感知機がとても重い件
「重い・・・。」
俺の引いているリアカーを後ろから押しながら、ヤミンが弱音を吐いた。
「レモンさん、鬼かよ・・・。」
リアカーを一生懸命引っ張っている俺も弱音る。
他が女子なのでプライド的に手が抜けない。ギルドの誰かに手伝ってもらえば良かった。
「二人とも頑張って! まだ全然チェックできてないわよ。」リコが俺たちにはっぱをかける。
リコもリアカー押してるはずなんだけどなぁ。
なんだったら、今やリコが押すのやめるとまったく動かないんだけど。
現在、俺たちは力場感知器を乗せたリアカーを引っ張って、カリストレムの外周の草原をぐるっと調査中。
この機械で魔物が湧く可能性を測れるらしい。
レモンさんが力場感知器を借りてきてくれたのは良かったのだが、まあ重い。
力場感知計だけならまだいいんだが、動かすための魔石の量がこれまた多い。
今日はカリストレム北部を40箇所くらい測定予定なんだけど、そのために必要な魔石がマディソン商店で見たことある樽で3樽分ある。これが重い。
もちろん充魔器も重い。
加えて、道が悪いのでリアカーも重い。
まだ午前中なのに足も手もパンパン。
「そろそろ、休もうよう・・・」
ヤミンはぜえはあ言いながら弱音を吐くと、リアカーを押すのをやめて座り込んだ。
さっきチェックしたところからまだ1キロしか進んでない。
「そうね、だいたいチェックポイントだしここで測定しちゃおうか。」
リコの言葉を聞いて俺もその場に座り込む。
ゲーム時代はボタン押すだけだから楽だったのに・・・。
俺とヤミンがへたり込んでしまったなか、リコだけが元気に力場感知器をいじくりまわして起動した。
「ここも0か〜。」
そう言いながらリコがポケットから取り出した地図にメモを書き込む。
俺には0.00004626って見えてる。
この数値が高いのか低いのか解らん。
俺以外の誰にも小数点以下なんて見えてないんだろうから、きっと誰も解らん。
一体どうゆう仕組みなんだろうか。
「よし、次行こう!」リコが元気よく言った。
「休憩短い~。」ヤミンはリアカーを背もたれにして完全に座り込んでしまっている。
「もー情けないな~。じゃあ、ヤミンは少しリアカーに乗って休んでて。私とケーゴで押してって上げる。」
「アホか! ムリじゃぁ!!」
アホか! ムリじゃぁ!!
「二人共、今日中にあと26か所回るのよ? 日が暮れる前に帰れなくなっちゃうよ。」
まだ昼前なんですが? もう夕方の心配してんの? 気楽にいこうよ?
「まだ、昼前なのよ? もう疲れちゃったの? 気合入れて行こっ?」リコが無邪気に言った。
「ぐぬぬ・・・」ヤミンが歯を食いしばって立ち上がろうとする。
やめろ。立つな。
お前が立つと俺も立たねばならぬ。
「どーだ!」
ヤミンが立ち上がった。
仕方なく俺も立ち上がるが、もうプライドは立ち直らなかった。
「頼む・・・前、変わってくれ・・・」
元気の有り余ってそうなリコにお願いする。
なんで、こんなタフな人間が居て俺が前を引かにゃならんのだ?
「いいよ。ケーゴ、疲れちゃった?」
「何でリコはそんな元気なの?」
「リコは・・・【体力】【持久力】【忍耐】持ち・・・体力お化けなのだよ・・・。」ヤミンが肩を上下させながら言った。
「えっへん!」
そうだったのか・・・俺、昔よくリコと修行できてたな・・・。
レモンさん、リコのスキル当てにして今日のチェックポイント数決めたな?
「じゃあ、私、前引くね。」
そんなに体力余ってるなら一人で引いて欲しいところだが、リコは【筋力】があるわけではないのだ。俺とヤミンもおさないと動かない。
ままならん。
俺が後ろに回って、リアカーを押そうとすると、装置のモニターがまだ点いていた。
「リコ、装置のモニターが・・・
そう言おうとしたとき、
リアカーがちょっと動くのにあわせて、0.00004626の表示が0.00004627に変わった。
「なに? ケーゴ?」
「いや、ちょっと1メートルくらい進んでくれないか?」
俺はリコとヤミンにそう言って、自分も台車を押す。
リアカーのタイヤが回るに合わせて力場感知器の数値が変化する。
『0.00004629』
「今度はちょっと左に曲がって1メートルくらい押してみてくれないか?」
「分かった。」リコが答えてリアカーを回す。
「ケーゴ・・・。無駄なうごき・・・やめて・・・。」
いかん、ヤミンがグロッキーだ。
『0.00004645』
これいけるじゃん!
「はいはい。リコ! ヤミンさん!」
俺は後ろから手を上げてリコにアピールする。
「どうしたの?」
「ぜえはあ。」
「作戦会議お願いします。」
「賛成・・・」そう言ってヤミンが地面に伸びた。
俺は二人に提案をする。
「今日はチェックポイントを回るのをやめよう。」
「え? それじゃ、マスジェネの発生場所を突き止められないわよ。」
「ぜえはあ。」
「いや、他の方法でいこう。」
「他の方法?」
「俺は【ゼロコンマ】で1よりも少ない数が見えるんだ。」
「1より少ない数??」
「ぜえはあ。」
二人が不思議そうに首をかしげた。
「俺、小数点以下が見えるんだ・・・。」
「小数点??」
「小数点ってのは・・・」
と、小数についての説明を始めるがリコには全く刺さらない様子。
「例えば・・・
一生懸命説明するも伝わらない。
俺、小数ってどうやって憶えたんだっけ?
ヤミンに至っては俺が難しい話を始めたのを幸いと、全力で休んでいる。
「う~んと、【ゼロコンマ】を持ってると、この機械で表示できないくらいのちょっとの変化も分かるんだよ。」諦めて小数から離れて、別方面から攻める。
「? いろんなゼロがあるってこと?」リコが首をかしげた。
「そうそう!! 俺にはいろんな0が見えるの!」
もうそれで良いや。
「【ゼロコンマ】ってそんな能力だったんだ。それがこの装置の役に立つの?」
リコは素直に疑問だったようで、どストレートに訊ねてきた。
「リアカーをいろんな方向に押すと、俺にはいろんな0が見える。だから、その中の一番正しい0を選んで進めばいい。時々方向を確認すれば迷わないし、最短ルートで進めるはずだ。」
「なるほど? ケーゴが自信あるならやってみよう。」
リコが理解してないながらも納得してくれたようなので、ぜえはあしているヤミンを休ませたまま、二人でリアカーの向きを変え、感知器の数値変化をチェックする。
ここから西寄りの北西が数値が高い。
大地の裂け目の方角だ。
数値が高い場所が一箇所ならば、数値の高い方角にひたすら進んでいけば一番力場の歪みが大きい場所へとたどり着けるはずだ。
俺たちは、方角を定めるとヤミンを起こして、重いリアカーを押し進め始めた。
頼む。重いから早く何か見つかってくれ!




