訓練
明けて、朝。
夜の間に襲撃はなし。
襲撃の可能性があったせいで、気が張ってよく眠れなかった。
茅葺き亭のミーティングスペースに行くと、リコとヤミンがすでに降りてきていて、ニキラさんの作ってくれたクッキーをつまんでいた。
珍しく二人とも俺より朝早いあたり、昨日はあまり眠れなかったとみた。
挨拶をかわしながら同じテーブルに付いて、早速クッキーを一つ分けてもらう。
文無し、俺、食事もリコだのみ。
「昨日はモンスターは来なかったわね。」リコは眠そうに言った。
「計測器の数値のことは忘れて、満月の夜にくる前提で動こうよ。もし早く来たとしても、ギルドの人たちがなんとかして知らせてくれるはずだし。俺たちはできることをやっておこう。休憩だって大事だよ。でないと、いざってときに眠くて力が出ない。」
「そういうケーゴもすごく眠そうなのだよ。」そういうヤミンも眠そうだ。「で、今日は何をする? やっぱ魔石狩り?」
これからの防衛に備えて、カリストレムとしては戦いの間もつだけの魔石の入手が急務だ。
そんなわけで、買取価格が1.5倍になっている。
それはそれで大事だが、レベルの低い俺たちは優先すべきことがある。
「レベルを底上げしよう。」俺は提案した。
「訓練所か〜。まあ、少しでも生存率上げたいしそのほうがいいかなぁ。」
ヤミンががっかりする。
「街を守らなきゃだもんね。」
「いや、魔石狩りのついでにやる。」
「えっ? もしかしてモンスターと戦ってレベル上げするの?」リコが驚いた声を上げた。
「そうだよ。訓練場みたいに必ずしも狙ったスキルを上げられるわけじゃないけど、効率は実戦のほうが断然いい。」
「そうなの?」リコが疑うように俺を見た。
「モンスターと戦ってスキルが上がることなんて稀じゃない?」ヤミンも納得していないご様子。
「二人ともモンスターと何体くらい戦ったことがある? 倒せてなくてもいいや。」
「えーと、結構戦ってるよ。」リコが指を折って数え始めた。
「数えられる時点で駄目だよ。」
「リコは俺が1年で強くなったって驚いてたけど、じつは戦いのスキル取得に関して言えばレベル上げを始めて半年もかかってない。」
「え? 嘘でしょ? どうやって?」
「3ヶ月くらいほぼ毎日俺はスライムと戦ってた。」
「スライム・・・。」ヤミンがぷぷと笑う。
「その、笑ってるスライムだけで俺は【回避】9まで上げたんだぞ?」
「【回避】9? ケーゴって9レベルも回避あるの?」
ヤミンが驚いて立ち上がった。
「今は11レベルだよ。カリストレムに来る間、狼たちと4日間毎日4時間みっちり戦って2上げた。」
「4日で!?」
「早すぎる!!」
「【ゼロコンマ】おかげってのもあるけど、実戦で訓練すると伸びが大きいっぽい。」
「ふえぇ〜。」驚きのあまりヤミンから謎の声が漏れた。
「でも、そんなに頻繁にモンスターに出会うことなんてないわよ?」リコがごもっともな疑問を投げてくる。
「倒さずに戦い続けろってこと?」と、一つの最適解を口にしたのはヤミン。
でもそれじゃダメージ系のスキルが上がらない。
「俺はそうしてきたけれど、それだと【回避】や【受け】ばっかり上がってしまう。俺たちは襲撃相手を倒さなきゃいけない。それにモンスターを倒さないと魔石が集まらない。」
「じゃあどうすんのさ?」
「グリーンキラーを倒しに行く。【ファイア】禁止で。」
「ええぇぇ。」二人が驚きの声を上げた。
グリーンキラー。
キラープラントの中の弱いやつ。緑、紫、赤と強くなる。
ツルで攻撃してきて、牙の生えた花みたいなので食ってくる。
緊急時に急速増殖を行う。
いわゆる、RPGでいうところの『仲間を呼ぶ』的なやつだ。
つまり、グリーンキラーを増殖させながら倒していく。
アルファンでは養殖と呼ばれていた方法だ。
植物ならその場を動けないので、囲まれない限りは撤退は容易い・・・と思う。
俺が低レベルのときはまだグリーンキラーは実装されてなかったが、遅れてアルファンを始めたプレーヤーたちはみんなレベル上げでお世話になっていたようだ。
でも、時々群生が見つかっても焼き払ってしまうのがこの世界の常識。
ちょうどギルドにグリーンキラーの焼き払いの依頼が来てたのを憶えてる。
「あれ、炎じゃないと倒すの大変だよ?」と、リコ。「私、炎魔法使えるよ?」
「駄目。緊急事態だってことでクエスト凍結されちゃったんで焼き払ったところでなんの報酬も貰えないし。だから、グリーンキラーには僕らの訓練相手になってもらいます。」
焼き払うなどなんて勿体ない。
「というわけで、伸びしろの多い若手冒険者を集めてくれないか? 一緒にレベル上げして即戦力にしたい。」
というわけで、この話をしてから3時間もたたない午前のうちに、ヤミンの伝手で捕まえた6人組の若手冒険者パーティーとギルドで合流することになった。
「こんにちは、よろしく。ケーゴって言います。」
若手冒険者達に向かって丁寧に挨拶する。ファーストインプレッション大事。
「お前? 魔石狩りを一緒にしようとか言ってきたの?」
「なんかこの間の新人狩りも今回の騒ぎの『じょーほーてーきょー』したのコイツみたいよ。クエストこなさずに、情報提供ばっかりしてるんだってさ。もう情報提供君でよくね。」
「情報提供君、俺らにも『じょーほーていきょー』してくれんだ。ありがとない!」
感じ悪っ!
「なんだお前ら! 誘ってやってんのに!」ヤミンが冒険者たちの態度に噛みつく。
「タキニオの頼みってからわざわざ来てやったんだぞ。頼んどいて、ガミガミ言うなよ猫。」
「その、喧嘩は止めてください・・・」ヤミンの伝手、タキニオがおずおずとヤミンと仲間を見比べる。
「ごめん、ケーゴ。新人狩りのせいでろくな新人が残ってなかったみたい。」
「なんだとヤミン、てめえ! 獣くせぇお前が一番ろくでもねえんだよ!」
「なんだと! やるか。」
勘弁してくれ。
「まあ、待ってヤミン。」俺はヤミンをなだめてから、冒険者パーティーに向き直ってわざとらしく声をひそめた。「来てくれてありがとう。今回呼んだのは、実は効率の良いレベル上げ法を見つけたからなんだ。それを君たちにこっそり『じょーほーてーきょー』しようと思ってさ。」
「へぇ?」
一気に、冒険者達の目の色が変わった。
特別なレベル上げの方法と聞いて、タキニオ達のパーティーは半信半疑の様子ではあったが、とりあえずのところ、俺たちと一緒に来てくれることになった。
どっちかって言うと、ヤミンがぶつくさ言っててなだめるのがめんどくさい。
俺たち3人とタキニオたちのパーティー6人は街の南にやってきた。凍結中の依頼書に書かれていた場所だ。
幸いグリーンキラーの発生場所はすぐ見つかった。30株位の大きくはない群生帯だ。いい感じだ。
2パーティーとも俺の指示に従って、いつでも逃げられるような場所を選んでレベル上げを開始した。
俺がレベル上げの秘策として新人パーティーに伝えたことは、燃やすの禁止、範囲魔法禁止、という作戦だけだ。
俺の【回避】スキルが3ヶ月で11レベルになったと聞いて、半信半疑ながらも言いつけを守って戦っているようだ。
ちなみに、魔法使いと僧侶には魔力集中だけで実際には魔法は発動しないように伝えてある。本当に呪文を使っちゃうとMP切れたら終わっちゃうし。
魔力集中自体は訓練場でもよくやる訓練だし、実践の最中にやれば効率は上がるんじゃないかな?
そうだといいのだけれど、この世界ではまだ魔法使ったことないから実を言うと分からない。
そして俺たち。
ヤミンとリコについてはもうちょっとドSな命令を与えた。
「リコ! 上がりすぎないで! 踏みとどまって戦ってて充分。【受け】と【パリィ】!」
リコには盾を持たせてタンクとして俺の前に出てもらっている。
タンクにしたいわけではない。
リコの有り余る体力を持って、鉄火場にぶち込んで限界までスキル上げをさせる。これが今回のリコの成長作戦。
レベル上げ初っ端に【受け】がレベル6に上がったもんだからリコも舞い上がっている。テンションが上がってしまっていて無茶な特攻をしていきそうなのを抑えるので大変だ。
時々、突出しすぎてグリーンキラーの触手みたいなツルに絡め取られて、俺やヤミンが慌てて助けている。今もちょっと危ない。
「ヤミンさんは上がっちゃダメ!! その位置から【スナイプ】!!」
苦戦しているリコを助けようとヤミンが近づこうとしたのを静止する。
ヤミンには【遠距離】【スナイプ】【強弓】を重点的に鍛えさせている。なので遠くからの狙撃ばかりさせてる。敵がいっぱい居るので本当はたくさん攻撃してもらいたいのだが、いかんせん矢がただではない。
俺はステータスシートを見ながら【クリティカル】をメインで上げている。
リコを絡めとった触手を鞭で叩き落としたりするとめっちゃ上がる。
他にも鞭の攻撃を当てる向きや角度でも上がりやすさが違う。
ざっくり言うと、戦況に応じたタイミング、その時の攻撃の仕方、あたりどころの3つが良ければ【クリティカル】の上がりが良い。
リコがピンチになりそうなタイミングや、グリーンキラーの弱いところとかが解ってきたのででちょっとレベルの上がりが早くなってきてとても楽しい。
もうすぐ【クリティカル】3レベル。
ついでに、リコに向かう攻撃をいくつか叩き落としているせいか【パリィ】と【援護防御(鞭)】も上がった。
順調すぎる。
剣士5レベルのリコなら多少グリーンキラーにしゃぶられても大丈夫だろうから、ちょっと絡め取られるくらいで良いかもしれん。




