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神託の日

 神託の日がやって来た。


 飲んだくれの母はケーゴの晴れ舞台だというのに教会にはやってこず、その代わりに顔見知りの村人や子供たちが教会に押しかけていた。

 特にケーゴと歳の近い子供たちはみんな教会に集まっていた。


 教会の祭壇の前で神父を待っていたケーゴの所にリコがおずおずと近寄って来た。

「ケーゴ、誕生日おめでとう。」

 リコは真っ赤になってケーゴを見上げた。

 リコは成人したケーゴに真っ先におめでとうを言いたかったし、それをみんなに見せつけたかった。

「ありがとう。」

 ケーゴはにっこりと笑った。

 リコはますます顔を真っ赤にして満面の笑顔になった。

 顔を真っ赤にするほど恥ずかしいのに、わざわざ前に出てきてお祝いを言ってくれるなんて、リコはなんていい奴なんだとケーゴは思った。


「嘘つきケーゴめ! お前のウソがばれる瞬間を見に来てやったぞ!」


 リコが次に何かを言うのを書き消すかのように外野からヤジが飛んできた。

 村長の息子のマッゾだ。

「そうだ! そうだ! お前がどんな顔をするかみんなで見させてもらうぞ!」

 双子の弟のマッコが兄に合わせるように声を上げた。


 でっぷりとした兄のマッゾとやせっぽちの弟のマッコは普段からケーゴの事を目の敵にしていた。

 彼らは暴力を振るってくることこそなかったが、ケーゴを仲間外れにしたり、皆を集めてケーゴの悪口を吹き込んでいたりしていた。

 そのせいでケーゴは村の子供たちみんなから侮蔑の対象になっていた。

 今日村の子供たちが集まっているのもケーゴの神託を見てあざ笑うためだった。

 リコだけが頑なに彼らの仲間には加わらなかった。


「きっとケーゴは今日から急に無敵になるんだよな! ついにケーゴ様に時代が追いつく日が来たんだぜっ!!」

 誰かが揶揄して、子供たちがどっと湧いた。

「ケーゴ! ケーゴ!」

 子供たちがはやしたて始めた。

 周りの大人たちもそれをとめる様子もなくニヤニヤと笑っている。


 マッゾとマッコが言った通り、村人たちもケーゴの嘘がバレる瞬間を見に集まっていたのだった。


 ケーゴは以前、自分のスキルの事を相当に吹聴していた。

 子供時代のケーゴからしてみれば本当のことを言っているのに信じて貰えないのは辛かったからだ。

 だが、それを疎ましく思っていた村人が多かったのは事実だ。

 マッゾとマッコはそんな大人たちに声をかけ、この場に呼び込んでいた。


「気にしないで、ケーゴ。」

 リコだけがとても心配そうにケーゴの事を見ていた。

 そんなリコを含めて、誰一人、ケーゴが膨大なスキルを高レベルで持っているなんて事は信じていなかった。


 と、

 会場の喧騒が収まった。

 神父が入って来たからだ。

 リコはニッコリとケーゴにほほ笑むと、参列席に戻っていった。


 神父はケーゴの前に進み出てきた。


 (見てろよ! これから俺の本当の力をみんなも知ることになるんだ!!)


 ケーゴは村のみんなの態度にもいっさい動じていなかった。

 むしろ、レベルの数字が大きすぎて神父様が数え方を知らなかったらどうしようなどと心配をしていた。


「それではこれよりケーゴの成人の儀を執り行う。」


 ケーゴはゆっくりと跪いて頭を垂れた。

 神父は持っていた杖でケーゴの後頭部にそっと触れると、神に向けて厳かに祝詞を唱え始めた。

 やがて杖の先が青く光って、ケーゴの頭上に数値の書かれた小さな光る四角形が出現した。


 ステータスシートというものだ。


 これは神の啓示を受けた人が他人のスキルを見ることができる魔法だ。

 神父がケーゴのスキルを確認するために、神の力を借りて起こした奇跡だ。


 子供たちが16歳になったその日、彼らのスキルが神父によって発表される。

 村の人たちはこれを神託と呼んだ。


 大抵の人はこの神託の日には少なくとも3つか4つくらいはスキルを持っている。

 神託の時に急に新しいスキルに目覚める者も居る。

 この時にスキルが20個もあれば天才だ。

 だが、ケーゴは知っている。


 自らが神託の日を前にして、星の数ほどのスキルを持っていることを。

 そして、それらがどれもとんでもなく高いレベルであることを。


「・・・・・・?」


 ケーゴの前に開かれたステータスシートを見た神父が露骨に困った顔をした。

 神父の長い沈黙に村人たちは息を飲んだ。


(神父様、驚いてる! ほら見たことか!!)


 ケーゴは膝まづいたまま期待に満ちた目で神父を見上げ、得意気に尋ねた。

「神父様! 俺のスキルはどうですか? 【剣聖】は? スキルを全部読み上げてください!」

 神父はケーゴの物言いに少しうろたえた。

 神父の狼狽にケーゴは舞い上がった。

 思わず口元に笑みがこぼれる。

(ほら見ろ! 読み上げるだけで1時間はかかるぞ!)

 そんな、ケーゴの期待をよそに、神父はケーゴにとって非常な事実を伝えた。

 


「・・・ケーゴ君。読み上げるも何も君にはスキルが一つしかない。」



「えっ!?」予想外の神父の言葉に驚き、ケーゴは目を丸くする。


 万が一の可能性が無くなって、村人たちから落胆と安堵の入り混じったため息が漏れた。

 そして、音にして聞こえる失笑や悪口がケーゴの耳に届き始めた。

 神託の日はケーゴがずっと楽しみにしていた瞬間ではなかった。

 それは村人たちがずっと楽しみにしていた、嘘が暴かれたケーゴがガッカリとする瞬間だった。


「やっぱりな。」

「やっぱ嘘だったよ。」

「しかも、スキルが一つだけ? 才能ゼロじゃないか・・・。」


 村人は口々にケーゴの悪口を言い始めた。

 その言葉はケーゴの耳には届いていたが、ケーゴには聞こえていなかった。

 村人の言葉など気にならない程の驚きと絶望がケーゴを埋め尽くしていた。


「ケーゴ! ケーゴ! 剣聖ケーゴ!」

 子供たちが嬉しそうにはやし立てる。


「うそ、嘘だ・・・。だって、おかしい・・・僕のステータスにはスキルがいっぱいあって・・・数字が並んでて・・・ほら、こんなに。」

 ケーゴは自分のステータスを開いて、神父にも見てもらおうと必死にすがりついた。

「ケーゴ君、私には君の見ている物は見えないんだよ。」

「でも・・・ホントに・・・。」

「いいかげんに現実をみなさい。神託は正しい。」神父はケーゴの目線までしゃがみこんでピシャリと言った。

 子供たちはケーゴのその姿を見て、大騒ぎに拍車がかかる。

「嘘つき! それとも思い上がり?」

「剣聖! 剣聖!!」

「スキル1個だけの役立たずなのがついにばれちゃった!!」


 ケーゴの視界がぐにゃりとゆがむ。

 今まで彼の信じてきた世界が音を立てて崩れ落ちる。


「ざまあみろ!」

「散々大ぼら吹いてきたお前が悪いんだぞ。」

 村の子供たちが大声で喚きたてる。大人たちはひそひそと耳打ちし合い、子供たちを諫める様子もない。

 リコだけは心配そうにケーゴを見ながら、胸の前で祈るように両手を握っている。


「みな、静かになさい!」


 騒ぎ立てる観衆に神父は大声で怒鳴った。

 そして、続けて大声で宣言した。


「ケーゴは確かに一つしかスキルを持たない。戦いにも魔法にも生活に役に立つスキルもない。だけど、神はそんな彼に、彼しかもたない、そしてこの世の誰しもが得る事のできなかった希少なスキルを与えたもうた!」


 突然の神父の言葉に皆が押し黙った。

 そんな聴衆に向け、神父は高らかに宣言した。


「彼はSランクのレアスキルの保持者だ!!」


 途端に悲鳴にも似たざわめきが礼拝堂を覆った。


 Sランクスキル。

 それは【剣聖】がカテゴライズされているような希少なスキルのことだ。

 そして、スキルはレアであればあるほど価値が高く威力も高いのが普通だ。


 神父の言葉にケーゴはゆっくりと顔を上げた。

 ケーゴにとって希望の光が突然差し込んで来たのだ。


「俺に・・・何かあるんですか?」

「そうだよ、ケーゴ君。君はたぐいまれなるスキルを天から与えられたんだ。喜びたまえ。」

「ほんとに・・・?」

「そうだよ。」

 神父はにっこりと頷くと顔を上げて周囲を見渡した。

 ケーゴをバカにしようと集まっていた村人たちがまさかの展開に言葉を発することもなく息を飲んだ。

 もしかしたらケーゴがすごい人物である可能性が出てきてしまった。

 リコだけがケーゴのために一生懸命に祈りながら、神父の言葉の続きを待っていた。

「しかも、このスキルを君は8レベルも所持している!」

 神父はケーゴに伝えた。

 

「なんだって!?」


 礼拝堂に集まっていた村人たちから悲鳴が上がった。

 次の神父の言葉次第では痛い目をみるのは村人たちなのだ。

 彼らはレアスキル持ちをバカにしてしまった。

 それが強力なスキルならケーゴに報復されるかもしれない。

 恐怖が村人たちを包む。


 一方のケーゴは困っていた。

 何のスキルのことか知らないが、少なくともケーゴはたったの8レベルしかないスキルなんて持っていない。

 神父は村人の困惑もケーゴの困惑も気にせず、ケーゴの事を誇るように大声で宣言した。


「ケーゴはSレアスキル【ゼロコンマ】8レベルの所持者だ!!」


「「「【ゼロコンマ】8レベル??」」」

 村人たちは初めて聞くスキルに思わず首を傾げた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] いや、いくら強力なスキルがあろうと、 実際にリコに勝てないのだから、 そりゃ現時点ではギャラリーの言うとおり、 ないに等しいのでは
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