出立
カリストレム襲撃の祝勝会が終わった翌々日の早朝。
立派な4人乗りの馬車が茅葺き亭の前に止まっていた。
俺たちを王都へと護送するための馬車だ。
リコとヤミンは祝勝会の終わったあとも、女騎士さんになぜ俺が連行されなければならないのかを散々問い詰めたが、女騎士さんはなにも明かしてはくれなかった。
リコとヤミンは最初は意地でも俺を王都に行かせない構えだった。
だが、交通費、宿泊費を国が持つので王都までついてきても良いと分かった途端に手のひらを返しやがった。
女騎士さんも特に俺を無理やり拘束しようという様子は見せなかったので、俺は大人しく従っておくことにした。
処刑とかまではされなそうだ。たぶん。
それに、まだ騎兵隊がカリストレムのまわりに駐屯して居るので逃げようもない。逃げようとしたら今度はどんな連行のされ方になるか分かったもんじゃない。
リコたちは俺を守るみたいに息巻いているが、心の中では王都に行けることにウキウキなのがちょっと漏れてきてる。昨晩も王都での服装のこと相談してた。
というわけで、今から俺たちは王都に出発する。
昨日と似た感じの男装の礼服に身を包んだ女騎士さんが馬車の横で御者と話をしている。
俺たちと同じ馬車に乗って同行するそうだ。
宿の前まで見送りに出てきてくれたニキラさんに別れの挨拶をする。
「ニキラさん、お世話になりました。」
「街を救った報酬もまだ受け取ってないんだろ? 何しでかしたのか知らんが、とっとと戻ってきなよ。」
「はい。できれば。その時はまたお世話になります。」
「何いってんだい。王都で稼いでもっといい宿に泊まれるようになって帰ってきな。」
「もし、そうなってもここに戻ってきますよ。」
「なに言ってんだ、ここは収入がままならない新人用の宿だ、立派になったら泊まらせてやらん。」
ニキラさんがそう言ったところで、スージーが通りをこっちに向けて駆け寄ってきた。
「おお、居た居た。王都に行くんだって?」スージーはやってくるなり俺に訊ねてきた。
「行くってか、連行されてくんですけどね。」
「なんかしら美味い商談持ってきてくれや。」
それを言いに来たのか。
「はいはい。その代わり、ボスも今回みたいに色々協力してくくださいね。そんなことより、村に戻らなくても良いんですか?」
「魔石が足りないからな。カリストレムがこんなんだから、魔石がランブルスタまで届かない可能性があんだ。ここで魔石をランブルスタにも流れるように手引しなきゃなんねぇんだよ。」
「なるほど。」
スージーもなんだかんだで大変なようだ。
「おお、間に合った!」
スージーとの会話に割り込むように、今度はヴェリアルドとカシムが声をかけてきた。
「なんか、急に王都に行くことになったって聞いてびっくりしたぜ。」
ヴェリアルドは少し息を切らしている。走ってきてくれたのかな?
「黙って出て行こうとするなんて、お前は最低なやつだ。」
と言いつつ、早朝からやって来てくれるカシム。
「もう王都に挑戦か。あっという間に追い抜かれちまったな。」
「さすがはレベルアップ効率の鬼だ。あの3日の戦いの間に王都でやっていける高みにまで登ったか。」
「そういう話じゃないんですよ。なんだか知らないんですが王女殿下に呼び出しをくらいまして、強制連行です。」
「なんだって!? なんかやらかしたのか?」ヴェリアルドが馬車の横に立っている女騎士さんを見ながら訊ねてきた。
「それが、いったい何をしたのか自分でも・・・。」
女騎士さんをちら見するが反応もしてくれない。
「本当に大丈夫なのか?」
「いや・・・一応、雰囲気的に命は大丈夫そうだとは思うんですけど・・・。怒られる雰囲気はありそう。」
「お前の態度次第ではヤバいかも分からんな。いちおう気をつけとけ。」カシムが忠告してきた。
「勘弁してください。」
「大丈夫だ、気に病むな。相手が王女じゃ、なるようにしかならん。」
ほんと、フォロー下手だなこの人。ほんとに不安煽りに来てるんじゃないよな?
「まあ、アレだ。王女に謁見できるなんてなかなかないし、いい感じでコネ作ってくるチャンスかもしれんぞ。馬車もなんか犯罪者を運ぶってのにしては良い馬車だし、気楽にしといてもいいんじゃないか。」ヴェリアルドが言う。
フォローってのはこういうことよ。
「そうだ。王女と繋がって金になる話を回しとくれ。」
スージーは気楽すぎる。
「俺まだブルーカードの初心者冒険者ですよ? 王女に気楽にはいけませんって。俺、連行されてくんっすよ? もうちょっと心配とかないんですか?」
「何言ってんだい。3人して昨日からずっとワクワクしるくせに。しっかり挑戦してきな」ここぞとばかりにニキラさんがツッコんできた。
「いやいや、ワクワクなんてしてませんよ! 王都って職業レベル50オーバーの人とかわんさか居るんですよ? 俺たちくらいのレベルが行っても仕事すらまわって来ませんって。」
とは言ったものの何故か顔が赤くなってくるのが分かる。
なんでじゃ! これじゃ、俺、ワクワクしてますって言ってるみたいじゃないか。
てか、リコたち遅いな。
「ケーゴ手伝って!」宿の中からリコの大声が聞こえた。
朝早いから迷惑だぞ?
また叫ばれてもまわりに迷惑なので、見送りに来てくれたみんなに断って中に手伝いに行く。
「お願い、運ぶの手伝って?」
リコとヤミンが玄関に所狭しとおかれたカバンに囲まれながら俺を上目遣いで見上げる。
「にはは。ちょっと多いよね。」
「ちょっとじゃねえよ!」
見送りに来てくれたみんなも手伝ってくれてリコとヤミンの荷物を運び出す。
「これ全部乗せて大丈夫ですか?」不安になって女騎士さんを見る。
「心配いらん。」
女騎士さんは安心しろというように首を振ると御者を呼んで来て、荷物を馬車後部に積ませ始めた。
俺がこの量の荷物が乗るのかとハラハラしながら見ている間に、リコとヤミンは見送りのみんなと挨拶を交わしていく。
カリストレムについてからの3週間くらいずっと事件だらけだった。
一気に駆け抜けた感がすごい。
ひと月も居なかったと思えないほど充実して濃い期間だった。
二人の挨拶も済み、俺もリコに続いて馬車に乗り込んでいく。
馬車は質素だが高価そうな作りだ。
クッションがふかふかしている。
2x2のボックス座席は、二人が腰掛けるには十分なスペースだった。
リコが奥に滑るようにすっとスペースを空けたので俺はリコの隣に腰を下ろす。
次にヤミンが乗り込んできて俺の隣に・・・なんでこっち座るんだよ!向かいに座れよ。 狭いよ!
二人が両端から俺にピッタリと密着してくる。
やらかい。
いや、そうじゃねえ。
お前ら、自分らがそれなりに可愛い女の子だって分かってる?
俺じゃなかったら勘違いされるよ?
女騎士さんが乗り込んで、一人対面に座って俺たち冷ややかに観察する。
恥ずかしい。
ハーレム主人公みたいやんけ。
「またねっ!」
ヤミンが馬車の窓から外に向けて手を振った。
「無茶はするなよ。」ニキラさんの声が窓の外から聞こえてきた。
「ニキラさんもお元気で!」
リコは私にも挨拶させろとばかりに、俺の両肩を掴んで背中に乗っかるように押して、窓に顔を近づけた。
鎧着てないから、おっぱいが背中にもろに当たってるんですが。
いくら付き合い長いからって無防備すぎひん?
「いっぱいお土産買ってくるよん。」
ヤミンもヤミンで、俺にのしかかられる様になってるんだけど? 文句くらい言おうぜ?
位置的には俺の腕が胸に当たってるはずなんですが。解んないけど。
ごきげんな尻尾が俺の腹を探るように撫でてきてこそばい。
「また、なんかの事件に首突っ込んで活躍してこい。」カシムがハッパをかけてくる。
「がんばります。そっちも頑張ってくださいね。」俺は美少女二人に上下から挟まれたまま返事を返す。
「カシムンも元気でね。」と、ヤミン。
カシムン呼び・・・いいなあ。
「せいぜい頑張ってきな!」スージーが損得なしに応援の言葉をくれる。
「「はい。」」俺とリコが同時に返事をする。
馬車が進み出した。
みんなの顔が馬車の窓から流れて行く。
「気をつけろよ!」
動き出した窓の後方からヴェリアルドさんの声が聞こた。
こうして、俺たちはカリストレムを後にし、王都に向けて進み始めた。




