。
俺、なんもしてない。
「騒がしいなあ。二人とも。食堂に集まるのってこんな早かったっけ?」
二人の声が中に届いてしまったのか、ヤミンが扉を開けて出てきた。
「ヤミ姉、おはよっ!」
女の子がヤミンにも挨拶する。
「ルナルナ、おはよっ!」
ヤミンも元気に返す。
ルナ・・ル・・ナ?
「・・・その子、誰?」
念のために、二人に訊ねる。
「えっ!? 何言ってるの?」
「見りゃ分かるっしょ!?」
分からんから訊いてるのじゃ。
「え、えーと・・・。」
「ルナちゃんだよ? ホントに解らないの?」
「ケーゴ、信じらんない!」
リコとヤミンの驚きと呆れの混ざった視線がレーザーのように俺を貫く。
「そんな事言われても、声も、見た目も、喋り方も違うんですけど?」
むしろ二人は何故解るのか。
別人やぞ?
「髪型変わってるけど顔ルナちゃんじゃない!」
「そうだよ。声とか匂いとか一緒じゃん! ほんとに分からないの?」ヤミンも呆れた顔で言った。
匂いとか無理だろ。
「私、心折れそう・・・。」
リコが表手で顔を覆った。
なんでだよ。
何がだよ。
「ケーゴはスキルだけじゃなくて、もうちょっと人間に興味もとう。ね?」
ヤミンが本気で物申してきた。
納得がいかん。
「気づかれなくて悲しい・・・。」
エデルガルナさん?もうつむいて悲しそうな顔をした。
エデルガルナさん、絶対そんな反応しないじゃん!
普通わかんないよね?
俺なの? 俺が変なの?
ついでに言うと、エデルガルナさんの部屋、俺の3つ隣なんですけど!!
「ケーゴさんはもっと女の子の気持ちを考えたほうが良いと思うの・・・。」エデルガルナさん?が物悲しそうに俺を見ながら忠告してきた。
この間にも誰かに言われた気がするけど、これって気持ちとかそれ以前の問題ですよね?
「ケーゴはなにひとつ女心が分からんからなぁ。」ヤミンがエデルガルナさんに追随して俺を苛む。
確かに分かる方ではないけれど!
納得いかん!!




