カリストレム防衛作戦
アルファンのモンスターの襲撃イベント。第一回目がカリストレムだった。
運営は何の告知もなしに突如モンスターでカリストレムを襲撃した。
当然何の準備もしていないプレーヤー側は一日にして負け、カリストレムは滅んだ。
ほとんどのプレーヤーがカリストレムが滅んだ後になってようやくイベントが開催されていた事を認識した。
もちろんネットは大炎上したが、すでに炎上慣れしていた運営は再び何の予告もなしに別の村を襲撃。
2回目のイベントでも村が一つ滅んだ。
イベントと言ってもたいしたことはない。
低~中レベルくらいのモンスターの大軍が街を襲うだけだ。
最初の1年間こそ6つの街や村が滅んだが、その後はプレーヤー側の勝利が最後まで続いた。
俺がリコたちのパーティーの一員になった次の朝、ヤミン主導でこの件に関する話し合いが朝一で行われることになった。
「作戦会議~!!」
ヤミンがバラエティーのあの司会者のように声を上げた。
「あたしゃ何に呼ばれたんだい?」
ニキアさんも呼んだ。
使えるコネは何でも使わんといかんというリコの提案。
「ニキアさんにも関係のあることなんです。」リコが真面目な口調で言った。
責任感の強いリコは俺の言葉を信じてくれたのか、割と真面目に考え込んでしまっている。
ちょっと心配。
って言っても、俺自身が気楽にはなれん。
ヤミンの能天気さが羨ましい。
「はい、そこのバカップル。暗い顔しない!」
「バカじゃないもん!」「カップルじゃないし。」
リコと俺が同時に反論する。
「息が合ってんのか、合ってないのか・・・。」
ヤミンが呆れた顔をする。
「話があるってんなら始めちゃくれないかね。あたしだって暇じゃないんだ。」
ニキアさんが俺らのじゃれ合いを静止した。
「実は、ケーゴが神託を受けたみたいなんです。」リコがニキアさんに説明を始めた。「再来週この街が滅ぶって。」
「おやまあ。爆発でもすんのかい?」ニキアさんが驚いてるのか驚いてないのかよく分からない声を上げた。
「いえ、モンスターの襲撃です。」俺は答える。
「神様にそう言われたのかね?」
「『白染めの丘が満月にてらされる時、8万の獣たちが襲い来る。』って言われました。」
俺はユージに言われたことをそのまま伝える。
アルファンのイベントでも、こんな感じの怪しい文言が街で見つかり、その謎を解ければイベントの発生時間が分かるって算段だった。
これを見逃がすと街が滅ぶ。
「なるほど、そろそろ白染めの丘のエーデルワイスが満開だ。で、満月の日にモンスターが来るってことか。だと、ちょうど10日後だな。それをあたしに相談してどうしたい?」
ニキラさんが尋問しているかのように俺を睨んだ。
「街を守りたいんです。」
「街を守るだぁ!? 本気か?」ニキラが今度は呆れたような声を上げる。
「本気! 本気!」ヤミンが言った。
「私たち、この街に来てまだ1年くらいだけれど、それでもいっぱい思い出あるし。街の人にも助けてもらったから。」リコも頷く。
「おいおい、8万ものモンスターをやっつける気か? 8万のドラゴンとかだったらどうすんだ? 普通逃げるだろ。」
そんなんは出てこない。
強いのはボスだけで後は弱いはず。
ボスも一匹ならカリストレムの冒険者たちでもなんとかなるはずだ。
神託されたなんて口から出まかせを言ってしまったので、アルファンのイベントについてなんて今更説明できん。
「そんなレベルの話だったら、ケーゴになんか神託しないわよ。」ヤミンが言った。
ニキラはヤミンを見ながら腕組みして考えはじめた。
「本当かどうかはあたしにゃ正直解らんが、アンタがそんな嘘をついてもどうしようも無いってのは分かる。信用するけど良いんだね。」
「その・・・間違ってたらごめんなさい。俺も正直確信があるわけじゃないんです。」
ニキラさんは困ったように俺を見つめていたが、やがて言った。
「いいさ。腹をくくろう。間違ってたらいっしょにあやまりゃいいだけさね。神はいつも気まぐれだからね。」
すみません。ほんとは神様からの情報じゃないっす。
「分ったよ。街を守る方向で話を進めようじゃないか。まず、もし本当に8万の獣が来るんだとしたら、アタシらだけじゃどうにもならねえ。人を集めにゃならないね。」
「ギルドに協力を求めるのは当然よね。」
「衛兵は・・・さすがに協力してくれないわよね。」
「市長に直談判して見ちゃどうだ?」ニキラさんが提案する。
「そんな簡単に会えるんですか?」
「コネを上手く使うしかないかねえ。まあ、街の一大事だ。結局は協力してくれるだろうさ。アタシも知り合いに声をかけてみよう。冒険者OBは何人も居るしな。」
「神殿は?」リコが提案した。
「あそこはダメだ。ラミトス信者以外の人間が神託を受けたなんてこと、あの司祭が認めるわけねえ。」ニキラさんが即座に却下。
「あー。そんな感じでした。長々祈ってたって追い出されました。」
あそこの司祭嫌い。
「だめかぁ。」
「神殿を協力させたきゃ市長経由だろうな。どのみち戦いになりゃ協力はしてくれっだろ。あとは、訓練所の連中にも声かけておきな。意外と力にはなってくれるはずだ。」
「酒場の人たちや、良く行く店の人にも声を掛けてみるね。」
「他の街にも連絡入れたほうが良いかも。」
「それは、ギルド経由がいいかもしれない。誰か街の名士にでも知り合いが居るんなら別だが。」
俺は現世じゃスージーくらいしかまともなコネが無い。
アルファン知識で動いてくれそうなところに当たろう。
それよりも心配なのは、
「このこと信じてもらえますかね?」
「信じてもらうにはモンスターが攻めてくることをハッキリさせないといけだろうな。お前の神託の話だけじゃ誰も動いてくれるところまではしてくれんだろう。神託以外のなんかしらの証拠が欲しいところだな。」
「そうだよねえ。」
ヤミンが頬杖をついた。
「レモンさんにも相談してみましょう。きっといっしょに考えてくれるわ。」リコが提案する。
俺、こないだ協力断られたから、あんまりあの人好きじゃない。
「魔石なんかも貯めておいたほうが良いかもしれん。それについてもレモンに話しときな。」
「なるほど、確かにそうですね。」
ニキラさん呼んだの、大正解だったな。
リコってこういうところちゃん気が利くから頭が下がる。
冒険者としては強さも含めて全然俺より前を進んでる。
朝一にこういう会議を主催したヤミンにしてもそうだ。
俺ももっと精進せねばならない。




