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カリストレム攻防6

「もうすぐ援軍が来ます。それまで耐えてください。」


 騎士は俺に背中を向けたままそう言った。

 その声はそのフォルムと違って幼さの残る高い声だった。

 少年だろうか? 女性かもしれない。


 騎士は俺を振り返ることなく防壁を飛び降りて・・・・

 やっぱ、ジェット出てるじゃん。

 アルファンと世界観が違う・・・。


 騎士は防壁の外に着陸すると、暗闇の中紫色の二本の光がモンスターたちを斬っては薙ぎ斬っては薙いでいく。

 そして、紫の光が消えたかと思うと、今度は地面に光る魔法陣が現れ周囲を照らす。

 その真中にはさっきの騎士。

 魔法陣の灯りの中に次々とモンスターが迫る。

 彼は片手を地面について、集中している様子だ。

 アルファンではこんなエフェクト見たことがない。


「【アースシェイク】」


 呪文は知ってる。地属性の上級呪文だ。

 騎士の前方の大地が跳ね上がり、大量の石の柱が召喚される。

 モンスターが大地から跳ね上がってきた質量に激突し潰れていく。


 騎士の前方数十メートルの敵が一瞬で倒された。


 こっちは一気に楽になった。

 壁を登ってくる数が激減した。


 耐えられるかもしれない!


 薄明が徐々に夜を薄くする。

 夜の帳が開けるように、さっきの騎士のセリフが希望となってこころの闇を晴らしていく。


 俺たちが耐えれば耐えるほど援軍が近づく。

 あの騎士の連れてくる援軍だ。間違いなく強い奴らのはずだ。


 行ける!

 終わりがあるんだ。


「耐えろ! そのうち援軍が来るぞ!!」

 俺は可能な限りの大声で叫んだ。

「「「おおお!」」」

 ヤケクソのような声が帰ってくる。


 ヤケクソだっていい。

 さっきまでだったらそんな声すら帰ってこなかっただろう。


 俺は最後の力を振り絞って鞭を振るう。


 腕はすでにパンパンだ。

 手の豆は擦りむけて血だらけだ。

 鞭が滑っていかないように、糸で右手の小指と薬指に鞭のグリップを結わいつけている。


 でも、絶対にここは抜かせない。

 耐えきってやる!


 そして1時間の激戦。

 ついに、朝日が遠くを照らし始めた。


 どこかから再び歓喜の声が響いた。


「援軍だ!」


 遠くの方にモンスターの中を駆けている騎馬の大隊が見える。

 騎士団だ!

 彼らの持っている旗に何が描かれているかまでは見えなかったが、確信して言える。


 あれは王立騎士団だ!


「耐えきったぞ! ここで死ぬなよ!!」

 どこかから声が上がった。


「「「「おおおおっ!!」」」」

 その声に合わせて防壁上がこの戦いで一番湧いた。

 普段そんなのには絶対付き合わない俺も思わず大声を上げてしまった。


 はるか遠くの騎兵大隊がモンスターをたやすく切り裂いて進んでいるのが見える。


 勝ちだ!

 このイベント、俺達の勝ちだ!


 ん?


 俺が異変に気がついたのと同時に周りからも声が上がった。


「気をつけろ! なにかがこっちに向かって来てるぞ!!」


 街から100メートルくらい先の地面が盛り上がって、モンスターたちを跳ね飛ばしながらものすごい勢いでこちらへと爆進してきている。

 防壁の上から俺たちが緊張して見つめるなか、それはカリストレム手前で土を弾き飛ばして姿を表した。


「でかいのが出た!」


 5メートルの大ムカデだ!


 まさか、大地の裂け目の時の奴か?

 あいつがイベントボスだったのか!?


「耐えろぉ。上がらせるなぁっ。」

 そう叫んだ兵士の声が震えている。

 俺も含め、防壁上のみんなが身を強張らせた。


 その瞬間、

 ジェットを吹かせながら、騎士が戻ってきて猛烈に走ってきて、ムカデの前に滑るように着地した。


「【挑発】! 【足止め】!」


 騎士がムカデにスキルを発動し、完全に足止めされたムカデが騎士に襲いかかった。


 騎士とムカデの戦いが始まった。

 騎士の剣はあの硬い外皮を切り裂いて、ダメージを与えている。


「いいぞ!」

「倒せる!!」

 防壁の上が歓声で湧いた。


 だが、皆が俺の目の前の出来事で盛り上がる中、俺の目はもう一つの土山が北門のど真ん前に突然現れたことをとらえた。

 地面の盛り上がりは、見る見る間に大きくなる。


 でかい!


「もう一体居るぞ!」

 俺が北門の上の連中に向けて叫んだ瞬間、その土山は北門のどまん前で地面を爆発させて正体を現した。

 

 もう一匹!

 こっちは10メートル以上もある大ムカデだ!


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