新たな転生者
「君、もしかして日本人?」カッセルの援軍で来た金髪剣士が俺にとんでもない質問をかましてきた。
「はい。・・・ええっ!?」
「俺も俺も。」
剣士は嬉しそうに自分の顔を指差す。
まじかよ!?
「よろしく! 俺、エイイチ。」
「俺はケーゴ。」
「俺、昔、アルファンやっててさ? 知ってるよね。アルファン。」
『もちろん! そこそこの有名なユーザーだったんだぜ! キャラ名言ったらもしかしたら知ってるかもよ?』
とは言わずに
「一応。少しだけやってた。」
と、様子見してしまうあたりの自分が嫌い。
「おお! 君もやってたんだね! 僕も最初のころやっててさ。就職して仕事忙しくて辞めちゃったけど。」
ってことは前世年齢近いな。
「一応、十傑入りも何回かしたことあるんだぜ。」
自慢せんでよかった。
ナイス判断、俺!
「アルファン時代にさ、カリストレムを救えなくてさ、ずっと気にしてたんだ。教えてくれてありがとう。あの時から好きな街だったんだよね。」
「どういたしまして。と言っても俺もユージってやつから聞いたんだ。」
「ユージ? 他にも日本人がいるの?」
「いやぁ、まあ・・・。」
俺はユージがニュービー狩りをしていた件と、彼のこの世界の人たちをプログラムとしてしか考えてないことをエイイチに説明した。もちろん、俺の醜態に関しては完全秘匿だ。
「すごい考え方する人だね。ユージ君は。」
「君もこの世界の人間はプログラムだと思うかい?」
俺は声のトーンを落として尋ねる。
「うーん。よくわからないけど、深く考えなくていいんじゃない? そういう考え方、ミロクちゃんも嫌うしね。」
「ミロクちゃん?」
「そうそう、彼女も日本人。俺と連合を組んでるんだ。『日本人連合』。君も入ってよ。まだ俺とミロクちゃんと二人だけどね。」
「もしかして、彼女も君のパーティーの仲間なの? 」
確か他にもパーティーの仲間が会場に来ていたなと思って辺りを探す。
「いやいや、彼女はここには来てないよ。ミロクちゃんは冒険者でもないし、強くもないよ? ケーキ屋さんやってる。」
「ケーキ屋!?」
「そ。王都の超有名店。」
ケーキ屋と辣腕冒険者・・・どういう連合なんだ?
「連合って、何してるの?」
「とくになにも。この世界に日本人が居るって分かるだけで安心するじゃん? 他にも居たら声かけて増やしていこうと思って。是非ケーゴくんも入って! ユージってやつは・・・うーん、一応ミロクちゃんに聞いてみる。」
「いや、俺はあいつには声かける気ないよ。あんな奴が入るんなら俺は入らない。」
「あれま。じゃあ、ユージくんはパスで。でも、ケーゴくんは日本人連合ってことでヨロシク。」
組み入れられてしまったが、なんの説明も始まる様子がない。ほんとに日本人で連合するってだけの集まりのようだ。
「ところで、エルナって人、知ってる?」日本人の話題が出たのでアサル神に捜索を頼まれてる女の子について訊ねてみる。
「聞いたこと無いなあ。」エイイチは脳内を探っているかのように首をひねった。「だれ?」
ってことは、コイツの自分の担当神からエルナについて何も聞いてないってことだな?
「うちの神が探してるみたいなんだ。彼女も日本人らしい。」
「へえ。神様から連絡来てるんだ。」
「今回だけ特別みたい。君のところもアサルなの?」言葉を選びながら尋ねる。
「アサル? なにそれ?」
話を聞いてみると、どうやら彼の時はトムジェイとかいう神だったらしい。
「もし出会うことがあったら、居場所だけでいいんで俺に知らせて。うちの担当の神様も特に急いでるわけじゃないみたいし。」
直接報告などされてたまるか!
俺がスキルをもらえなくなってしまう。
「いいよ。でも、まだまだ日本人が居るんだね! ここがアルファンの中だと思うとちょっとさみしいんだよね。ホームシックと言うか。死んじゃって日本には戻れないってなるとなおさらさ。」
「俺は割と平気。」
「ミロクちゃんもそんな感じなんだよなー。」
「でも、君にだってこっちで生まれて生きてた記憶はあるんだろ?」
「まあね。でもそれはそれ、これはこれかな。」
「そういえば、今、幾つなの? 転生してからのって意味だけど。」
「19。」
「おっと、歳上だったか。」
「気にしないでくれよ? 前世合わせたら年齢なんて訳解んないし。」
「まあ、たしかに。」
あんま、前世の話はしたくない系と見たので深くは尋ねない。俺も聞かれるのなんかやだし。
と、パーティー会場の真ん中に市長が出てきて、何やら謝辞と感謝を述べ始めた。
どうやら、そろそろ終わりらしい。
街に残っていた王立騎士団の偉い人たちやカッセルからの冒険者が市長の前に並んでいる。
援軍に対するお礼を言ってから〆るつもりのようだ。
そういやあの列の中にジェットの騎士はいたのかな? ガワ取っちゃったら分からない。
「君は行かないでいいの?」エイイチに訊ねる。
「いいのいいの。リーダー、あいつだし。」
エイイチは市長の後ろに並んでいる女性冒険者を指さした。
市長は感謝の言葉を述べた後、並んでいる代表者に対して礼をいいながら握手をしていく。
「明日辺り、少し話さない? どうやってそんなに強くなったかとか聞きたいんだ。この世界の情報も共有したいしね。」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、僕たち、王都に戻らないといけないんだ。」
「そうなの?」
「いちおう、冒険者ランク3位だからね。意外と束縛がある。」
ランク3位かよ。
「ちなみに、あっちで飲んでる魔術師が1位。」
パーティーで同じ仕事してると知的アルバイトのある分魔法使いのランクが高くなる。アルファンあるある。
「すごいね。」
「先月だけの話ね? 先月だけたまたまよ。今月はまたダブル(二桁順位)じゃないかな?」
俺、アルファン時代ですらシングル行けなかったんですけど?
「俺たち、明日の早朝には街を出ちゃうからさ、ケーゴのほうが王都に来てよ。転移者なら色々スキルもらってるんでしょ? すぐ来れるさ。」
「うーん。すぐに行けるかは分からないけど、王都に行けたら連絡するよ。」
「楽しみにしてる。ミロクちゃんのケーキも食べて欲しいしさ。めっちゃ美味いんだぜ!」
と、会場から拍手が起こった。
祝勝会が閉会するらしい。
俺とエイイチもみんなに合わせて拍手をする。
「ともかくありがとう。おかげでほんとに助かった。」
「どういたしまして! そっちこそ、イベント時期を教えてくれてありがとう。」
そう言ってお互いに握手を交わした時だった。
「ケーゴ。ケーゴと言う者は居るか!」
会場から俺の名前を大声で呼ぶ声が聞こえた。
なんか、男性用の礼服っぽいのを着た若い女性が俺のことを探している。
黒髪精悍な美人だ。
「あれ王立騎士団の人だね。」
「え? 何で!?」
騎士団にあの剣幕で探される心当たりがない。
「君、なにかやらかしたの?」
「いや身におぼえないんですけど?」
「貴様がケーゴか!」
やべっ! 見つかった。
黒髪礼服の女騎士さんが俺につかつかと寄ってきた。
「わ、私がケーゴですが・・・。」突然の詰問に思わずおどおどとなりながら答える。
騒ぎを聞きつけたリコとヤミンがドレスの裾を持ち上げながら、行儀悪くこっちに駆け寄って来て、俺の両脇にとり付おた。
「どうしたの?」
「ケーゴがなにかしたんですか?」
両手に華でちょっと嬉しい。
「王女殿下が貴様をお呼びだ。王都へ出頭せよ。」
へっ?
王女?
出頭?
「出頭!?」
「何でよ!」
リコとヤミンが女騎士さんから俺を守るように立ちはだかった。
そんな二人を気に留める様子もなく女騎士さんは俺に向かって宣告した。
「拒否権はない。是が非でも貴様を王女殿下の元へ連行する。」
「あっはっは。思ったより全然早く王都に行くみたいだねぇ。」エイイチが笑った。
なにわろてんねん。
そんな呑気な状況じゃないんですけど!!




