作戦開始
朝の会議が終わり、早速、作戦開始だ。
最初は冒険者ギルド。
ちょうどユージの手配用の似顔絵を作るために俺たちは呼ばれている。
一昨日さんざん喚き散らして、カウンターに有り金叩きつけて依頼をねじ込んで来たものだから、俺はとても入り難い。
リコとヤミンの後に隠れるようにギルドに入っていく。
「こんにちは、レモンさん。来ましたよ。」
ヤミンがレモンに声を掛けた。
「あ、お待ちしてました。ちょっとお待ちくださいね。」
レモンさんはそう言うと、隣にもう一人いた受付の女の人に何やら仕事を引き継ぐと、俺たちをギルドの奥の小部屋に案内した。
「じゃあ、【似顔絵】で手配書を作成していきますね。」
机の向うで筆ペンを持ったレモンさんが腕まくりをした。
「あ、その前に。ご相談があるんです。手配書づくりが終わった後少しお時間いただけませんか?」リコがレモンさんに訊ねた。
「手配書作るのに時間がかからなかったらいいわよ?」
「ありがとございます。」
「じゃ、始めるわね。」
そう言うと、レモンさんは俺たちに色々と質問を始めた。
レモンさんは最初にユージについてではなくガラドの人相を俺たちに尋ねて簡単な似顔絵を作成してから、ユージの似顔絵を作成し始めた。チューニングかなにかなのだろう。
描き始める前に自ら得意だと豪語していただけあって、出来上がった似顔絵は間違いなく俺たちの見たユージだった。
「すごいっすね・・・。」
「レモンさん、他の街からも依頼が来て描くことあるくらいだから。」
「エッヘン! もっと褒めて!」
「次代のギルマスよね。」
「めんどくさいから、それはやりたくないんだけどね~。どっかで、ニキラさんみたいに逃げるつもりよ。」レモンさんはそう言うと、話を切り替えた。
「で、さんざんおだてて、何の話?」
「ギルドに協力がしてもらいたい事があるんです。」リコが説明を始めた。「実はケーゴがラミトス様から神託を受けてしまったみたいで・・・。」
「え゛? マジで神託受けてたの?」レモンさんが驚く。
「『マジで』?」
神託の事を知っていたかのような発言が帰ってきたので、俺たちはレモンさん以上に驚く。
特に俺。
だって、ホントは神託なんて受けてないんですけど?
「昨日、ラミトス神殿のバルザック司祭から、大祭壇で祈りを捧げる貧しい人を冒険者を使って追い払いたいっていう依頼が来たのよ。」
おおっ! あの司祭か!
そういや、俺、神託自体は受けてたんだった!
アサルからだけど。
「小汚い少年が神殿の祭壇を長々と占有したあげく、神託を受けたとか言い訳して開き直ったって。何か、司祭の言ってる見た目がケーゴ君ぽかったから、ケーゴ君が新人狩りについて何か神託を受けてたんだったりして、なんて思ってたのよ。」
「えーと、新人狩りの件は実は関係なくて、別の神託を受けました。」
「ほんとなの?」
「この街が滅ぶらしいっす。」
「へぇ~。」レモンさんが他人事のように一度流す。そして、驚く。「えっ!?」
きれいなリアクションだなぁ。
俺はレモンさんに、『白染めの丘が満月にてらされる時、8万の獣たちが襲い来る。』という神託を受けた旨を説明した。
「まあ、司祭様が見てたわけだしねぇ。う~ん。」レモンさんが俺の説明を聞いて考え始めた。
まさかのあのムカつく司祭案件がプラスに!
「まあ、ワザと神殿で既成事実を作ってからギルドに来るってのもできないわけじゃないけど・・・」
「本当ですよ!」ヤミンが机にドンと手をついてレモンさんに向けて身を乗り出した。「ケーゴはそんな小ズルいことしません。」
しますけどね。
つき合いの長いリコからはフォローがない。くそう。
「そうよねぇ。嘘ついてると思っているわけじゃないけど、かと言って、完全に信じて全力で動けるかっていうとそうもいかないのよねぇ。」
それ、この間似たようなの聞いた。
「とりあえず、協力はするわ。正直半信半疑だけど。」レモンさんは言った。「でも、最初は本当に8万のモンスターが出てくるのかの確認からね。そこがハッキリしないと大袈裟には動けない。」
「ニキラさんにも言われました。」リコがその程度は承知していたとばかりに同意する。
「スタンピードなのかマスジェネなのか分らないけど、場所を特定しないと行けないわね。スタンピードなら商人や他のギルド伝いで調べれば情報が得られると思うわ。そっちはやっとく。問題はマスジェネよね。」
「スタンピード? マスジェネ?」リコとヤミンが不思議そうに首をかしげた。
「スタンピードは魔物の大移動の事。何かから逃げてくることが大半ね。マスジェネレーションは突然の魔物の大量発生。過去には街の中にマスジェネが起って街が滅んだ例もあるわね。邪神ドゥムジアブズが召喚してるってのが定説。」
邪神ドゥムジアブズってのは、レイドボスを召喚しているとされる神様の事だ。あ、アルファンでの話ね。
多分、この世界でもそうなんだろう。
「スタンピードはともかく、街中でマスジェネなんて起ったらたらどうしようも無い気が。」
「それは大丈夫。『力場感知器』ってのがあって魔物が召喚されたり発生したりする前の兆候を計測できるから。もしこの街で8万ものマスジェネが起るんだったら、もうとっくに検知されてると思うわ。」
「なんでそんな物があるんです?」
「ある程度の街ならみんな持ってるわよ。それでレイドボスの出現を予知するんだもん。」
そうだったのか・・・。
レイドボスは王国からのお達しという形でゲーム内で告知されてたけど、あれもNPCたちが自力で突き止めて告知を出してただけで、運営はレイドについても何も告知してなかった疑念が出てきた。
「そうだ。その『力場感知器』で今回のマスジェネも感知できないかしら? ホントに8万ものマスジェネなら感知も簡単だと思うのよね。多分『力場感知器』で見つけられるはずだから、街の近くをチェックしてきてくれない?」
「私たちが行くんですか?」ヤミンが訊ねた。
「そりゃそうでしょ。」
「報酬は?」
「なに言ってるの?」
「NOoooooooっ!」
ヤミンが頭を抱えて絶叫する。
消耗品の多い弓士は常になにかと金がない。
「本当に街の危機を救ったってなれば、絶対市長とか王様とかが報酬くれるから。」
「来なかったらないんじゃん。」ヤミンが不平を漏らす。
「それこそ自業自得じゃないの。」レモンさんは当然のように微笑んだ。
というわけで、レモンさんが力場感知器とかいうのを借りる手配している間に、俺たちは冒険者たちに個別に声をかけるためギルドの近くの酒場へとやって来た。
酒場はまだ夕方手前だというのに、早めに仕事を終えた冒険者たちが何グループか飲んでいる。
何人かは昨日の新人狩り祝勝会で見た人だ。
俺たちはテーブルを回って彼らに神託の話をして、何かあった時の協力をお願いする。
「本当かよ?」
「さすがに信じろって簡単に言われてもなあ。」
冒険者たちは顔を見合わせた。
「何だって冒険者なのにラミトス神殿なんて行ったんだ? ベルゼモンならまだしも。」
「初めて街に来て建物が綺麗だったので観光のつもりでふらっと入ったんです。」
これはホントだし。
「そういや司祭から何かいけ好かない依頼が来てたな。貧乏人を追い出せみたいな。あれ、もしかしてお前のせい?」
「そうみたいです。レモンさんにも言われました。」
「マジかよ。」
また、この流れ。
何か恥ずかしくなってきた。
「どっちかってと逃げ出したほうがいいんじゃないか?」
「でも、それだったら神様も逃げろって言うと思うんですよね。でも、信者でもない冒険者のケーゴに神託が来たってことは、冒険者でなんとかしろって事じゃないですかね?」
ヤミンが横からナイスなフォローを入れてきた。
「なるほどなぁ~。ギルドの僧侶たちは司祭がめんどくさいからって神殿なんていかねえしなぁ。」
冒険者が納得しかかっている。
ナイスだ、ヤミン姉さん!!
後で、さんざん姉さん扱いしてやろう!!
「うーん。協力ってのは良いが、さすがにそれだけあやふやだと、俺たちもどう協力していいやら分からん。冒険者稼業だって仕事だからなぁ。」
「本当に8万とか来るんだったらギルドの面子だけじゃ絶対足りません。みなさんのツテでも人を集めるのを手伝ってくれませんか? とりあえずは万が一の時に駆けつけてもらえるようにしておいてくれるだけでいいんです。」
「まあ、いいぜ、そんくらいだったら。」
「リコちゃんとヤミンちゃんの頼みだしな。まかせときなよ。」
「サンキュー、みんな。」
「ありがとうございます。」
ヤミンとリコが礼を言うのに合わせて、俺も後ろで頭を下げる。
とりあえずは、オッケーかな。
何か、リコとヤミンとついでに司祭のおかげでわりと順調に話が進んでる。
こんな怪しい話、日本じゃ絶対信じてもらわれん。
この世界の人は皆なんだかんだで優しい。
これなら、何の障害もなく人を集められるかもしれない。
宿に戻ってからは各方面に書面だ。
まずは、唯一のコネクション、マディソン商店に適当に現状を伝える手紙を書く。
ある事ないこと書こう。
「無いことは書いちゃだめよ。」
リコに怒られた。
あと、アルファンプレイヤーとして俺が知る限りの釣れそうな団体に手紙を書いておこう。
もし間違ってたとしても街は助かるんだ。
読んですらもらえないかもしれないし、恐らく、届かないのがほとんどだろう。
でも、やらないよりましだ。
王都、王立騎士団、魔術研究所。
各所に手紙をしたためる。
国の重鎮の公爵とかも出しとこう。なんの関係もない新人冒険者からいきなり手紙が届いたらビビるだろうな。
騎士団には上位冒険者しか知らない秘密ルート使って送ってみるか。
誰でもいいから引っかかってくれますように。




