権力者たちは騒ぎ立てるのを嫌う
「ただいま、戻りました。」リコが元気よくギルドの扉を開けた。
日も沈んでしまったギルドには冒険者は誰もおらず、レモンさんだけが受付で何かの書類をまとめていた。
「遅かったわね。心配してたのよ?」
これでも早かったほうなんだぞ?
「ごめんなさい。でも、ケーゴが【ゼロコンマ】ってスキルを使ってすごかったんですよ! おかげですごく調査が進んだんです!」リコがレモンさんに嬉しそうに言った。
リコはなんかめっちゃニッコニコでレモンさんに今日の出来事を報告し始めた。
何で、今日のこの一日の後にそんなキャッキャできるねん。
ちなみに、ヤミンは横で床に伸びてる。
「良く分からないけど、機械の数字は変わらないけど、大地の裂け目の方角にいくと反応が強くなるってっこと?」
「はい。多分、大地の裂け目の中かその向こうだと思います。」
結局、今日は何か変な場所はおろか感知器の数字が1以上になる場所も見つけられなかった。
「さすがに、裂け目の辺りまで行くとモンスターや野盗が出てくるので、俺たちだけで行くのはやめときました。」
ホントは疲れたから帰りたかったの。
「あら、そう。じゃあ、同行してくれる有志を募ってみるわね。」レモンさんが呑気に言う。
「それと、魔石を一個で5000の魔導力とかの有るじゃないですか。あれ貰えませんか? あの数は重いんです。」
「3つ4つならあるかもしれないけど、ちょっともったいないかなあ。」
「いや、ホント、タル運ぶの嫌なんですけど。」
「でもあの手の魔石価格がとても高いし・・・。」
「大丈夫ですよ。私たちが頑張って押しますから。」横に居たリコが余計な口を開く。
「リコはちょっと黙っててくれるかな?」
リコにじっとガンを飛ばす。
「うん・・・。」
リコはもじもじと下を向いて黙った。
「さすがに、あの重さを持って動いて、パーティーにお金が入らないのはあり得ません。レモンさん、協力するって言いましたよね? どうにか入手できませんか?」
「お金の問題よりも、あれ、この街だと常に品薄でなかなか手に入らないのよ。」
「え、アレって、そんなにレアなんですか?」
「高級魔石なんて、そうそう王都から出てこないわよ。あれ、S級モンスターとかからしか取れないもん。」
アレ? マジであれって入手困難なレベルのもんだったのか。
スージーがめっちゃ喜んでたわけだ。
「それなら、ランブルスタのマディソン商店に少し在庫があると思います。調達してもらえないでしょうか?」
「良いわよ? ランブルスタなら2日もあれば馬で往復できると思うからギルドの買い付け商人さんに頼んであげる。その代わり経費よ?」
今回かかった経費は、俺の神託が外れた場合、俺らパーティーが背負う事になってる。
「経費になっても構わないのでお願いします。」
リコは俺が何の交渉をしているかよくわかってない様子で、なんだかキラキラした目で俺のことを見ていた。
と、
ギルドの入り口が乱暴に開かれ、怒鳴り声にも似た大声がギルド内に鳴り響いた。
「ちょっと、いいか!」
入って来たのはこの街の市長とラミトス神殿の司祭だった。
「ガラス市長、バルザック司祭。どうしました?」
「レモン君! これは、どういうことかね!」市長が言った。「あんたんとこの冒険者のせいで街が混乱している!」
「何のことでしょう?」
「お前たち冒険者が、この街が滅ぶと神託を受けたと触れまわっていると聞いたぞ!!」
「神託を受けたなどとでたらめを吹聴する愚か者をここに差し出しなさい! 私やこの街の敬虔な信者を差し置いて神託を授かるなんてことありえません。」バルザック司祭も続く。「なんと思い上がった行為か。身の程知らずめ!」
「しかし、そこにいるのケーゴ君がそのような神託を受けたと言っています。司祭様も神託を受けていたのを見たのでしょ?」そう言って、レモンさんが俺を見た。
いやん。
気配消してたのに、巻き込まないで。
司祭と市長がグリンとこっちを向いた。
「市長、この者です。下賤の流民にもかかわらず神託を騙って教会に居座ったのは。やはりこいつが流言の根源だったようですね。」
「お前か! モンスターが現れるなどと流言を吐いているのは!」
「流言なんて酷いです。ケーゴはこの街が滅んでしまうかもしれないのを救おうとして駆けまわってるんですよ。」リコが食ってかかった。
「ネズミ一匹がかけまわるだけで、病気は街に蔓延できるのです。」バルザック司祭が俺の方を向いた。「あなたは、悔い改め、自らの嘘を恥じ、街の皆に懺悔してまわりなさい。『私ごときが神託を受ける訳ありません』と。」
「ケーゴが神託を受けてないなんてなんで言えるんですか?」リコが俺の代わりに司祭に突っかかる。
「我々司祭ですら一生のうちに神託を受けられるとは限らない。品格の乏しい子供ごときに神託が降りてくるわけがない。あなた達は自らがどれほど汚らしく無能であるかもっと認識すべきだ。あなた方には金も力もない。王都の英雄と呼ばれるような方とは違うのです?」司祭はリコを蔑むように見下ろしながら言った。「目を覚ましなさい。」
「知恵の神が見た目や立場で人を判断する訳ないでしょう!」
「思い上がらないように。ラミトス様があなた達のような知性の欠片もない者に神託を下すことなどありえません。自分たちが認められないからと、偽ってまで身を高めようとするその根性に吐き気がする。」
「司祭の言うとおりだ!そのような嘘を街に広めるなど迷惑千万。これ以上流言をばらまくならば犯罪者として捕まえるぞ!」市長が怒鳴った。
「でも、このままじゃ街が滅びるのかもしれないんです。」俺も反論する。
市長が協力してくれないことにはこの街の防衛がままならない。
「ほら見なさい!!」司祭が鬼の首でも取ったかのように叫んだ。「こいつは『かもしれない』などと宣った。今になって自分が嘘をついたのが恐くなったのだ。」
「そんなことありません。俺だって突然未来を教えられたからって100%信じられるわけがない。」
「神の言葉を信用しないものに神託など降りてくるものかっ!!」司祭が俺に指を突きつけた。
「降りてきたものはしょうがないでしょ。」もう、売り言葉に買い言葉だ。
「ならば小僧。神の神託をどのようにして神託の場に赴いたか申してみい。」バルザック司祭は追い詰めるように質問をしてきた。
やべえ。
神託の授かり方に正解とかあるのか?
神託なんて受けたこと無いから解かんない。
とりあえず、適当なこと言って開き直るしかない。
「身体が空に舞い上がる感触のあと、気づけば俺は空の上のような明るく開けた場所で神々しい存在と対峙していました。」
俺はアサル神と会った時の事を思い出しながら答える。
「ぬ!」司祭がひとこと唸って黙った。
正解だったっぽい。
「ほら、言ったじゃない! ケーゴが嘘なんてつくわけないじゃない!!」リコのフォローが心に痛い。
「そんなものは、経典さえ呼んでいれば誰でも答えられましょう。」
じゃあ、なんで訊いたし。
「では、ラミトス様は・・・
「あんたさあ、知識ひけらかして、ケーゴやり込めようとするのやめなよ。」
司祭の言葉を遮ったのは、カウンターの下でへばったままのヤミンだった。
「なっ! 小娘がなにを!」
「どうせさ、すぐに、ケーゴが神託を受けたか受けてないかなんてはっきりわかるじゃん? だったら、それまで待ったら? それともアンタじゃなくてケーゴが神託を受けたのがそんなに悔しいの?」
「ぬぬぬ・・・不遜きわまりない小娘め! そのようなざれ事、論ずるだけ無駄だ。」
「もし、私たちの言ってることが本当だったとして、それを今アンタらがが止めたらどうなるか分かってる? リスクを考えたら市長も私たちに動いてもらったほうが良いはずよ。」
「・・・・。」市長はヤミンの真剣な返しに少し考えてから問うた。「お前たちは本気で街が滅ぶとでも思ってるのか?」
「違うわよ。私達は街を救いたいと思ってるの。」
「そうよ! 私もこの街助けたいもん。」リコもヤミンに賛同する。
「・・・・解った。よかろう。その代わり街に魔物の群れが現れなかったら、その時は憶えているといい。」市長は俺たちに冷たく言いはなった。
「神の名を語る不届き者は八つ裂きにされた方がマシな目に合わせてくれよう。覚悟しておきたまえ。」バルザック司祭が市長の後を継いで言った。「神の名を汚し、身の程をわきまえず、下賤の民の身でありながら我々市民の生活を不安に貶めた罪は重いぞ。」
知の神の司祭が吐く言葉かね?
「いいわよ。私たちは街を救いたいだけだから。邪魔さえしないでくれればOK。市長もそれでいいわよね?」ヤミンは挑発するように言った。
「望むところだ。」
「生意気な小娘だな。獣人のくせに。」バルザック司祭が床に座り込んだままのヤミンに詰め寄って上から睨みつける。
「行くぞ。司祭。こいつらの罪はどうせすぐに判る。」
市長はヤミンを睨みつけた後、司祭にそう言うと、ギルドを出ていった。
「ふん。薄汚い連中が。ラミトス神は貴様らのような品性の乏しい存在がつけあがることを許すことはない。」
そう捨て台詞を吐いて、司祭も市長を追いかけて冒険者ギルドを出て行った。




