カリストレム攻防1
ガラス市長は一番の主戦場である北門が見える位置に陣取った。
彼は報告される戦況を聞きながら苛立ちを隠せなかった。
「城門を守れ!」
「城壁を登らせるな!」
カリストレム北門城門の上では兵士たちが声を上げている。
「弓兵は空を飛んでくるやつを狙え! 味方に当てるな!」
「魔術師もMPを惜しむな、回復はできる!」
巨大な虫たちは街の城壁をいとも簡単に這い上がってくる。
うっかり防衛戦を抜けてしまったモンスターや、飛行して頭上を超えてくるモンスターを弓隊が射抜いていく。
激戦だ。
ガラス市長は次々に入ってくる状況報告を受けながらしかめっ面で考える。
北門の攻勢が重すぎる。
人数が足りない。衛兵と冒険者たちだけであの物量をいつまで食い止められる?
とはいえ、市長はこれ以上北に兵を寄せるわけには行かなかった。
他の場所にも最低限の兵士は配置しておかなくてはならない。でないと、万一、東や西に敵の大勢が流れ込んだら街の防衛は一気に瓦解してしまう。
実際、東西どころか南から回り込んで攻めてきているモンスターも少なくない。
街の全方面にそれなりの人員を割いておく必要があった。
どうすればいい?
市長は頭を抱えた。
彼にできたことといえば、北からの伝令の負担を減らすために中央陣営を北に寄せたことくらいだ。
「おい、ガラス市長! あたしたちはどこに行くのが良い?」
そんな様子の市長に対し、礼儀も命令系統も無視した声が飛んできた。
「ニキラさん!!」
市長が声の方を見ると、元冒険者、カリストレムの英雄ニキラが巨大な斧を肩に担いで立っていた。
彼女の後ろには、ちょっと歳のいった100人以上の人々が各々完全武装で控えていた。
よく見れば、市長が子供のころ憧れたこの街のレジェンドたちが何人も混ざっている。
「元冒険者たちだ。ケーゴたちに言われて準備はしといた。お前ンとこの腐れ軍隊よりゃ役に立つよ。」
ニキラが不敵に笑った。
「世話になった街の危機と聞いてな。同窓会代わりに戻って来てやったぜ。」
「俺たちに任せておけ!」
「久々に大暴れしてやるぜ!!」
元冒険者たちはニキラの後ろから威勢のよい声を上げた。
「若いころにこの街で世話になった冒険者が現役引退含めてたくさんこの街のために駆けつけてくれたよ。」ニキラがどうだとばかりに笑った。
「ま、何もなかったら同窓会して帰るつもりだったんじゃがの。到着そうそうこれじゃもん。」元冒険者の一人がため息を付いた。
「ありがとう。助かる。北門の連中を助けてくれ!!」
市長の口調に少し明るさが戻った。
「「「おおう!」」」
一同から歓声が上がった。
「久々に腕がなるねぇ!」
ニキラはそう言うと、元冒険者たちを連れて北門に向けて進軍を開始した。
北門周辺城壁の上に陣取ったニキラは、城壁を駆け上ってくるモンスターに斧を振るって次々と叩き落としていく。
なまくらなニキラの斧がひとふりされるごとに1匹ずつモンスターが潰れていく。
「ニキラよ、お前にこの街の危機を伝えたというケーゴってのはどんなやつなのじゃ?」
ニキラの隣で剣を振っている爺さんが訊ねた。
爺さんの剣は無造作に振られているように見えるが、ひとふりごとに数匹のモンスターが真っ二つに斬られて落ちていく。
「抜け目がなくて嘘つくくせに、おせっかいでまっすぐだ。」
「矛盾してね?」
「さあね、神託受けたってのもアタシらに信じてもらうためのの嘘みたいだしねえ。そのクセ、その理由がアタシたちを助けたいってんだからさ。黙って逃げりゃいいのに。」
「その割にお前さんは、よくまあ、こんだけの人数に声掛けようと思ったもんだの。」
「悪いが、ガルブレス。声かけといてなんだが、アタシも正直、今日この時が来るまでこんなことになるなんて100%信じてたわけじゃねえよ。」
「でも、ケーゴとやらのことを信用はしとったんじゃろ? あんたが言っとるんだから、そこまで疑いはせんって。」
「別に、【読心】1レベルなんかじゃたいしたことなんて分かりゃしないよ。あたしがあいつを信じようって思ったんだ。」
「ワシもアンタの人を見る目を信じてるってだけじゃよ。良い奴そうじゃな。」
「ま、面白いやつだ。冒険者だってのに、トラブルにばっか首突っ込んでるせいで、まだ依頼の一つも達成して無いんだぜ?」
「草。愚か者なんじゃね。」
「愚か者ではあるな。」
二人は軽口を叩きながら、防壁を這い上がってくる巨大な虫たちをはたき返していく。
その時、
二人の会話をかき消すかのような轟音が響き、防壁の数百メートル先に光の柱が降り注いだ。
一瞬の光の柱の後には、100匹近いモンスターたちが円形に蒸散していた。
「なんじゃあ?」ガルブレスがあっけにとられる。
「なんだよ、この街にもいいもんあんじゃねえか。」ニキラも驚いて呟いた。




