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馬車の旅

 王都の宿は一泊だけで、再び俺たちは馬車で王都を離れることになった。


 TPOに合わせたのか、今回はカリストレムから乗ってきたのに比べると質素で小型の馬車だ。


 リコとヤミンがなにかを牽制しあってなかなか乗ろうとしないので先に乗りこむ。

 次いでエデルガルナさんがするりと俺の隣に座った。


 ・・・なんで?

 向かい空いとるよ?


「なんで、また二人が並んで座ってるんですか!」

「そういうのは順番で代わってくもんでしょ!」

 リコとヤミンが慌てて戸口から顔を覗かせて、エデルガルナさんに文句を言い始めた。


「? ここに来るときもこうだったであろう?」

「ケーゴばっかりエルデガルナさんの隣じゃ悪いです。」

「今度は私達のどっちかが隣に座るのだよ。」

「勝ったほうがケーゴの隣ね。」

「いや、俺別にエデルガルナさんの隣でも良いんだけど・・・。」


 二人は俺を無視してジャンケンし始めた。


 何で馬車の席順で毎回揉めるかね。

 子供じゃないんだから嫌いな人とか居ても我慢しようよ。

 そういうイジワル嫌い。


「俺、エデルガルナさんの隣がいい。」


 我、エルデガルナさんを邪険にする二人にご立腹。


「「・・・・。」」


 二人がなんか酷い視線を投げてくる。

 なんでだよ。

 

 向かいでムスッとして、まったく俺と目を合わせてくれない二人に気まずい思いをする中、馬車は王都を後にした。

 あんまりに気まずいので、俺は昨日、ルスリー王女に頼んで手に入れた魔法の指南書を取り出して読み始めた。


「ケーゴ、何それ?」リコが気づいて訊いてきた。

「魔法の入門書。」

「ケーゴ、魔法の練習するの?」ヤミンが驚く。

「うん。馬車の時間が勿体ないから。他にできることもないし。」俺は答えた。

「ごめんなさい、エルデガルナさん、隣でブツブツ言うかもしれません。」

「【高速詠唱】の練習か?」

「はい。」

「精進は良いことだ。」

「そっかぁ。ケーゴ、魔法も頑張るんだ!」リコが感心したように呟いた。

「でも、俺、魔法の才能ないからね。」一応、注釈を入れる。

「やる前から諦めるのは良くない。」エルデガルナさんが珍しく自分から意見を述べてきた。

「そうよ、ケーゴ、まだ魔法試したことないんでしょ?」リコもエデルガルナさんの意見に賛同する。

「いや。そういうの、俺の【ゼロコンマ】で判っちゃうのよ。」

「そうなんだ。」リコはなんか残念そうに呟いた。

「だから【マジックアロー】だけに絞って覚えようかなと。」

「多少なら指南してやれる。」エデルガルナさんが提案してきた。

「わ、私も。私も魔法なら使えるし、少しなら教えられるよ!」リコが負けじとアピールする。

「エデルガルナさんはどのくらい魔法が使えるんですか?」

「【アースシェイク】が一番強い魔法だ。」


 上級魔法だよ。

 王立騎士団の人だけあって、魔法も達者だ。


「基礎的なことを教えるだけなら造作もない。」

「・・・・。」

 エデルガルナさんの実力があまりに高かったので、リコは悲しそうにうつむいてしゅんとした。

「リコも一緒にエデルガルナさんに教えてもらおうよ。いいですか?」

「構わん。」

 リコは上目遣いに俺の様子をちらりと確認して、反省している女の子のようにコクリとうなずいた。

「ヤミンも。」俺は魔法の話になって完全に影の薄くなったヤミンに声を掛ける。

「え、私も?」

「そうだよ。」

「私、弓矢使えるから魔法とか別に良いんだけど。」

「【コントロールウィンド】と【インダクション】、【ウィークポイント】は憶えとけよ。」

 どれも弓士にとっては便利な呪文だ。

「ケーゴに言われても説得力がないのだよ?」ヤミンがけんもほろろに言う。

 さてはコイツ、頭使う系嫌いだな?

「ケーゴ殿の言うとおりだ。いずれも高レベルの弓士はかならず覚えている呪文だ。」エルデガルナさんが俺の意見を後押しする。

「なんでそんなんケーゴが知ってるのさ?」エルデガルナさんが俺の味方についたので、ヤミンはむくれて文句を言った。

「一般常識だぞ? 弓士なのに知らんのか?」

 そんなわけないけど強気で押し切る。

「むむむ。」ヤミンがプックリと頬を膨らませた。

「というわけで、ヤミンも訓練な。」


 というわけで、3人共エデルガルナさんに魔法を教えてもらう事になった。

 これで二人とエデルガルナさんが仲良くなってくれればという目論見。


 最初は魔力集中のレッスンだ。

 エデルガルナさんは魔力の集まりが見えるらしい。

 いわゆる【魔力の(マナサーチ)】っていうスキルだ。

 ゲーム内では敵からの不意打ちが判ったり、マジックアイテムを見分けたり、魔法の罠を感知したりとかなり有用なスキルだった。レアではないが取り方が不明のため、希少なスキルでもある。


 両手の人差し指を少し間をあけて突き合わせ、その間に魔力を流し込むように溜めていく。

 呪術の詠唱は無しだ。

 馬車の中で暴発してはたまらん。

 

 さすがに最初は魔法戦士を目指していただけあって、リコだけ順調に訓練が進んでいく。


「リコ殿はセンスが良い。」

 リコはエデルガルナさんに褒められて気まずそうにちょっと頭を下げた。

「ヤミン殿は才能は無い。」エデルガルナさんがヤミンに容赦ない真実を告げる。

「無理くり付き合ってるのに酷いことを言わないでよ!」ヤミンが歯をむき出しに威嚇するようにエデルガルナさんを睨んだ。

「だが、弓を活かす分の魔法を覚えるのには十分だ。諦めずに訓練に励め。」エデルガルナさんはヤミンの文句など聞かなかったように続けた。

「そんな偉そうに言わなくてもわかってるもん。」

 ヤミンはぷいと横を向いた後、もういちど集中を始めた。


「そして、ケーゴ殿。申し訳ないが、貴殿は魔術を頑張っても時間の無駄だと思う。」


 時間のムダまで言うかい。


「ぐぬぬぬぬ!」

 歯を食いしばって目玉ガン開きで指先に集中。

「1ミリの魔力も溜まっておらぬ。」

 ちくしょう。


 結局、馬車の中でみんなしてウンウン唸って一日を終える。

 残念ながら、リコの【魔法威力】が1上がった以外は誰もスキルは上がらなかった。


 夜になったので、街道沿いの村で一泊することにする。


「申し訳ございません。一人部屋が2つしか空いてません。相部屋になってしまいますがよろしいですか?」この村唯一の宿屋の主人が申し訳わけなさそうに答えた。

「えっ!」リコとヤミンが俺を振り返った。

 気持ちは判るがそんなにあからさまに嫌がらんでよ。

「男女で別れるしかないね。」

「私はケーゴ殿と一緒がよい。 貴殿が誰だったか思い出したい。」エデルガルナさんがとんでもないことを言い始めた。

「なに言ってんの!」

「ふざけないでください!」

 ヤミンとリコがすぐさまエデルガルナさんに詰め寄った。

「? まずいか?」

「まずいです!」

「それだったら同じパーティだから、私たちがケーゴと一緒の部屋になります。」リコが俺を引き寄せて腕を抱え込んだ。

「うぬっ?」

 ヤミンがビクッとして俺の方を一瞬みる。

「ぬ、ん? ぬぬ? いや、ケーゴよ別にお姉ちゃんと一緒でも良いのだぞ?リ、リコもおるし。」


 なんか久しぶりのお姉ちゃん呼び。めっちゃ動揺してんじゃねえか。

 でも、狭い一人部屋に美少女二人との状況だと、前世通じても女性との関係性が乏しかった俺も寝れん気がする。


「いや、男子部屋と女子部屋で分かれようよ。御者さんもいるしさ。」

 後ろの方で気配を消している御者さんに気を使って提案する。

 この人、王都に来る時も御者してくれてたんだけど、すげえいい人なんだよな。

「「むぅ。」」

 リコとヤミンが一緒にむくれる。

 なぜだ?


「いいですよね?」エデルガルナさんに訊ねる。

「私はどちらでも構わん。」

 どちらでもよくはない。

「一人部屋に3人か・・・」ヤミンつぶやく。

「狭いのが気になるなら、私はケーゴ殿の方でも良いぞ?」エデルガルナが悪びれた様子もなく言う。

「いいわけないでしょ!」ヤミンが怒ったように突っ込む。

「何でそんなにケーゴの方に行きたがるの!?」リコもつられて声を荒げた。

「皆はケーゴ殿が嫌いなのか?」

「「そういう事言ってんじゃないの!!」」


 リコとヤミンがエデルガルナさんを睨み、エデルガルナさんは困ったように眉を潜めて二人を見返している。


「と、とにかく、ここじゃ他の人にも迷惑だし、部屋に入って落ちつこ。ね?」

 そう言って、この場を取り繕うように、女子たちを宿の二階の部屋に促す。

 促したはいいものの、この状態の3人を一つの小さい部屋に押し込めてしまって良いものだろうか?


 階段を登るヤミンがエデルガルナさんのことを超絶威嚇してる。尻尾がめっちゃツンツンだ。

 リコのほうは冷静だ。スンとすましている。

 が、付き合いの長い俺には判る。あれはそうとう不機嫌だ。

 なんで、二人共そんなにエデルガルナさんのことを目の敵にするんだろうか。


 リコの言ったとおりにパーティーで部屋分けしたほうがよかったかな?


 大丈夫かな?

 今晩、二人はエデルガルナさんと上手くやれるのだろうか?


 なにも起こらないといいのだが・・・。


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