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クリムマギカ

 王都を出て一週間。

 馬車はひたすらと北へ向かっていた。


 女子同士が仲良くなってずっと話している感じなので、オレ一人疎外感。

 女子の話題、俺、入ってけないし。

 邪魔しちゃ悪いので【高速詠唱】の練習もできん。


 途中、何度かモンスターに襲われたこともあったが、簡単に撃退した。

 カリストレムのイベントを経て強くなった俺たちにとってそんな強いモンスターでもなかったというのもあるが、そもそもエデルガルナさんが強い。

 スキルのレベル上げをしたいのもあったので戦闘には参加したが、ぶっちゃけエデルガルナさん一人で十分だったろう。


 馬車は平地を抜けると、山の裾を切り抜いて作られた細い道を進み始めた。

 道は崖沿いを削り取ったようにウネウネと伸びていた。

 片側が高い崖で、反対側は深い谷だ。ガードレールも落石防止もない。

 木も生えていない岩山の隙間を縫うように道は俺たちを奥へと誘う。


 それにしても細い道だ。

 対向車が来たらどうするんだろ? 馬車ってバックできるんか?


 しばらく悪路を進んでいくと、少しばかり前が開けた。


「あれなに?」リコが窓の外を見て声を上げた。


 道の先、左側の深い谷の向こう側の山肌に大きな穴が空いていた。

 その穴から岩の橋がこちら側の道へと伸びている。

 大きな入り口のある山にはそれ以外にも多数の窓のような穴が幾つも穿ってあり、そこから光が漏れてきていた。


「あれがクリムマギカだ。」エデルガルナさんは谷の向う側の大穴見ながら言った。


 洞窟都市なのか。


 馬車は崖沿いの道を進むのをやめ、入り口からこちら側に舌のように伸びている橋に向けて慎重に左折した。

 馬車は幅が数十メートル、長さも50メートル以上あろうかという巨大な石の橋を渡っていく。

 欄干などない橋の下、崖ははるか深い。

 

 馬車は無事橋を渡り終え、大きく開いた巨大なクリムマギカの入り口へと入って行く。

 クリムマギカの入り口の大ホールに到着した俺たちは、馬車からホールを見渡した。


 クリムマギカは内側を大きくくり抜かれた洞窟だった。

 洞窟のようなホールは広く、岩肌はむき出しで、地面こそ平らに整えられているが天井はゴツゴツとした岩肌のままだ。

 入り口の先は巨大なホールのような空間で、何本もの道が奥に伸びている。奥にまで街は続いているようだ。

 ホール内の壁際には幾つかの階段があって、階段はホールの天井の向うへと続いていたり、途中で横穴に繋がってたりする。上方向にも街は伸びているらしい。

 階段や横穴は乱雑に配置されていて、大きさもまちまちだ。

 割といきあたりばったりの感じの乱雑な街だ。


 御者のヘイワーズさんが馬車を広場の真ん中に止める。


 村の入り口の広場にはほとんど人が居ない。家らしい穴もない。

 チラチラとこっちを見ている通行人が数人いたが、こっちには寄ってこずにそのままホールから伸びている横穴に消えてしまった。


 俺たちは馬車から降りて、みんなでただっ広い洞窟を眺める。


 ここ本当に村?

 マジ洞窟なんですけど。

 ドラゴンとかこの広場に侍らせたい。


 ホールのはるか天井に大きな薄い光の輪っかが浮かんでる。この光のおかげでここは明るいようだ。


「ルナちゃんもここに来るの初めて?」リコが訊ねた。

「うむ。」

 エデルガルナさんも天井の灯りを物珍しそうに眺めている。


「この後どうするの?」

「えーと、村長に連絡をしなきゃなんだけど・・・。」


 馬車で広場の真ん中に乗り付けたってのに誰も寄ってくる様子がない。

 遠巻きに見てすらいない。


 とりあえず階段から降りてきた通行人と目があったので駆け寄ってつかまえる・・・って、耳が尖ってる!

 エルフだ!


「なにか?」

 エルフの人は警戒するように俺たちを見た。

 片手には本を抱えている。魔法学者とか魔導エンジニアとかだろうか?


「さっき、この街へ来たばかりなのですが・・・」

「そうですか、ご苦労さまです。」

 そう言うとエルフは俺たちには興味がないかのように先に進もうとする。

「あ! ちょっと待って! 馬車はどこに止めればいいでしょうか?」

「そこら辺においておけばいいんじゃないですか? 誰も文句言わないと思いますよ? では。」

「ちょ、ちょっと待ってくださいって! 宿はどこでしょうか?」

「宿? 宿ならそこの小さな道の先です。」

 そう言って、エルフは一つのトンネルを指さした。

「では。」

「もう一つ! もう一つ! 村長に会うにはどちらに行けばよろしいでしょうか?」

「村長? 技術フェローなら東の太い道の突き当たり、魔術本部長は西寄りの太い道の突き当りです。」

「そこに行けばいいのですね?」

「多分居ないと思うので現地で訊ねてください。もういいですか?」

「あ、はい。」

 エルフの人の警戒が解けてきて、代わり俺たちへの苛立ちが見えてきたので、小心者、俺、引き下がる。


「急いでるみたいだったね。」カツカツと急ぎ足で一つの通路に消えていったエルフの背中を見送りながらヤミンが言った。

「今日はもう遅いし、挨拶は後にして先に宿を取ろうか。流石に馬車をここにおいておくのはまずい気がする。どうでしょう、エデルガルナさん?」

「べつに、ここに置きっぱなしでも構わないのではないか?」

「厩に馬を入れさせてくだせぇ。」ヘイワーズさんが慌てて口を挟む。

「ですよね。」

「私は疲れたから宿行きたい。」ヤミンがここぞとばかりに弱音を吐いた。

「私もお腹へったかも。」リコもヤミンに同調する。

「先に宿を見つけて、馬をつなげる場所を聞いてみようか。」


 というわけで、馬車の見張りをヘイワーズさんに任せ、俺たちはエルフの人に教えてもらった横穴へと進んでいった。


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