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世界崩壊時計

 馬車に揺られること、一週間。


 馬車に乗ってる間は訓練もできんし、腰もつらい。

 なにぶんリコとヤミンがエデルガルナさんを嫌っているようなので精神的にも厳しい。


 併せて、なぜか二人は俺にも当たりがきつい。

 むしろ、俺の方が邪険にされてるまである。


 そんな機嫌の悪い二人の隣に座るのも怖かったし、エデルガルナさんと二人を隣同士にさせるのも怖かったもんだから、俺は馬車の中ではエデルガルナさんの隣を常にキープするよう配慮。

 いらん気苦労のせいでとても疲れた。


 そして馬車はようやく王都ゴゼフへと近づいてきた。


 昨日泊まった街だって、カリストレムが田舎だったと思うほどに大きく綺麗だったが、遠くに見えてきた王都は遥かに格が違った。


 いや、知ってたよ?

 アルファンでは常駐してたし。

 でもさ、実際に見ると違うのよ。


 まず、城壁の迫力がすごい。

 こんなに高かったのかって思うくらい高い。

 あの大ムカデでも簡単に登れないくらい高い。


 そして白い。

 白くて継ぎ目がない。

 陽の光を反射して輝いてる。

 真っ白なダムみたい。


 さらにその高い城壁からさらに高く頭を出して城が見える。

 城というか塔。

 日本で言うところの近代アート的な鋭く尖った三角形の建物。なんかの発射台みたいだ。

 その三角の上の方に巨大な天使の輪っかみたいな構造物が引っかかるように付着している。

 日本人の感覚からしても近未来的な建物だ。

 どうして、あの細い接点であの輪っかが落ちてこないのか不思議。


 当然スカイツリーのほうが高いんだろうけど、なんというか、建物として高いだけじゃなくて、『王都ゴゼフ』っていうひとまとまりの建造物になってるので迫力が違う。

 城壁を含めて城下町ごとひとつの建物とでも言えば良いのだろうか。


 俺はリコやヤミンと同じように馬車の窓から顔をだして、食い入るように窓の外を眺めている。

 近づくに連れて真っ白な王都の迫力は増し、自分たちの馬車がどんどんちっぽけに感じてくる。


 ついに馬車は王都の巨大な門をくぐる。

 急に日陰に入ったので、目が痛いほどの城壁の照り返しがなくなって、視界が奪われる。


 なんとなく見える窓の外では、門番の兵士たちが並んで馬車に敬礼をしているようだ。

 エデルガルナさんが馬車の窓から軽く敬礼を返した。


 馬車は城の門をくぐり抜け、もう一度、まばゆい陽光のもとにさらされる。

 内側も城壁の照り返しが眩しい。瞳孔が眩しさに反応する。

 一瞬のホワイトアウトの後、城壁の向こう側が映し出された。


「わぁ〜。」

「おおぉ〜。」


 リコとヤミンが感嘆の声を上げた。


 真っ直ぐに城まで続いた大通りは先が見えないほど長く、驚くほどひろい。

 馬車や人々が沢山行き交っている。

 大通りの真ん中には線路が敷いてある。路面電車が走っているのだ。

 道の両端には幾つもの露天が軒を並べ、祭りかのように人々で賑わっている。


「すごい!」

「人多い!」


 リコとヤミンはそれぞれ興奮気味に馬車の窓から顔を出して、街を眺めている。

 かく言う俺も似たような感じ。

 こっちに来て約17年。ここまで人が多いのは始めてなのでテンションが上がる。


「馬車で観光しても構わない。」エデルガルナさんがとんでもない提案をしてきた。

 いいの?

 俺って、王女のもとに連行中なんじゃなかったっけ?

「いいんですか!?」

 リコが嬉しそうにエデルガルナさんを振り返った。

「王女殿下に謁見できるまでには、まだ時間がある。」

「「やったー!」」

 やったー。


 俺たちは馬車に乗ったまま色んな場所を回る。

 

 まず、馬車は三大神の神殿を回った。

 どの神殿もカリストレムの神殿を遥かに凌駕する大きさだった。

 カリストレムの神殿とは規模が違う。40階建くらいありそう。

 それぞれ神殿の前には、駐車場のような広場まである。


「中入ってみたい!」ヤミンがキラキラとした目をエデルガルナさんに向ける。

「構わん。」


 いいの?

 ゆるくね?


 ベルゼモンに冒険者が行くと勧誘でめんどくさいので、ラミトス神殿の前に馬車は止まった。


「高っ!」


 神殿の中に入ってビビる。


 教会は40階建てじゃなかった。

 一階の天井が40階建ての高さまで吹き抜けているのだ。

 しかも、細かい装飾の施された彫像や彫刻がはるか天井まで続いている。

 あんな、上の方まで作ってなんの意味があるのだろう。

 と思ったが、よく見たら上の方に魔法で飛びながら彫刻を眺めている人が何人も居た。


「ケーゴ、また、祈ってみたら?」

「また神託がもらえるかもよん。」

「勘弁してください。」


 ホントならアサルにいろいろ訊ねたいこともあるんだが、アサルと話すとなるとすげー時間祈ることになるみたいだし。


 馬車に戻ると、一番の繁華街を馬車で回る。

 人が多すぎて馬車がゆっくりとしか走れない。


「うわ〜。見て、きれいな洋服!」

「ケーキ屋さん! すごい列!」


 リコとヤミンのテンションが上がる。


「人が多い。見失っては困るので下ろすわけにはいかない。後で個別に回るように。」

 エデルガルナさんが今にも飛び出していきそうな二人に釘を刺す。


 リコとヤミンは馬車の窓から洋服屋さんだのスイーツ屋さんだのを見つけては盛り上がっている。

 俺的にはそういう店ではなくて、武器屋とか訓練所とかが見たい。


 繁華街はそこまで長いわけではないのだが、歩行者でごった返しているため馬車の歩みがあまりに遅い。

 結構な時間を費やして、ようやく馬車は繁華街を抜けた。

 リコたちは俺が王女に尋問されている間にどこの店に行こうかと、話し合ってる。

 のんきだなぁ。

 まあ、楽しそうだから良いんだけどさ。


「どこか見てみたいところはあるか?」エデルガルナさんが訊ねた。

 俺は最新鋭の訓練所を覗きたい。

「ケーゴはどこか見たいところある? 訓練所以外で。」


 何故それを禁止する。


「じゃあ、冒険者ギルドを。今日は見るだけでもいいです。」

 場所だけでも知っとけば、また来た時に来やすいだろうし。

「いいねえ!」ヤミンが声を上げる。

「王都の冒険者ギルドかぁ。」リコが緊張したように生唾を飲み込む。

「了解した。」

 エデルガルナさんは俺たちがギルドに行きたいと認識したらしく、御者さんに告げる。 


 馬車は数分移動しただけで止まった。

「ここが冒険者ギルドだ。」エデルガルナさんが言う。


 ギルドもでかい。

 カリストレムの市役所よりもでかい。

 10階建てくらいある。

 人の出入りも多い。

 流石、冒険者たちが最終的に到達する場所、王都アアルの冒険者ギルドだけある。

 出入りする冒険者達がみんな強そうに見える。


「降りるか?」エデルガルナさんが訊ねてきた。

「顔見せだけでも行く?」リコが確認するように俺を見た。

「どうしようかねぇ?」ヤミンも珍しく躊躇してる様子だ。

「今は外から見るだけにしよっか。」俺は答えた。


 アルファン時の王都の冒険者の職業レベルの平均は50だ。

 これは40〜60レベルまでいて、平均が50という意味ではない。

 50レベルが最底辺でなおかつ一番多いという意味だ。その先は100レベル超えまでが常に常駐していた。


 俺たちのレベルはカリストレムのイベントを経てだいぶ上がっている。

 クエストを受けていないのでカードの更新ができてないせいで正確には解らないが、たぶん職業レベル的にみんな20レベルくらいあると思う。

 もう少し実力をつけてからいかないと受けれる依頼がない。


「中に入るのは観光じゃないほうが良いってことだね? ケーゴはなかなか良いことを言う。」ヤミンが勝手に納得する。

「お前たちはまだ王都の実力には無い。受けられる依頼がないだろう。」

「むぅ。」

 リコがエデルガルナさんの言葉にむくれた。

「しかたないよ、地道に一緒にがんばろ。」

「うん!」

 俺の言葉にリコはなぜか一気に機嫌を良くして元気に頷いた。


 ギルドを後にした馬車は最後に王城の前の大きな広場に到着した。


 俺たちは王城の前で降りて、のっぺりとした巨大な王城を見上げた。

 細い三角形の窓もないのっぺりとした建物が天高く伸び、はるか上の方で巨大な輪っか状の建築物が付属して俺たちの上に影を落としている。

 スカイツリーよりは低いだろうって言ったけどホントに低いかな、これ?


 始めて見る超高層建築にリコもヤミンも声が出ない。

 観光名所なのだろうか、俺達の他にも何人も城を見上げている。


 あれ?

 なんか、城の中腹ぐらいに、でかいデジタル表示が付いている。

 例によって、ガッツリはみ出した小数以下が8桁見える。


『126.36992445』


 なんだあれ?


 あ、今、最後の一桁が5から4に減った。


 アルファンにこんなんあったっけ?

 心当たりがない。


「エデルガルナさん。あの真ん中の数字はなんですか?」

「あれは『世界崩壊時計』だ。」


 ええぇ。

 なんてネーミング。

 しかも、デジタル時計だし。

 情緒がない。


「あの数値が0になった時、この世界は終焉を迎えると伝えられている。」

「ええっ。あと126しか無いよ?」ヤミンが声を上げた。

「心配はない。ここ100年、あの数字が動いたことは無い。」


 さっき動きましたが。


「世界が終わるにしてもはるか先のことだろう。」

「面白いものがあるんだねぇ。」

「なんかすごいなあ。」


 彼女たちにとっては全く動かない数値を見上げながら、ヤミンとリコはのんびりと話している。


 こっちは、最後の桁が動いたのを見たからちょっとドキドキしてる。


 この世界って終わるんか?

 おっかない。


「そろそろ、時間だ。」

 エデルガルナさんが俺たちを促した。


 俺は馬車に向かう途中で、もう一度時計を振り返る。



 最後の一桁がまた一つ動いた。


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