対策会議
しばらくギルドで待っていると、ヴェリアルドたちがギルドの役員を連れて戻ってきた。
その後、すぐにレモンさんがガラス市長を連れて戻って来た。
市長は入ってくるなり俺たちを怒鳴りつけた。
「感知計を見せろっ!!」
「ここでは0ですよ。」
俺はそう答えながら、ギルド内に回収してあった力場感知計の場所に案内する。
市長が感知計のスイッチを入れる。
さっきまで無表情だった感知計の表示は、『1』と『0』を言ったり来たりしていた。
「反応してる・・・。」リコが驚いた顔で呟いた。
「チッ!」
市長は大きく舌打ちして、俺に向き直った。
「すまなかった!」
そして、流れるような動きで俺に土下座。
おう!?
「もっと真摯に君たちの話を聞くべきだった。冒険者と思ってどうせ嘘だと相手にしなかった。」
市長は俺にこれでもかというくらい頭を下げた。
そして、今度はヤミンに向き直って、もう一度頭を下げた。
正座したままのスムーズな回転。
これは相当土下座なれしていると見た。
「マイルウンの少女もすまなかった。」
「別にそこまで気にしてないよん。」
ヤミンは手のひらを振って苦笑いをした。
「いまので手打ちです。一緒に対策を練りましょう。」俺も答える。
市長もここで後腐れを切っておきたかったから謝罪したはずだ。
大人の市長がこんな小僧に土下座までしたんだ。
市長の侠気にこちらも合わせよう。
シタラさんとかいうレモンさんの同僚が俺たちを会議室に案内する。
市長を誕生日席、俺たちが末席で真夜中にも関わらず緊急の対策会議が始まった。
「はじめに礼を言う。」市長がもう一度頭を下げた。「ケーゴ君の神託のとおりだった。疑ってすまなかった。」
神託なんて受けてない。なんか気まずい。
「まずは状況を確認したい。」市長は言った。
ヴェリアルドが地図を広げて、最も感知計の反応した場所を説明する。
「この谷の底ではずっと99が表示されていた。」
「99・・・。」
市長他、執行部の面々が青い顔で唸った。
「99って大きいんですか?」リコが訊ねた。
「過去ここまで高い数値は見られたことがない。モンスターが発生する直前にその場所で計ればこの位になるのかもしれないが。」市長が答えた。
「それはモンスターがもう発生してるかもしれないってことか?」ヴェリアルドが確認する。
「普通なら。」
「俺たちが言ったときはでっかいムカデと、ちょっとした虫系モンスターだけだったぞ? いつもより多かった程度だぜ。」カシムが首をかしげた。「街にもモンスターは来てねえはずだ。何かあったらダダウかダダマルから連絡が来るはずだ。」
「そう言われてもな。」
「普通は感知計の数値がいくつになったら危険と判断するんですか?」俺も尋ねる。数値の指標がいまいち分からん。
「感度計が反応したら連絡だ。どこかで、レイドボスの発生やマスジェネが起こる可能性がある。」
ってことは、さっきの0と1を行ったり来たりしてるのは十分にやばいわけね。
「やっぱりケーゴ君の行ってた通り、5日後の満月の夜なんじゃないかしら?」と、レモンさん。
「でも、裂け目の下では99でした。何でモンスターはまだ現れないのでしょう? モンスターが多すぎて谷のどこかに詰まっちゃって動けないとか?」リコが何やら可愛らしい仮説を発表した。
「流石にそんな都合のいいことはないだろう。」ヴェリアルドが否定する。
「いや、あるかもしれねえ。」カシムが何かを考えるように言った。
「そんなアホなこと、ありうるか?」
アホなことと言われて、リコが赤くなって縮こまる。
「いや、詰まっているのは力場だ。溜まっていると言ったほうがいいのか。」カシムは言った。「谷底だから、魔力的な力場が拡散せずに溜まったとしてもおかしくねえ。」
「崖に挟まれてるから、力場がこもっちゃって高い数値が出てるってこと?」ヤミンがカシムの説明を先回りして訊ねる。
「そうだ。」カシムがうなずく。
「なるほど。だから、湧き場が近いにのに街では反応がなかったのかもしれない。」市長が得心のいった様子で言った。「断言は危険だが、ありそうな話だ。」
「力場がこもったせいで、モンスターの出現が早まったりしたりしないですよね?」ヤミンが不吉なことを訊く。
「・・・・。」
みんな、不安そうに互いを見合った。
だけど、誰も安心材料を口にできない。
「と、ともかく! まだ連絡は入っていない。いつ襲撃があってもいいように動こう。」
市長が提案し、今後の対策案が始まった。
会議では色々な案が出され、どんなに可能性が低くてもダメ元で実行すると決めた。
まず、王都への援軍要請。
ちなみに王都へは急いでも片道1週間。
次に、カッセルへの援軍要請。
カッセルまでは片道2日だが、大地の裂け目を挟んで向こう側にある。当然カッセルだって危ないわけで、援軍は期待できないかもしれない。
次に近い大きな街のレレムは片道5日。一応、こちらにも援軍要請。
その他、近場の小さな村にも援軍要請。ただし、どこもランブルスタのような感じなので大した兵力は居ない。それに、カッセル同様、カリストレム近くの村だって危険だ。援軍をよこす可能性は低い。
次にマスジェネの発生場所の監視。
これについては、この会議の後、ヴェリアルドさんたちが裂け目へ行って見張ることに決まった。何かがあったら狼煙で連絡がくる。
明日からはギルドの上位冒険者たちが彼らと交代でマスジェネの発生を見張る。
そして、街内での動員可能な戦力の確保。
ギルドは可能な限りの冒険者を集めて支援。
市長は街の兵士を休務中の人たちも含めて召喚。可能な限りで連携などを訓練。
兵士についはカリストレムで動員できるのは約500程度だそうだ。
志願兵の徴募も行う。
その他、武器、魔石、回復薬などの確保と調達。
神殿への伝達。
この場で決まったのはこんな感じ。
その他、避難誘導とか戦いに関係ないところは市長が庁舎に戻ってから決定する。
胃が痛い。
アルファンで勝利したイベントでだって、NPCはたくさん死んでんだ。
そのイベントに、今回はリコとヤミンが居るのだ。




